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姫野カオルコ著「昭和の犬」(幻冬社)

遠い日々をぎゅっと掴めたら、幸せに気付くのだろうか
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初読ではなく、再読である。同じ本を2回読むことはあまりしないのだが、急に読みたくなって手に取り、またしても一気に読んだ。
 改めて読み返してみると、これは新たな形の戦後史であり家族史や個人史でもあるのだな、と思った。実際、作者・姫野カオルコさんの、半生をモデルにした作品であるらしい。
 小説は、昭和30年代から平成19年までの世相を織り交ぜながら、主人公イクのかかわってきた犬や猫を時代のインデックスとし、イクの半生を描いている。
 小説を読んでいると、主人公イクの人生に伴走しながら、自分も犬や猫とかかわっている気分になる。しかし、わたしは、主人公に感情移入は出来なかった。それは、イクの態度が、子どもの頃から諦念していて、酷い仕打ちにあってもどこか淡々としていたからかも知れない。
 すぐキレる父と冷たくて意地悪な母。その暮らしぶりは、あまり幸せそうに見えない。イクは、今でいう虐待に近いことを両親にされても、けなげに耐えている。そして、その傍にはいつも犬や猫が、イクのこころの緩衝材のように存在していた。
 物語は5歳のイクから49歳のイクへと年代を追って流れていく。物語の終盤、初老になったイクが自分の人生を振り返り感情を揺らがせるシーン、そのモノローグに、今回も泣きそうになった。
 近くては見えないが、遠くから俯瞰したら、人生の見え方は変わってくる。「被らないですんだ不幸を数えれば、それは獲得したものとちがい目には見えないが、いっぱいいっぱいあるのではないか。」のことばが胸に刺さる。ひとの幸せ不幸せなんて、他人からは決められないんだと思った。
わたしも人生後半戦となり「はて、わたしの人生、これで良かったのか」と揺れることもあるが、読後の肯定感を抱き寄せ、安心し、本を閉じた。この物語の結末をいま一度味わいたい為に、わたしはこの物語を再読したのだと思った。
本の中で登場する「犬が笑う」のをわたしもいつか見てみたい。

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