igelmaus

美とは

igelmaus

美とは

最近の記事

エドヴァルド・ムンクと一元論的自然哲学

エドヴァルド・ムンク(1863-1944)が生涯を通じて多くの苦しみを抱えていたことはよく知られている。幼少期から次々と家族に襲いかかってきた病気と死、成人後の複雑な恋愛関係や精神疾患など、これまで彼の芸術を理解しようとする際には、作品をその壮絶な人生にナラティヴに重ね合わせ、その時々の局面に対する心理的な共鳴として読み解くことが定番となってきた。 オスロのムンク美術館、米国マサチューセッツ州のクラーク・アート・インスティチュート、ポツダムのバルベリーニ美術

    • ジェネラル・アイディア──増殖し感染するイメージ

      クリスマスにボンでポストモダン展(*1)を観てきた。その前にベルリンで見ていたジェネラル・アイディア展と時代的にも重なる内容だったため、ジェネラル・アイディアについて書いておこうと思う。 ジェネラル・アイディアは、フェリックス・パーツ、ホルヘ・ゾンタル、AAブロンソンの3人組の芸術家集団。1969年、カウンターカルチャーが盛り上がりを見せていたトロントで結成され、1994年にフェリックス・パーツとホルヘ・ゾンタルの2人がエイズで亡くなったことにより活動を終えた。 「メディ

      • イザ・ゲンツケン 《75/75》

        新ナショナルギャラリーでは、今年75歳になるイザ・ゲンツケンの作品を75点展示する《75/75》展が開催されており、キャリア初期から近年までの作品を時間軸に沿ってたどることのできる構成になっている。 ユニタリー・フォーム ゲンツケンは1973年から1977年までデュッセルドルフ芸術アカデミーで学んでいるが、すでにこの頃から当時隆盛であったアメリカのミニマル・アートに大きな影響を受けていた。そして1976〜1982年にかけて制作された《楕円体》と《双曲面》と名付けられたシリ

        • トリア・アスタキシュヴィリ The First Finger (Chapter II)

          ハウス・アム・ヴァルトゼー美術館でトリア・アスタキシュヴィリ『The First Finger (chapter II)』展を見てきた。トリア・アスタキシュヴィリ(Tolia Astakhishvili)は、1974年トビリシ(現在のジョージア)で生まれる。現在はベルリンとトビリシ、二つの都市に拠点を置き活動している。 ハウス・アム・ヴァルトゼー美術館はベルリン南西部の郊外にあり、その建物は繊維製品製造業を営む裕福なユダヤ人の個人邸宅として1922/1923年に建てられたも

        エドヴァルド・ムンクと一元論的自然哲学

          資本主義の空間――アイザック・ジュリアン 『プレイタイム』

          ベルリンのPalaisPopulaireで公開中の、アイザック・ジュリアン『プレイタイム』(2013年)についての考察。 展示の構成 本個展は二部構成で、手前の展示室にはタブロー的な写真作品、奥の上映室には3チャンネルのビデオインスタレーションが設置されている。 写真作品はビデオに登場する人物たちのポートレート。光沢のあるアクリル板にプリントされているため、表面には展示室の蛍光灯や観客がくっきりと映り込む。円形のポートレートは西洋絵画の伝統的な形式であり、また人物の後ろ

          資本主義の空間――アイザック・ジュリアン 『プレイタイム』

          社会変革のための武器としての映画――ジネブ・セディラ

          ハンブルガー・バーンホフ現代美術館で開催中のジネブ・セディラ展『Dreams Have No Titles(夢にはタイトルがない)』についての考察。 この作品は、2022年第59回ヴェネツィア・ビエンナーレのフランス館において発表された彫刻・音楽・パフォーマンス・映像によるマルチメディア・インスタレーションを、ベルリンの会場に合わせて改変したものである。メインは映像作品であり、撮影に使用された「遺物」であるフィルムセットがそれを囲むように配置されている。セットには位置決めの

          社会変革のための武器としての映画――ジネブ・セディラ

          建築という権力空間への介入――モニカ・ボンヴィチーニ

          2023年2月  新ナショナルギャラリーでは、ベルリン在住のイタリア人アーティスト、モニカ・ボンヴィチーニの個展が開催されている。近代建築の権威ミース・ファン・デル・ローエの手による美術館のガラス張りの地上階に、建築に呼応するサイトスペシフィックな舞台装置が設置され、その内外に彫刻、ビデオ、サウンドを駆使した過去から現在の作品が配されている。 建築への介入 建物の正面には巨大なミラーパネルの作品『I do You』(写真1)が立てかけられている。鏡が空と周りの風景を取り込

          建築という権力空間への介入――モニカ・ボンヴィチーニ

          歴史に残らないということ

          エーリッヒ・ブーフホルツ展覚え書き(2023年1月6日)  年が明けても暗く曇った日々が続く。小雨の降る中、ベルリン・ダーレム地区のクンストハウス・ダーレムで開催されている『エーリッヒ・ブーフホルツ展』に足を運ぶ。  現在クンストハウスという美術館として使用されているこの建物は、ベルリンにいくつか残されているナチス様式の建築のうちのひとつである。ナチス様式とはつまり、歴史主義建築のひとつとして20世紀初頭のドイツにおきた新古典主義様式のことを指し、新古典主義とはつまり、古

          歴史に残らないということ