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2023年の体験たち(後編)

前編はこちらです。

前半はアート寄りなものが多かったので何を感じてどう考えたかみたいなことを書いていました。後半は触れた音楽のどこがどうすきだった、とかそういうことを書こうかなと思っていますが、ぜんぜん違うことを書いたりするかもしれないです。

音楽『Pinzin Kinzin』Avishai Cohen

Avishai Cohenはイスラエルのジャズベーシスト、どの曲も良くてどの曲も驚かされるのだけど、特にこれは今年いちばんくらった音楽でした。

頭から拍子が読みづらいベースがあやしげな空気をつくり、その空気のまま「4拍子系ですけど」みたいな顔をしたピアノが入ってくる、さらにドラムも加わって畳み掛けるように独特なノリが展開されていく冒頭2分、ほんとうに圧巻。

ドラムに注意して聴けば4拍子で説明がつくのはわかるのだけど、じゃあ4拍子のリズムをとって聴くのが気持ちいいかと言われるとそうではない。

ベースとドラムがそれぞれちがうノリを生んでいて、そのノリの間を弾くようにピアノが絶妙なバランスで取り持つことでひとつの大きなうねりにまとめ上げている、そんな感覚。

すごくきいてほしいので、すごくきいてください。

1年前に日本に来ていたらしく、そのライブでの演奏もすごすぎる、もっと早く知っていたらな〜の気持ちに尽きます。

音楽『XENA』Skrillex, Nai Barghouti

低音とパーカッションとNai Barghoutiの歌い方がよすぎるな〜〜と、どちらかというとスロウめな気分で神々しさというか重たい美しさに浸りながらきいていたら、終盤、突然のつよすぎドロップに一気に引き摺り込まれてしまい息の根が止まるかと思いました、あぶない。

心臓を叩いて鳴らされているかのようなキックと脳に響くクリアなハイハットとパーカッション、異常なくらいに気持ちよすぎる。

昔のダブステップばちばちなSkrillexはそれはそれですきでしたが、2023年はいろいろな人とコラボラーションしながら新しいSkrillex音楽をたくさんきけて、うれしかったです。

音楽『網膜は銀幕、人はみなシネマ』濁茶

ことしもたくさんすてきなボカロ音楽に出会えてさいこうでしたが、こちらが個人的いちばんぐさぐさに刺さった大賞でした。

歌詞がすごくよくて、いま目に映るすべてはどれもちゃんと私の人生のワンカットで、何気なく流し見しちゃっていたひとつひとつのカットにも明日からは目を向けてみようかな、という前向きな気持ちになる。そしてそれは私の人生をちょっと幸せな方向に向かわせるかもしれないのだ、という予感をも感じさせてくれます。

いいお話で感動して元気が出るとか、考えるきっかけを与えてくれて間接的に行動を変えようという気持ちになったりとか、そういう作品の体験もすばらしくすてきなのですが、自分の人生のこの目の前の毎日を直視したうえで前向きな気持ちにさせてくれる作品というのは実はあまり出会ったことがないかもしれなくて、これは人の価値観を変える音楽なのだろうな〜すごすぎる〜と思いました。

世界に対する向き合い方として個人的にすごくわかるわかるという部分があって、世界はどこにいってもどこにもいかなくてもすばらしいものに溢れているのだ、連続する日々の一瞬一瞬に意識を向けたりちがう視点でみてみれば世界はいつでもどこでもすばらしいのだ、と世界の魅力の可能性を信じている人間なので、その気持ちと共鳴してどまんなかに突き刺さりました。

展示『日記帳』内田拓海

『過去が覗いている』のリファレンス記事でも書いたのですが、かなり心を動かされました。

朗読される日記を聞いて、辛いと感じた日があれば目の前のカレンダーに「辛い」と書く。藝祭で展示されていた作品です。

事実と取り繕わない端的な感想が淡々と読まれる、それだけなのだけど、その内容と声の表情から純度の高い心情が伝わってきてあまりに生々しい。アンビエントな音響がさらに惹き込む。心が呑みこまれそうな感覚になり、完全にその空気に浸ってしまって抜け出せない。

何度も何度もループして、その日ずっと何時間もきいてしまいました。

日常世界から引き剥がされて抜け出せなくなる感覚は、ちょっとやそっとの非日常体験では代え難くて、こういう体験を日々探し求めて生きているところがあるので、ほんとうに尊い。


私が一生ついてゆきます、、と思っている音楽アーティストが2人いるので、それぞれから1曲ずつ今年たくさん聴いた曲についても書く。

音楽『ダム底の春』日食なつこ feat.Sob

1:56からのサビ、すっと入ってくるメロディと、想いと景色の毎秒を描写するような歌詞がほんとうにきれい。

渡せなかった花は即ち
存在もしない愛にも等しいから
投げ捨てたって罪にならない
いくつも浮かぶ言い訳も束ねて
振りかぶって水面に放つ
真っ赤なリボンがほどけ沈んでゆき
あとにはもう波すら立たない
いつか水底で咲くだろうか

1a→1b→2a→2b→サビという、サビが最後に1回だけくるという展開が、ドラマチックさをより強調するのもよいです。

日食なつこさんの書く曲はどれもそれをそれと表す言葉の選び方がほんとうにすてきで、言葉ひとつひとつが持つ響きやそれによって生まれる温度をすごく繊細に捉えて配置されているのかなと勝手に思ったりしています。強い言葉なのに寄り添われているような温度や距離を感じたりするときがあるのはそういう向き合い方によるものなのだろうかなどと考えさせられたりもして、1人の歌詞を書く端くれ人間としてたいへん畏れ多いながら私淑する存在です。

音楽『Someday We’ll Fly』Jazztronik

この曲自体は『Univerpal Language -Self Traslation-』という2022年リリースのアルバムに収録されています。

シリアス目な雰囲気ではじまりクラップパートが印象的な中盤を経て、後半さいごのパートに向けてどんどんと差す光が増してが明るくひらけていくような、とても劇的な展開が魅力な曲です。

Jazztronikはコンポーザーの野崎さんを中心としつつも固定メンバーはもたず、特別どこかのジャンルに軸足を置いたりもしないアーティスト。

このアルバムももともとはピアノ,ドラム,ベースのトリオ編成でレコーディングされていたのですが、1月のライブでは弦楽カルテットを加えた編成,アレンジできくことができて、ストリングスにぶん殴られてさいこうな体験でした。

(そのときのライブのダイジェストここできけます、Someday We'll Flyは1:10〜)

2023年に刺さった音楽たちプレイリスト

音楽digがすきな方へ、ここに書けなかったけどいいなと思った音楽たちも含めてプレイリストに突っ込んでいるので、よかったら使ってください。

おわり

大晦日に書き始めたのですが、筆が遅いためどうやら2024年になってしまったようです。ところで「筆が遅い」とか「ペンを執る」みたいな言葉はデジタルで文章を書くいまの時代どう言えばいいのでしょうね。

それではことしもどうぞよろしくおねがいします、またね〜〜

あそ

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