『過去が覗いている』テーマについてやそのリファレンスなど
無色透名祭Ⅱたのしかったな、ありがとうございました。
運営の方々の工夫もあって、聴き手側としても柔軟なたのしみ方ができたし、作り手にとってもかなり平等に再生の機会が生まれていると個人的に感じました、とても良いお祭りだった〜。
特に刺さった曲たちは感想と一緒にここにポストしてるので、ぜひきいてね。
自分は『過去が覗いている』という楽曲で参加してまして、はじめてポエトリーリーディングの曲を書きました。
そのテーマについてや、なんでポエトリーにしたのか、何にどう影響されたのか、などについてここからちょっと書いています。
楽曲をとおしてのテーマ
今回の作品の全体的なテーマの強いリファレンスとして、梶井本次郎の小説『檸檬』があります。
ずっと心をおさえつけている「不吉な塊」がある、なんなんだそれは。
肺結核を患っているし、神経は衰弱しているし、さらには借金までしているけど、そのどれが原因という訳でもなくあくまで不吉な塊のせいだ、と。
ネガティブな感情というのはおそらくきっと単純なものではなくて「これは肺結核のせいだ」「これは借金のせいだ」みたいに言い切れてしまうのならいっそ気が楽なのかもしれない。けど実際はそうではなくて、それらが相互作用しあって生まれる「どれのせいでもない感情」なるものが存在しているのだろうと思う。
これは、病気をしていなくても借金がなくても、いわゆる健康そうに生きているように見える人でも誰しもが抱えうるものだと思っていて、今ある悩みや過去に発生したけど綺麗には解決せずどうにかどうにか押しやって無かったことにしたもの、忘れることにしたもの、そういった様々な大きさや時間軸の負の感情が心に蓄積されていて、それらが複雑に干渉しあって強めあったり弱めあったりした結果、知らず知らずのうちに実態のない謎の“塊”が出来上がる。
そうした謎の塊が日常のちょっとしたきっかけで呼び起こされてしまったりして正体不明の感情として見え隠れをするけれど、それをぴったり説明する理由などというものはいくら探したとて見つからず、向き合うほどに心はどんどんどんどん飲み込まれそうになる。
なので、とりあえず、一旦いまは目を瞑って何事もないことにするほかなく、そうしてまた解決しない過去として積み重ねられていく。
そんなことを書いた曲でした。時々刻々生まれる感情は、すごく曖昧な形をしていて自分でも説明できない余白だらけで、そういう感情の余白もしっかりと脳は記憶していて私たちを覗いているわけです。
ポエトリーリーディングという形式
なぜやったこともないポエトリーリーディングでつくったのか、これは今年の藝祭で出会った作品の影響が大きいです。
『日記帳』内田拓海
アンビエントな音響に重ねてある夏の日記が朗読される。
1日1日、事実と端的な感想がただただ淡々と読まれていくのだけど、その内容と繊細な声の表情からあまりに純度の高い心情や情景が伝わってきて、それが自分の経験と部分的にリンクしてすごくすごく生々しく感情が再現する。心が呑み込まれそうになるくらいグサグサにくらってしまってほんとうにしばらく抜け出せなかった。
この声の表情の小さなふれ幅や言葉のひとつひとつに意識が向くのはきっと「朗読」という形式だからなのだろう。
人間の注意力はどうやら有限で、音楽を聴くときの耳の注意はざっくりトラックとボーカルに分散する。
そのうちボーカルに向ける注意は「メロディという音楽性に向ける意識」と「歌詞という文学性に向ける意識」にさらに分散するけども、これらは情報源としてのタイプが違うので特に競合する気がしている。
(歌詞の内容について考えを巡らすことと、メロディの美しさに浸ること、それらを同時に十分なレベルでおこなうのはなかなか訓練が要りそう)
歌詞によって心を呑み込むほどの引力をつくりだすには、言葉の表面に意識が向くだけではまだ足りなくて、その言葉が映す情景や心情への想像と、さらに脳内にある感情や経験にもアクセスしないといけない。それなのにメロディに半分も意識を取られてしまっていてはその処理が間に合わないのかもしれない。
ちなみになんの専門家でもないので、すごくてきとうなことを言っている。
メロディと歌詞への意識は絶対に両立不可能とか思っているわけではないのと、何回も聴いて両方しっかりたのしむのがさいこうだと思っているけども、歌詞の方に振り切って聴く人の心を安定して呑み込んじゃう音楽を一回つくってみたい気持ちだったので、つくりました。
けどポエトリつくるのちょっと大変だったのと、メロディ書くのすきなので、次は少なくともポエトらないかな。たぶん。
歌詞
さいごに、歌詞(というかポエトリーなので詩)をあらためてのっけておきます。言葉にぜんぶの意識を向けてもう一回きいてくれたら、うれしい。
読んでくれてありがとうございました、またね!
あそ / aso
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