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たった3日で運命を変えよう~アラジン考察~

ディズニールネサンス第3作『アラジン』はアメリカでは1992年11月25日、日本では1993年8月7日公開。

『千夜一夜物語』の『アラジンと魔法のランプ』を原案としている。また、魔法の絨毯で世界中を旅するシーンで流れる曲『ホール・ニュー・ワールド』(A Whole New World)はアカデミー歌曲賞を受賞した。

生涯ナンバーワンの映画

この『アラジン』は、私の一生で最も多く観た映画です。多分そうなると思います。

まず、幼少期リアルタイムで繰り返し観ました。スペイン語の1、2、3『uno,dos,tres』はジーニーのセリフで覚えたほどです。YouTubeにある羽賀研二版を観ると、得も言われぬ懐かしさに襲われます。

そして子どもが生まれてからも、数えきれないほど観ています。それは単純に子どもも『アラジン』にハマってしまったからです。子どもと初めて観てから2年が経過していますが、未だに月1回は観たがります。遺伝子レベルで中毒性があるようです。

という事情で、今回は特別熱くなりそうです。是非お付き合いを!

アラビアンナイトを歌うおじさん

『アラジン』は有名な劇中歌『アラビアンナイト』から始まります。ラクダに乗った行商人が砂漠を歩き、たどり着いたのは彼の故郷アグラバー。


この行商人のおじさんは実は、ランプの精ジーニーが化けているとの説が有力です。(監督が説を肯定したとも言われています。)
理由はたくさんありますが、指が4本しかないこと・英語版では同じ声優(ロビン・ウイリアムス)が務めていること・魔法のような仕掛けを使っていることなど。
しかも2019年の実写映画『アラジン』では、冒頭でジーニー役のウィル・スミスがこの曲を歌っていました。

そしてエンディングでは『END』という文字が出た直後に、映画のフィルムの裏からジーニーが現れて「どうだった?」と視聴者に問いかけます。
つまり本編の全てはジーニーが魔法で見せた、昔話。自分を自由にしてくれたアラジンを自慢したかったのでしょう。

アグラバーの1日が秒速で終わるワケ

『アラジン』ではとにかく、朝から夜までの出来事があっという間です。朝の描写だと思いきや、ちょっと目を離した隙に夕方になっています。
しかしこれには納得の理由があるのです。

それはハッピーエンドと姫の誕生日の帳尻を合わせるため。

詳細に見ていきましょう。

【DAY1】誕生日まで3日
アラジン登場、ジャスミン姫のお見合い相手(王子)と遭遇、ジャスミンが王子を追い返して夜逃げ

この時点で「ん?」と思った方、アラジンフリークですね!(誰目線)
実はアラジンと王子が遭遇した後、アラジンが隠れ家に帰り夜を迎えるシーンがあり、「夜→朝」になる風景シーンを挟んで、ジャスミンが王子を追い返すシーンがあります。
私もずっとこの風景は「夜→翌朝」の早送りだと思っていたのですが、「夜→当日の昼」への巻き戻しだと解釈するとエンディングまでの日数がピッタリ当てはまります。

【DAY2】誕生日まで2日
アラジンとジャスミン出会う、ジャファーがアラジンを見つける、アラジン投獄、魔法の洞窟へ向かう

ダイヤの原石しか入ることのできない「魔法の洞窟」……
実はこれもジーニーの分身です。
洞窟自身が入る人を選んでいるということはつまり、ジーニー自身が選んだ人しか主人にしないということ。魔法のランプがうやうやしく飾られている演出も、実際はシリアスなシーンですが、ジーニーの自演だと考えるとほほえましいです。
それに何よりこの洞窟、虎の顔を模しているのですがジーニーと同じ耳飾りを付けています。

【DAY3】誕生日まで1日
アラジンとジーニーが洞窟から脱出、王子のふりをしてアグラバーをパレード、A WHOLE NEW WORLD

誕生日が明日に差し迫った日に、運命の相手が現れるなんてさすがプリンセスです。
DAY3で印象的な「アリ王子のお通り」、冒頭でアラジンが街中を駆け回りながら歌う「一足お先に」と比較するととても皮肉な演出になっています。

王子の登場を街中の人が歓迎している構図です。正直こんなカオスな市場の中に、何の断りもなく派手に登場されたら迷惑以外の何物でもないですけどね。
一方の『一足お先に』

衛兵に追われているアラジンを街の人々は煙たそうにしています。
地位と名誉を手にした王子は歓迎し、貧しい若者は無視する、それが同一人物であるとも知らずに……。
リアルな敷井の人々の表情が垣間見られます。

【DAY4】誕生日当日
魔法のランプが盗まれジャファーが支配者になる、アラジンが国を取り戻しジャスミンと結婚を誓うハッピーエンド

ここから怒涛の展開です。
「姫は16歳の誕生日までに王子と結婚する」という法律は、ラストで「姫は自分が認めた相手と結婚して良いものとする」に変更されます。
しかし実際にアラジンとジャスミンが結婚するのは、このアニメーション映画『アラジン』を第1作とした3部作シリーズの完結編「盗賊王の伝説」での出来事です。
完結編が本編から何年後の話なのかは明言されていませんが、少なくとも結婚を認められて数年は式を挙げていなかったように思えます。
その辺りは『塔の上のラプンツェル』のユージーンと同じ匂いがします。奇しくも2人とも盗人稼業です。

というわけで、『アラジン』の副題を付けるのなら『アグラバー怒涛の3日間~運命の誕生日までカウントダウン~』でしょうか。

自由に憧れる人たち

主要な登場人物の願いが全て『自由になりたい』と共通しているのも、本作の共感できるポイントのひとつです。

アラジンは貧しく、食うに困る日々を過ごしており、宮殿の何不自由ない豊かな生活にあこがれます。

ジャスミンは姫ゆえに、自分の人生の全てが法律に決められ、決定権が何もないことに嫌気が差しています。

ジーニーは主人に仕えるのではなく、自分の意思でやりたいことがやりたいときに出来る身分を求めます。

この3人が最終的に結託することで、お互いを補完し合って、それぞれが求めていた自由を手に入れるという構図は素晴らしいです。『アラジン』のラストが文句なしにスッキリしていることはこの要素によるところが大きいです。

もしこれがスッキリしない終わり方だったらどうかって?

「私の素敵な王子様💛」と思って国民に向かって婚約を公表するも、その王子様が「素性卑しいペテン師」だとバレてしまう。
姫は「その若者を離しなさい、これは王女としての命令です」と訴えるも国民の感情は変えられず、婚約話は以前として平行線……

こんな夢のない物語見たくないって?
恐ろしいことにこの物語が現在進行形で問題になっている国があるのですから、事実は小説よりも奇なり、とは言いえて妙ですね。

ワンオペ育児のはけ口に

子どもが『アラジン』にハマりだした時期と、私のワンオペ育児の時期が絶妙に重なっていました。
夫が仕事で長期出張で、平日は会社と保育園と家の往復だけ。休みの日は1週間分の買い出しに走り、それ以外はグッタリ……という日々が続いたとき、子どもが観ていたのがこの『アラジン』だったのです。

自由を求める登場人物のセリフ全てが心にぶっ刺さりました。
「こんな生活って、まるで、囚われの身……」
「(願いは何かと訊かれて)……自由だ」
「ご主人様ご用は何なりと、なんて言わなくて済むだろ」
「ジーニーに……自由を!」

今はワンオペ育児とは程遠い生活をしているので笑って話せますが、当時はとても切羽詰まった思いで、子どもと『アラジン』ごっこをしていたように思います。

「これをしろ あれをしろ」って要求されて、たまには言い返したいのは子どもも同じかもしれませんね。

やなこったーーー!
気分最高ーーーー!

ってな具合に。

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