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映画レビュー 「フォードvsフェラーリ」 "実際は「フェラーリvsフォード」?"

本作はフォードがル・マン24時間レースにてフェラーリに挑むという実話を基にした作品。車にかける情熱、運転シーンの迫力、勝利と栄光とそこに至るまでの苦悩や葛藤...などなど観ていて熱くなる作品でとても面白かった。そこで見どころを整理したので、この映画を見た人も見てない人もより楽しめたら幸いだ。

出てくるのは大体男性

Me Too運動を始め、昨今女性の人権意識が高まっているのは言うまでもない。映画もその例に漏れず男女平等を意識している。スターウォーズは女性が主役だし、アベンジャーズでも女性だけが戦うシーンがある。

しかしその潮流に反するかのようにこの作品では出てくるのが大体男性。主要な登場人物で女性なのは主人公マイルズの奥さんぐらいだ。

それは何となく予想はしてた。というのも車にこだわるというのはとても男性的な価値観だからだ。今はそうでもないだろうが良い車を持っていることが男性のステータスであった時代もある。また自分の愛車を女性のように扱う人もいるだろう。作中ではマイルズが自分が運転する車を「嬢ちゃん」と呼ぶシーンがあるのが正にそれ。車とは男性の所有欲の象徴のように私には思える。

下らない男性のプライドがぶつかり合う

そんな男性の下らないプライドがぶつかり合うのが本作の一番の見どころだ。主人公マイルズはただ競争に勝つことのために徹底的にこだわる。車なんて走れればいいし競争に勝たなくてもいいと思うが、そこにこだわるのが男の意地。そもそも24時間耐久レースなんてものが痩せ我慢の産物だったりする。

また作中には副社長をはじめマイルズに反対する人たちも出てくる。官僚主義的な彼らは勝手気ままなマイルズをよく思っておらずレースのドライバーから外そうと画策する。マイルズがチームを乱すというのが彼らの言い分だがそれは建前。実際は社長のご機嫌をとっているだけで自分の出世のことしか考えていない。これを下らない男性のプライドと言わずに何と言おうか。

この映画では要所要所に男性の意地がぶつかるシーンが出てくる。そして往々にして女性はそんな男性を呆れながら見ているものだ。マイルズとシェルビーの喧嘩を眺めてる奥さんの表情がそれを物語っている。

実際はフェラーリvsフォード?

車にこだわる男性と大企業の体裁を保とうとする男性のどちらがカッコいいだろうか?私はマイルズ側を支持したい。なぜならたった一つのことにこだわり続けるその背中に憧れるからだ。もちろんそれは下らない意地だ。しかしその下らなさこそが何かを生み出すと私は思う。

ネタバレになるので核心は避けるが、レースが終わり肩の力が抜けたマイルズが観客席を見上げるとフェラーリの社長と目が合う。お互い一言も発さない何かを悟ったような表情がとても印象的だ。

私はこの映画は「フェラーリ(バカなことに賭ける人)vsフォード(安定志向の人)」の対立を描いた作品だと思う。型にはまらず、常識破りで慣習から平気で逸脱する。お世辞にも人格者とは言えないが、そういう人たちこそが歴史を作ってきたのだというメッセージが聞こえてくる。そう考えれば何故フェラーリの社長が初代フォードを尊敬し、2代目を貶したかがわかってこないだろうか。

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