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桂子さんのお見合い(小説投稿) 2023. 5.12更新  

こちらのページ内でNOをうって(上へ行くほど新しい話)連載を
書き綴っていきます。宜しくお願いします。[不定期更新]
                設樂理沙 時々 杏野真央( ꈍᴗꈍ)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

作品説明・あらすじ
知世さんのお話も読んでいただければと思います。

弁当作りがきっかけで既婚者、亀卦川康之と一度はそのような関係に
なったアラフォーの桂子。
 だが、そののち、康之にはご執心の彼女ができ。
 心中複雑な桂子のとった行動とは?
             
 そして長年同じ職場で働いてはいるものの、いうほど親しくも
なかった同僚、原口知世が自分が幸せを掴めたためか、いい人になって
桂子に急接近してくるのだった。
 ちょっとした人と人との係わりで人生が大きく動く様子を
描いてみました。
              ◇ ◇ ◇ 


2023.5.12
4話(29~32)更新しました。↓ 下からお読みください。(^^)/

32

" Disadvantage Childhood 恵まれなかった子供時代 "

 「ふふっ、びっくりしますよね? お家大好きだった人が家族嫌いな人の話。
 私の母親と年の離れた姉は、子供の頃ずっと私にとって脅威でしかない存在だったんです。

 嘘のように聞こえるかもしれませんが、私は彼女たちからの
愛情というものを一度も感じたことがないんです。

 記憶の中の私はいつも彼女たちから叱られて、泣いていたり
悲しんでいたり苦しんでいたり。安らぎを覚えたり、幸福を感じたり
っていうことが、いくら記憶を辿っても・・ないんですよね」

 ほとんど初対面の、しかも異性、それも紹介とはいえ見合い相手の
ような人に、私は何でこんなことまでって思うようなところまで
踏み込んで話してしまったのだろう。

 家族家庭に恵まれ、仕事や容貌に恵まれ順風満帆な人生を
年相応に謳歌している青年小野寺さんには、めったなことでは話せない
自分の負の部分を話せてしまえる何かがあった。

 結婚前提で付き合っている恋人でもなく
だからといって全くの赤の他人でもなく
それなのに・・釣りで仲良くなった釣り友達のような関係性も相まって
私は誰にも話してこなかった家族の事情を話してしまった。

             ・・・

31

" Uninteresting Topics つまらない話 "

 「庭も素敵でしたね。車が余裕で2台も止められるし」

 「ありがとうございます。小野寺さんはマンション住まいですか?
  それとも実家住まいでご家族と? 」

 「しばらく実家暮らししてましたけど、家中物で溢れていたのと
母親からもう子育てから解放してほしいとお願いされたのとで
ぶっちゃけ追い出された形で家を出ました。

 還暦前あたりから母親があちこち、腰やら脚やら不調になって
『申し訳ないけど』と言われました。

 元気で頑張れそうならもう少し家にいてもらってもよかったんだけど
って。

 もう自分のことだけでいっぱいいっぱいみたいで。

 あー、僕の両親は晩婚なもので子供の頃は同級生の親たちよりも
一回り年齢差があって、当時は母親も気を若くして頑張ってたみたい
ですけど・・」

 「小野寺さんのご両親はやさしい方たちで、実家は小野寺さんに
とって居心地の良いお家だったんですね。家を出た経過を聞いて
そう思いました。私のように短大を出て就職が決まるとすぐに
家を出たような人間もいます。

 両親とは不仲でその上、姉ともいうほど仲が良いというのでもなく、
ずっと中学の頃からお給料を貰えるようになったら早く家を
出たいって思ってました。
 
 あっ、ごめんなさい、、つい・・こんなつまんない話しちゃって」

 「いえ、大丈夫です・・っていうか、桂子さんのこと知れて良かった
という言い方も変ですけど、あの・・やはり聞けて良かったです」

                                 ・・・

30

" Choosy こだわり "

 そんな風に説明してくれる彼女の部屋は、長いソファもテーブルも
・・っていうか、キッチンとか食器棚、飾り棚、照明に至るまで
真新しくて、Living Roomは白と茶系でコーディネートされていて
新築と思える程、素敵な創りだった。

 「何だか内装は新築のように見えますけど、リフォームされて
るんですか? 」

 「ふふっ、分かります? そう言っていただけてうれしいです。
 もう3年経ってるんですけど・・。
 思い切って3年前にリフォームしちゃいました。

 入居前の部屋の感じもそんなに悪くはなかったんだけど、長く住もうって
決めて・・それで思い切って。

 昔からの夢だったんです。
 庭があって今どきのシステムキッチンがあって、マンション風の
こじゃれた部屋に住むのが。

 マンションにするかどうか迷ったんですけど家庭菜園をしてみたかったのと先で猫が飼えたらいいなぁ~なんて思って戸建てにしました」

 結婚して子供ができても、下の階の人に騒音のことで
気を遣う必要もないし、というのは言わないでおいた。

 どちらにしても、音のことをあまり神経質に気にせずに
暮らせるってすごいことだもの。

 同じマンションなんかでも高級マンションで防音対策の
できてるところだと、そんなに気にする必要はないのかも
しれないけれど。

        ・・・

29

" Her House 彼女の家 "

 俺は自分が集合住宅に住んでいるし、仲良くしてもらっている緒方さんの
ところも同じく集合住宅、マンション住まいなので、自然と桂子さんも
マンションかハイツのような集合住宅をイメージしていて、車をどうするかな? などと考えていたけれど、心配する必要はなかった。

 充分に置ける車2台分の敷地があり、彼女に誘導されたところに
俺は車を駐車した。

 庭から続く玄関口までの小道には白や紫、緑の草花が両側から
元気よく咲き乱れていて、所々にうさぎのオブジェもお目見えしていて
ちょっとしたおとぎ話の世界観をイメージさせられ、可愛くて素敵な
空間になっていた。

 敷地の全体に芝生のように短い草がそこかしこに咲いていて
全てが庭と言える造りになっている。

 そして家はそんな庭にぴったりの平屋建てだ。

 可愛らしい外観ではあるが、築年数はそれなりに経っていそうだ。

 おじゃますると、すぐにLiving Roomに案内され、俺は
3人掛けのアイボリー色のソファに腰かけた。

 「うちは、ダイニングテーブルと椅子のセットがないんですよ。
ソファとテーブルで兼用しちゃってるんです。両方置けるほど
広くないですし1人なので、いつでも寛げる空間にしておきたくて
ダイニングセットじゃなくてソファにしてるんです。テーブルの
高さを調節して高めにしてるので、食事するのも全然問題なしです」


2023.5.8
28

" Tea Time お茶でも "

 過去に何度も女性とはデートしてきたけれど、こんなデートは
初めてだったし、こんな女性は初めてだった。

 ワクワクする気持ちになったのは、久しぶりのことだった。
 

 小雨から普通の雨になり、本格的に降ってきたらどうしようかと
思っていたけれど、その後雨脚が強まることはなく、徐々にまた
小雨に戻っていった。

 桂子さんが準備してくれたカーサイドタープのお蔭で釣りも
できたし、その上調理もでき、食事もできた。

 むちゃくちゃ充実してるじゃないかー。
 釣り・・万歳・・だ。

 お腹も膨れて、使った調理器具などをふたりしで手分けして
片付けることに。

 帰りはどこかで店を探して、今日のお礼も兼ねてコーヒーでも
彼女にご馳走させてもらおう、そう考えていた。

 片付けも終えて、その旨話そうと思っていたら・・・。

 「小野寺さん、20分ほど掛かりますけどよろしければ
私の家でお茶でも飲んで、少し休憩してから帰られたら
どうでしょう? 」

・・と、桂子さんの方から先にお茶を誘われてしまった。

 「あーっ、ありがとうございます。
 では喜んでお邪魔させていただきます」

・・と、勝手に何の躊躇もなく、俺の口が勝手にうれし気に
答えていた。

 ということで、俺は彼女の車の後ろについて車を走らせた。


2023.5.6        26話27話と更新いたしました。下からお読みください。(^^)/

27

" The Supreme Brunch Time 最高のブランチTime "

 俺たちは魚が釣れるのを待ちながら、学生時代の話や仕事の話をした。
 
 俺の釣り歴が昔学生時代にかじった程度だとバレてしまったのは
少々痛かった。

 職場に釣り好きな人間がいれば続いていたのかもしれないが。
 学生時代に何度か経験し、就職してからは慰安旅行などの旅先で
二度ほどお遊びで楽しんだ程度だった。

 だけど今回のことで全く経験がないというのではなくてよかった
と思った。 

 人間何事も経験っていうけど、身をもってしみじみそう感じた。

 桂子さんが何やら釣ったスズキに片栗粉をまぶし油で揚げ
魚の天ぷらを・・そしてみそ汁の素を使いこれまた魚の切り身を
入れみそ汁を作ってくれた。

 ごはんも口当たりよく炊き、揚げた魚に天つゆをぶっかけて
魚の天丼の出来上がり。

 熱々なのでふたり、フーフーしながら口に入れた。

 「うまいっ、ひょぉ~味が染みてる」

 「スズキがふわふわしてて、おいしいですね」

 「飯の炊け具合もGoodですね」

 「はい、柔らかくておいしいです。
 スズキも久しぶりでう~んっ、おいしいっ」

 桂子さんは謙遜もすることなく、正直な感想を言いながら
美味しそうに食べた。

 みそ汁もインスタントとはいえ、魚の切り身がいい味を
醸し出していて、旨かった。

 俺と桂子さん、ふたりの静かな川べりでのブランチTime。
 最高ぅ~。




26

" Enjoy Fishing 釣りを楽しむ "

 この週末も釣りの予定なら、お供させてもらおうと連絡してみた。

 彼女に他の別の予定があるのか、ないのか、も分かるだろ?
 まぁ、無難に誘いやすかったというのもある。

 何か予定はありますか? って聞くのが本当なんだろうけど。

 行き先は先週と同じ所だと思っていたら、彼女の家の近くの川
だと聞いた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 俺たちが集合した川は、ほんとに地元民で知る人ぞ知るって
感じの隠家のような釣り場だった。

 川といえども、大抵は釣り何とか体験とか、BBQの申し込みが
出来たりして料金がかかるし、人出があるものなんだが・・
到着したら俺と彼女だけ・・のパラダイス。

 しかも、川べりまで車で乗り入れができて、正直俺は驚いたね。

 もう何年も釣りなんてしてなくて、情報にも疎いんだけどさ
こんな穴場はそうそうないことだけは分かった。

 「小野寺さん、驚きました? ここ、私の秘密基地なんですよ」

 「秘密基地・・まさしくそんな場所ですね。都会でもないけど、ド田舎と
いうわけでもない此処いら辺で超ド田舎級の自然な川との遭遇ですからね」

 「地元の人は来るのかもしれませんが、私は今まで誰ともここで
一緒になったことがないんです。オオバーかもしれませんが私的に
秘境の地ですね」

 「有難いことですね、商売っ気を出す人間がいないことに感謝だ」
 あははっ。

 「魚が釣れたらここで食事しませんか? 私、お米と火の用意してきて
ねので」

 
「いやぁ~、いいですね。こんな自然の中で飯盒炊爨はんごうすいさん
いいですね。もう俺は何年も炊いたことがないので桂子さんに
ご飯のほうはお願いするとして、魚の方はまかせてください」

 釣れた後の段取りの話をしながら俺たちは釣りを楽しんだ。


2023.5.3     24話25話と更新いたしました。下からお読みください。(^^)/
25

" Boom 儲けもの (ん)"

 今の職場では、結婚を考えられるような出会いは望めないし
亀卦川くんとは今はもう止めたとはいえ、人様に言えないような
関係になっちゃったりして、不倫? 日陰の身? いつの時代の単語だよ
って・・・。

 とにかくそういうのじゃなくて独身者同士で、後ろめたさのない出会いで
デートなんてこの先あるなんて考えたこともなかったから、ほんと儲けもんだよ桂子。

 今回の出会いを、素直に私はそう思えたのだった。

 その週の木曜の夜に小野寺さんからメールが入った。

 「こんばんは。この週末も釣りに行きますか? 」

 たった一行のメールだったけど、連絡なんて来ないだろうと
思っていたから少しびっくりした。

 私は普段何も予定がなければ大体、家でごそごそしているか
月1ペースで定期的に釣りに行ってるので・・・

 「他に特別な用事が入らなければ土曜の早朝から行こうと思ってます」

と、彼よりは少し長い文章で返した。

 「先日楽しかったので今回もお供させてください」

 「いいともぉ~!」

 待ち合わせの場所や時間を打ち合わせして、土曜日私たちは
釣り場に合流した。

 小野寺さんと行くことになったので、私は地元民しか? というより
私しか知らないんじゃないの? と思える程、釣りに行っても
一度も他の誰かと一緒になったことのない、特別な川に行くことに
したのだった。


    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・☆彡


24

" Heart 胸の内 "

 私も小野寺さんに会ったのはあの日が初めてで、どんな人なのか
知らなくて、夫の人選頼みってところだったんだけども。

 夫の職場って、そもそも独身男性って少ないみたいで、小野寺さんの
他に2人いるんだけど23才と25才の男子だから人選も何もあったもんじゃ
ないっていうか、小野寺さんしかいなかったみたいで、私、心配
してたんだけど、まぁ、なかなか見た目も中身もバランスの良い人に
見えたから当日、ほっとしてたところ。

 そーそー、話に出なかったけど、うちの主人も小野寺さんも
お給料はそこそこ貰ってるから専業主婦になろうと思えば
可能よ。
 そんな話まだ早いかもだけど、一応出し忘れてた情報って
ことで」

「知世さん、ほんとに良い人を紹介してくださってありがとう
ございます。ご主人にもよろしくお伝えください」

 「はい、判りました。
 主人にもガキさんからの伝言必ず伝えておくわね」

 そう言うと外食の知世さんは手を振って外に出て行った。

 私は先日の時間が良い時間だったことと、素敵な人を
紹介してくれたことへの礼だけを述べるに留めた。

 謙遜して自分を卑下して見せるのは、忙しい中わざわざ時間を
作ってくれた知世さんたちご夫婦に失礼にあたると思うし、実際
こういうことって、本人たちしか動かしようがないものだしね。

 折角後のことは、ノータッチと言ってくれているのだから
そのつもりで動くつもり。


2023.5.1
 22話+23話と2話分更新しました。下からお読みください。(^^)/
23

" Good よかった "

 そして2日間に亘り、私と一緒に過ごしてくれた小野寺さんにもね。

 彼はやさしくて、良い人。

 別れ際にちゃんと今度は電話番号を聞いてきた。
 本当に掛かってくるかどうかはともかく、私に対して失礼の無い
優しいマナーで接してくれた。

 まぁ堤防まで来てくれたのには驚かされたけれど。
 でもうれしかったかな。

 だけど、おそらく結婚を前提の交際にはならないだろうと思う。

 後、数回デートするようなことはあるかもしれないけど。
 でも私は思った。

 亀卦川くんのことを本当の意味で吹っ切れたことは、大きな
収穫だなって。

 ずっと考えてた・・このままの気持ちじゃいけないって。
 でないと、また先で流されて亀卦川くんと関係持ってしまいそうで
怖かったから。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

  午前中は忙しくてバタバタしていたせいもあり
ようやく、昼休みに私は知世さんと少し話せる時間が
持てた。

 いつもお弁当を食べる部屋の横に少しだけスペースのある
場所があるのだけれど、ちょうど部屋に向かっていたら
その辺りで上手い具合に知世さんに会った。

 「ガキさん、ふふ、小野寺さんやさしそうな人だったわね」

 そう言って知世さんのほうから話掛けてくれた。

 「うん、それに話やすいし一緒に居て寛げるっていうか・・」

 「へぇ~、そうなんだ。・・ということは、まぁ、あの日は
いい感じに話ができたってことよね? 良かったわぁ~。
 
22

" Gratitude 感謝 "
 

 翌日私はいつものように台所に立ち、自分の弁当と亀卦川くんの
お弁当を作った。

 先週の金曜日は彼がスケジュールの予定のない日だったので
亀卦川くんのお弁当は作らなかった。

 だから今日のお弁当は3日開けての4日振りのお弁当になる。

 私は亀卦川くんが石川さんと付き合い出してからのお弁当作りの
時でもやっぱり彼の好物を作る時、美味しいって思ってくれるかな?
とか、同じメニューが続かないようにしなきゃだとか、人が聞いたら
お笑い種になりそうなことに、一生懸命取り組んできた。

 私の真心が届くといいなぁ~とか・・
お人好しもいいとこ。

 けれどこの土日を経て作る今朝のお弁当・・気がつくと自分の
好きな物で埋め尽くされていた。

 あっはっはぁ~、現金なものねー、笑っちゃうわ、笑っちゃうでしょ
コレって!

 私は小野寺さんと出会って亀卦川マジックがようやく解けた
みたい。

 
 きっと明日からも自分の好みに重点を置いたお弁当を作るだろうと思う。

 亀卦川くんの為のお弁当じゃなく、自分の為のお弁当・・
亀卦川くんのはそのついで。

 些細なことかもしれないけれど、亀卦川くんマジックから
解放されたことを思えば、今回の出会いを提供してくれた知世さんや
ご主人に改めて感謝だわ。


2023.4.30
21

" Exchange Phone Numbers 電話番号の交換 "

 「何が釣れました? 」

 「あぁ、えーとですね、今のところカマスが2つにコノシロが5つ
釣れてます」

 「なかなかいい感じに釣れてますねぇ~」

 なんか小野寺さんは少し前からすでにここに来ていたような存在感を
発揮して話しかけてくる。 おかしぃ~!

 まっいっか。
 旅は道連れ・・釣りは海連れ・・っと。(知らんけど!)

 「あっ、そうだ・・桂子さん、これどうぞ。
 船に乗る前に買ってきました」

 「わぁ~っ、ありがとうございます。
 冷えてるぅ~いただきます」

 じわりじわりと気温が上昇してゆく中、冷えた缶コーヒーは
五臓六腑にゆきわたり、おいしい。

 その後、一緒に釣りをしたのだけれど、釣った魚のこともあって
各々車で帰るので船を降りた後は、現地解散となった。

 「一緒に食事でもと言いたいところですが、この気温じゃ
とても無理ですね。でも今日は一緒に釣りができて楽しかったです」

 「ふふ、私も」

 「えーと、携帯の番号教えてもらってもいいですか?
 僕の方のは、後からお送りします」

 「はい、いいですよ。え~っと、、080・・・972。大丈夫ですか? 」

 「え~と、復唱しますね。080・・56・・72」

 「はい、okです」

 「じゃ、お疲れさまでした」

 「お疲れさまでした。それとご馳走様でした」

 「いえいえ、では気を付けて」


2023.4.29
20

" Suddenly 突然の "

 パラパラと小雨の降るあまり天候が良いとは言えない中、思って
いたよりも釣り人が多かった。

 グループで来ている人、私のようにひとりで来ている人、といろいろだ。

 「ふぁ~、喉乾いちゃった・・っと」わたしは持参してきていた
ミニチェアーに座り、冷たいお茶を口にした。

 「ふぇ~、生き返ったー」

 すると背後から声を掛けてくる人物がいた。

 「どうです? 今日の釣りは。いい感じに釣れてますか?
隣で釣ってもいいですか? 」

 誰に話し掛けてるんだろう? 
 私は声のする方を見た。

 「小野寺さん ? 」

 「はい、小野寺です」

 「えーっ! すっごいぐーぜん。驚きました」

 「それが申し訳ないですが、グーゼンじゃなくてですね・・昨日
桂子さんが釣りに行くって聞いていたので来ちゃいました」

 「えっ? えっ? だけど私、この場所のこと・・」っとっとっ・・。

 話してたわ、そうちゃんと小野寺さんに聞かれて何気にこの場所で
よく釣ってるって話してました、、私。 

 あっ? だから、電話番号のことも聞かれなかったのか?

  いやいや、それより今のこのシチュエーションのことよ。

 一体これは・・どういうこと? なのかな?

 桂子、落ち着くのよ・・平常心・・平常心。

 小野寺さんは私が釣りをするという話を聞き、自分も釣りが
したくなったから1人よりは2人と、ここへ来てみた。

 ほらっ、桂子落ち着いて整理してみたら2行の文章でまとめ
られたじゃないの。


2023.4.28         
19

" Telephone 電話 "

 私たちはJRの駅までお互いの仕事の話をしながら歩いた。
 話しながら歩いたせいか、あっという間に気が付くと駅だった。

 お互い反対方向なので、改札口を抜けた後、別れた。

 「桂子さん、じゃあ。また電話します・・さよなら」
 彼は手で電話をするジェスチャーをした。

 「さようなら、今日はありがとうございました」

 お互い手を振り合い、笑顔で最後は閉めくくった。

 私はエスカレーターに乗り、心の中で少し嗤った。

 小野寺さんったら、電話しますよと私に電話番号も聞かずに
そう言ったのだ。 

 私に花を持たせる格好の大人の対応だった。

 それでいて電話番号を聞いてこないということで、もうこれきりですよ
と正直に私に彼の意図するところを伝えてきていた。

 『あっぱれでござる』

 気が付くと私は口に出して呟いていた。
 不快感はなかった。
 そして今日使った自分の時間が惜しいとも思わない。

 『知世さん、ありがとう』

 自然と彼女に対して感謝の言葉が出たのだった。

 小野寺さんに話したからというわけではないけれども
翌日、やはり早朝から私は釣りに出かけた。

 最近、以前から欲しかったメタルジグも手に入れてたので
早く使ってみたかったし、昨日の少し非日常的だった特別な時間を
もう一度反芻して、心の整理をしたいということもあって。

 いつものように船で渡り、堤防でショアキングする。

 岸から軽めのジグを使ってひたすら小雨の中、釣り竿を投げた。


2023.4.27         
18

" Fishing 釣り"

 「釣りって・・あの釣りですか? 」

 そう言って小野寺さんは釣り竿を投げ放つゼスチャーをしながら
聞いてきた。

 「ええ、その釣りです」

 「へぇ~、女の人が釣りって珍しくないですか? 」

 「ふふ、祖父が釣り好きな人で幼少の頃からよく一緒に連れられて
行ってました。
 実は明日も行こうかと思ってます」

 「それってどの辺りに行かれるんですか?
いつも朝は何時頃出発ですか? 」

 釣りが好きだなんて話したら、引かれるだろうと思ってたのに
小野寺さんがえらい喰いついてきて笑っちゃった。

 私は大抵いつも利用している穴場を彼に教えた。

 「お天気が悪くても行きますか? 」

 「はい、台風でもない限り小雨ぐらいでしたらカッパ着て
行きますよ」

 「へぇ~、ほんとに好きなんですね。どなたかと一緒に? 」

 「女友達は残念ながら、釣り好きはいないのでいつも行くのは
ひとりなんですよ。

 ただ同じようにひとりで来てる人で何度か一緒になったりして
話する現地での知り合いが3人ほどいます」

 
 暑い中だったけど潮風に当たりながら海を目の前に、この辺で
ぼちぼちお開きにしたほうがいいかな、と思っていたら、以心伝心
したかのようなタイミングで小野寺さんが『暑いですしそろそろ
帰りましょうか?』と、言ってきた。


2023.4.26           
17

" Calm 和む "

 肩の力が抜けてるっていうか、緊張しないでいられて気がつくと
軽やかな気持ちで彼女との時間が楽しく過ぎていった。

 桂子さんはまだ、はじめましてばかりだというのに、そしてもちろん
昨日まで見ず知らずの間柄だったにもかかわらず、姉のような感じと
言ったら失礼だろうか・・妙に和んだのだった。

 緒方さんたち夫婦が帰って行った後、桂子さんの提案で俺たちは
最寄りの波止場へ行くことになって、風に吹かれながら遊歩道を
ゆっくりと散策し、目の前に広がる海上の船など眺めながら
会話を楽しんでふたりの時間を過ごした。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「小野寺さんは普段、休日の日どんなふうに過ごしてるんですか?
 やっぱりドライブとか? 」

 「そうですね、仕事柄っていうわけでもないですがドライブも
結構行きますね」

 「お友達と? 」

 「う~ん、まぁ友人と行くこともありますけど最近はひとりが
多いですね」

 恋人がいた頃は毎週のように車を使ってたけど、最近は気晴らしを
兼ねて欲しいものGetの為にたまに車に乗る程度だ。

 「桂子さんはどう過ごされてるんですか? 映画とかShoppingとか
ですか? やっぱり」

 「やっぱりって? 」

  「いゃぁ~、すみません。
 一般的にそんなイメージが強いもので・・」

 「ふふっ、そうかもしれませんね。私が変わってるのかも・・
私は釣りが好きで月1は行ってるでしょうか」


2023.4.25           
16

" Healing 癒し系 "

 職場の人間・たまに会う学生時代の友人・・よく耳にする
言葉があった。

 今回の新垣桂子という人物との紹介見合いの話が持ち上がるまで
そのよく耳にしていた(はずの)台詞のことは、すっかり忘れ切って
いたのだが、年上の女性との交際を考えるにあたって
その記憶が蘇ってきた。

 『やっぱり、女は1つでも若いのに限る』

 多少の言い方は違えども、まぁ意味合いとしてはそういうことなのだ。

 大抵の男たちがそう思っているということは、あながち間違いでは
ないのだろう。

 だが、男が皆そうなのか? というと、そうじゃない人間もいる、と
いうのも確かなのだ。

 俺はたまたまこれまで年上の女の人と付き合うことがなかったが
それは縁が無かっただけで、敢えて避けてきたわけではない。

 これまでずっと、彼女という存在には恵まれてきたが、結婚を
決められるほどの相手には出会えていない。

 ここ3年ほど彼女いない歴が続いているものの、この年になって
なんかもう、女性に対してあまり期待してない自分がいた。

 だからこそ逆に今回の話にもほとんど抵抗無く、受け入れられたのかも
しれない。

 しかし、あれだ。

 なんの期待もせずに見合いに臨んだ失礼極まりない自分を待ち受けて
いた新垣桂子という人は、今まで出会ったことのない、ほっとさせられる
癒し系のオーラを放っている女性だった。


2023.4.24           
15

" A Good Guy いい男 "

 
  私、こんなところにいるなんてきっと何かの間違いよね? って。
  表情や物言いに出ないよう、気を張っちゃった。
  最初のうちは、頭の中グルグルしちゃって。

 だけど知世さんがうちの親でも敵わないくらい、私の為に
一生懸命今回の件、頑張ってくれるのを 見てたら、有難くて
涙が出そうになった。

 だぁかぁら・・、自分を卑下するのは止めて、私もね、知世さんの
熱意に応えようって思った。

 伊達に世間の荒波に揉まれてきたわけじゃない。

 もう変な恥じらいは捨てて、いつもの自分らしく大人の対応で
知世さんやご主人の緒方さんそして緒方さんが紹介してくださった
小野寺さんに対して失礼のないよう良い時間を過ごそうって思えたの。

 そう気持ちを切り替えると、余裕が出てきて、改めて緒方さんと
小野寺さん並べて見てみたら・・あらっ、ふたりともいい男だこと。

 知世さんが結婚したと聞いた時もいいなぁ~羨ましいって思ったけれど
正直旦那さんがこんな素敵な男性《ひと》だなんて思いもしなかったから
やっぱり、うだやばじぃーって思っちゃった。

 もうこの時私、悟っちゃってたんだね、きっと。

 34才ったって、見た目実年齢より若くって20代の女子でも寄って
来そうなこの目の前の男《ひと》はきっと緒方さんの顔を立てる為に
ひとまずここに来たんだろうなぁ~って。

 でも最初から笑顔で感じが良かったし、知世さんの話には
神妙な顔をして聞き入ってて、私からの彼に対する印象は花マルだった。

 でも最後には断ってくるだろうことも、もう分かってたから
私はなるべく楽しい会話を心がけて、小野寺さんと楽しい時間を
過ごそうって決めたの。


2023.4.23            
14

" Offer 申し出 "

 知世さんから、旦那さんの職場に真面目で素敵な男性《ひと》が
いるから紹介したいとの申し出があった時はびっくりしちゃった。

 やっぱりあれかなぁ~、私が既婚者の亀卦川くんにお弁当を
作ってることが原因なんだろうか? なんて思っちゃったわ。

 亀卦川くんが石川さんと熱い仲になっているのを教えてくれた
知世さん。

 そういうことを知った後も亀卦川くんへのお弁当作りを止めない
私を見ていてどうしようもなく不器用で可哀そうなヤツ、なんて
思われてるのかも。

 まさか3才も年下の男性《ひと》を紹介されるなんて、ほんとに
知世さんには驚かされてばかり。

 過去にあった親戚筋や親からの見合いなんて24才の時には
34才の男性《ひと》だったり、つい2年前には50才の娘さんの
いる男性《ひと》だったンだからぁ。

 だから今回紹介の話が出た時には独身で45才~50才位の男性《ひと》
を紹介してもらえれば、御の字だと思ってたのに・・。

 お相手を見てひっくり、、そして年齢を聞いて更に驚いた。

 3才も年下で身長も高く、全体のガタイもいい。

 容貌はというと、女心を擽《くすぐ》るような造形をしており
それでいて、にこやかで穏やかな性格が伝わってきそうな、そんな
雰囲気を纏っていた。

 とまれ・・

 小野寺さんなら20代の女性と並んでも違和感無いだろうし
とてもこんなお見合いのような紹介などなくても、女性たちが
放っておかないだろう。

 私は思わず場違いな席に座っているような気がし、気後れして
退席しそうになっちゃった。


2023.4.22            12話13話 更新
13
" Vortex of Thought 思考の渦 "

 
 あー、誰かに癒されたい・・と俺は自分が思ってることに気付いた。

 緒方さんの奥さんと紹介相手の女性のことが楽しみだ。

 とにかく相手次第のところもあるが、普通の会話を楽しめる
相手だとして、その日一日・・一期一会になるとしても、楽しい時間に
しようとそこだけは考えていた。

 小野寺は目下の自分のような者にも気を遣って接してくれる
緒方のことが好きだった。

 俺のほうから断ったからといって圧力をかけてくるような人じゃない。

 だから・・気楽に構えていられる人からの話だから
俺もまた気楽にこの話を受け(られ)たのだ。

 緒方さんは良い人だから、奥さんの為にこの話を俺に持ってきたけれど
俺のこともすごく考えてくれていて、断り易いように話をしてくれた。

         ・・・・・

 俺の歴代の彼女は同い年か年下ばかりだった。

 振り返ってみれば、どの子も最初は殊勝で尽くしてくれていたが
付き合いが長くなるうち、少しずつ我儘が出てくるようになり
束縛が激しくなっていった。

 そして人には束縛しておきながら、自分たちは他にBFを
作ったりしていた。

 最後に付き合ってた相手は、結婚するまではいろんな男性《ひと》と
付き合ってみたいと思うものでしょ? それにあなたはやさしいから
許してくれると思ってたし、と言った。

 はぁ? はぁー? はぁ~ ?

 100歩譲ってそれを俺に許していたのならいざ知らず、俺には女性との
ちょっとした会話すら許さないでおいて・・それはないだろうって・・。

 まぁ、今更だ。
 終わったこと、忘れよう。

 そう思うのに思考の渦が次から次へと俺に襲い掛かって来るのだった。


12

" Ex-Some Girlfriends 元カノ たち "

 まぁ合わなけりゃあ、断られることもあるだろうし、こちらから
断ることになることもあるだろうけれど、相手の女性と自分とは
職場も違うし、後腐れみたいなものも残らないだろう。

 暇つぶしと言えば語弊があるけど、なかなかこんな話を持ってきてくれる
者もそうそういないのだし、俺は軽いノリで『行きますよ』と、緒方さんに
返事した。

 まぁ、たまたま良縁に恵まれりゃぁ、これまた言うことなしだしな。

 ・・とはいうものの、正直な話、ほとんど期待はしてなかった。

 緒方さんの奥さんを見て、お相手の女性とお茶して気晴らしして
帰ればよいだろう。

緒方さんの顔を立てることもできて、ひとまず
皆Happy.Happyじゃね?

 ここ3年程付き合ってる相手はいないが、俺はとにかく中学生の頃
から、付き合ってる女子が切れたことはほとんどない。

 1年未満の短いスパンの子も入れると過去6人と付き合ってきた。

 28才辺りから結婚も意識して付き合った相手には、ほんとうに疲れた。

 あんなにしんどいのなら、一生結婚はしなくてもいいかなと
思うほどに、心身ともに疲弊したのだった。

 緒方さんから紹介見合いの話をもらってから改めて中学からの
元彼女たちのことが次から次へと思い起こされた。


2023.4.21
11
" A Business Trip 出張 "

 
 2人きりの時でないとなぁー、そう思っていたらうまい具合に
顧客からの依頼で、緒方、小野寺、ふたりでの出張の予定が入った。

 現地ではメルセデスベンツがふたりの到着を待っていた。

 経験値の高いふたりにとって、今回の整備の仕事はそう難しい
ものではなかった。

 もちろん高級車ならではの緊張感はあったのだが。
 泊りで、翌日の帰宅となった。

 ・・ということで、その日の夜夕飯時に話すチャンスがやってきた。
 

 「小野寺、今付き合ってる女性《ひと》とか、いるのか? って
こんな話を振るキャラじゃないんだけどな・・オレ」

 「どうしたんですか? 緒方さん、自己完結しちゃって」

 「いやぁ~、うちの奥さんから職場に素敵な一押しの家庭向きな
女性がいるからぜひとも俺に誰かを紹介してほしいって頼まれたん
だよなぁ~。

 お相手の女性、年齢が若干小野寺より上だからさ・・
まぁそこがマイナスポイントな。

 だけど仕事のキャリアがそれなりにあって、料理をマメに作るような人
らしくて結婚したら毎日美味しい料理が食べられて、やさしく包んでくれて
旦那になる奴は幸せになれるそうだ」  


2023.4.20    2話更新
10.

" A Chance ご縁 "

 「家庭を持ったら絶対旦那様を幸せにしてくれる良い奥さんになれる
素敵な人だと思うの。

 長年同じ職場にいる私だから分かるのよ。

 桂子さんのことを悪く言う人なんて一人も聞いたことないし
異性からだって、きっと何人かと付き合ったことのある男性《ひと》で
見る目の備わってる人ならきっと、彼女の良さが分かると思う」

 これまで個人的な付き合いはほとんどないと言いながら、知世は
相手の女性がいかに家庭的で素晴らしい奥さんになれるかと、太鼓判を押す。

 まるで親友に対するような入れ込みようだ。

 そんなこんなでギリなんとか話を持っていけるのが小野寺しかいなかった。

 恋愛ならまだしも、そして頼まれてもいない相手に3才も年上のもうすぐ
四十路になろうとしている女性を紹介するはめになろうとは。

 さて、どんなふうに話を持っていけばよいだろうか・・と、緒方は頭を
悩ませた。

 しかし、途中で緒方はあることに気がつき、苦笑するしかなかった。

 自分も恋愛で尚且つ若かったとはいえ3才年上の知世と付き合い
長い同棲期間を経て結婚していることに。

 縁は異なもの味なものというじゃないか!

 縁を結ぶきっかけを作る橋渡し役なんて人生にそうそうあるものでもなし
妻の知世がああまで力説するのだから素敵な女性なのだろう。

 マイナスの感情は捨てて、小野寺にちゃんと話をしようと決めた
緒方だった。


9
" My Wife's Request 妻のお願い "

 交際をすると決めるからには、「結婚を前提に・・」で、始めて
くださいと、自分との打ち合わせもなしに妻の知世がある意味
小野寺に少しばかりの負荷をかけてくるようなことを言い出したので
緒方は胸の内で小野寺にすまないと手を合わせていた。

 今回のことは、そもそもが妻の知世にせっつかれ、桂子よりも3つも
年下の小野寺だったから、話だけならと消極的な気持ちで彼に紹介の
話をしたのだった。

 職場にはどこをどう見回しても39才から上の独身者がおらず
正直にそのことを知世に話すも、年下でもいいから適当なのはいないのかと
せっつかれ、無理やり白羽の矢を立てたのが小野寺だった。

 妻があまりにも熱心なので・・

 話だけはしてみるけれど、というスタンスで、3才も年下だから期待は
しないでくれよと、ひとまずは釘を刺しておいた緒方だった。

 
「自分の会社の後輩に年上の女性を紹介するなんて気が引けるのは
分かってるんだけど、桂子さんの一生がかかってるから・・緒方くん
頑張ってみてくれない? 彼女、性格の良い人で手に職があってお料理も
上手で家庭的な人なの」
 


2023.4.19
8

" A Busybody.... Oyone世 話焼きおよね "

 私は話している間冷や汗をかきながら、視線を夫や小野寺くんの
顎の辺りを行ったり来たりさせながら話していた、へなちょこ野郎
だったのだけれど、小野寺君は神妙に私の話に耳を傾けてくれていた。

 その後、小一時間私と夫はその場に居続け、4人で一緒に会話を
楽しみながら食事をし、その後、私と夫だけが先に店を出たのだった。

  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「すごいな・・」

 「え? そう? 」

 私は夫の台詞に、何が? とは言わなかった。
 だいたい何が言いたいのか、予測がついたから。

 「結婚を前提に・・って・・ 」

 「そうだよ・・2~3回目までのデートは気楽に会えばいいけどさ
相手とその先もずっと付き合うって決めたら、その後はそれくらいの
気持でいてもらわないと、女は安心できないわよ」

 「俺たち同棲期間が長かったし、結婚前提っていう台詞も俺一度も
知世さんに言ったことなかったから、今日は焦った。

 もし過去に不安な想いをさせてたなら・・ごめん、申し訳ない。
 俺って朴念仁なんだな」
 

 「ふふっ、でも緒方くんプロポーズしてくれたし・・
あたし、幸せだよ? 」

 「おぉ~、ありがとな。
 俺も、知世・・コホン、知世さんと一緒で幸せぇ~」

 「「笑」」
 「Happy♪ Happy♪」

 踏切の音が鳴る直前、夫が言った。

 「幸せなら手を繋ごっ♪」

 カンカンカンーーーー大きな音が鳴り響き、踏切の遮断機が
降りる中、夫と私は手を繋いだ。

 私と夫の幸福な時間、これからも続いて行けー! 


2023.4.18
7

" ARAGAKI KEIKO 新垣桂子"

 ガキさんからは、今までお見合いは数回した程度と聞いてた
けれど、まぁ世知辛い世の中の荒波に伊達にもまれてない
流石キャリアウーマンだわぁ・・。

 私に向けて謙遜しつつ、それとなく小野寺くんに向けて話し
かけてる。

 ふふっ、ガキさんいい感じ。
 その調子で頑張れっ!

 ガキさんの前に座ってる小野寺くんもにこやかに私とガキさんの
話を聞いている。

 こんな和やかな雰囲気の中で、夫が改めてふたりの引き合わせの
紹介を始めようと口を開きかけたのだが・・おっと、ごめんよ雅也さん。

 「では、和んできたところで私から今後のことをお話させて
いただきたいと思います。

 まぁ正式なお見合いでもないですし、もちろんおふたりが
お互いのことをよく知り合う為に、気を楽にしてお付き合いを
始めればいいと思いますし、私や夫に一切気を遣う必要もありません。

 形式ばった報告とかも結構です。
 もう後はおふたりでやり取りしていただいたらいいかと思います。

 桂子さんに気持ちを聞いたりとか、具体的な展望なども全くお話
させていただいてなくて・・僭越ではございますが、私の独断でひとつ
提案させていただきたいことがあります」

  私は小野寺くんに向けて言った。

 「もしおふたりがお付き合いを決めることになった時は、最初から
結婚を前提に、という文言を入れた交際になればと思います」

 私が話している間、ガキさんは俯いて聞いていた。
 よけいなことを、と思われたかもしれない。

 重過ぎて交際まで進まない可能性もあるからだ。


2023.4.17
6

" A Lucky Find 掘り出し物 "

 
 小野寺は桂子より3才年下だ。
 私がもし桂子の立場だったとして、小野寺は掘り出し物だと思う。

 身長も187cmあるとかで、この良縁が纏まれば、私は一生桂子から
感謝されることになるだろう。

 私はこれまで新垣桂子と特別親しい間柄というのでもなく
同じ職場にそれなりの年月務め、独身同志だったというただそのひとつの
カテゴリで繋がってたような関係だけど・・。

 私は世間を独りで生きてゆく気楽さや自由も知っているが、一方で
侘しさみたいなものも知っている。

 何か、私は桂子にかつての自分を重ねてしまうのだ。

 私は二人の結びの神様になることを、小野寺を前にして
より一層強く思った。

 だから全く夫とは打ち合わせすることなく、しゃしゃり出て、小野寺の
胸中に届けとばかりに桂子の紹介をした。

「小野寺さん、はじめまして。
 主人からはどんな方かという話は聞かせていただいてたのですが
こうしてお会いしてみて、やさしい雰囲気の方でなんか・・桂子さんに
ぴったりのような気がします。

 あぁ、新垣桂子さんは私の職場の同僚で、彼女はファッションセンスが
抜群でモデルさんたちにも桂子さんの衣装は定評があるんですよ」

 「きゃぁ~、知世さん良いように言い過ぎです。
 恥ずかしいわぁ~」

 「ふふっ・・それに何といってもお料理上手で毎日お弁当作って
職場に持って来てるんですよ」

 「いやぁ~知世さんってば、大したことないのに・・。
 毎日地味なお弁当持参してます」


2023.4.16
5

" Such Is Life そんなもん "

 夫と小野寺の職場には19才と42才の女性事務員がいて、面白いことに
小野寺はその両方から人気があるのだとか。

 夫も私との結婚以前は小野寺と同様にそれなりに緒方さん緒方さんと
よく懐かれていたのに、入籍してれっきとした既婚者になった途端
彼女たちからの扱いが雑になったと嘆いている。

 その事務の女性たちの気持ちや接し方の変化、長年独身だった
私には分かるような気がする。

 世の中、そんなもん。

 相手が既婚者になってもそれまでと同じ熱量で接してきたら
その方がよほど(気持ち悪い)怖いわよ。

 42才の女性は、できれば小野寺のような男・・逃したくはないだろう。

 そのような少ない情報から知世は小野寺という男性像を脳内フル稼働して
どのような人物なのだろうかと想像していたのだが。

 
 首尾よく桂子と小野寺が良縁を結べばもしかして、私は、その女性の
小野寺を恋人にしたい、そして伴侶に・・という願望をぶち壊す酷い
人間ということになってしまうだろう。

 小野寺という人物は見た目の顔の造形そのものは、夫とは似ても
似つかないのに、微妙に女心を擽(くすぐ)り掴んで放さない人間力
みたいなものを備えているという点がよく似ていると思った。

 笑うと目尻が垂れて親しみやすくなる。
 話し方も穏やかでやさしい。



2023.4.15
 4.

" An Introduction 紹介 "

2023.4.15

 知世の夫の緒方は、自分も同棲期間が長かったことから、お試しが
大事だということを心得ていたので、小野寺を紹介するため彼に声を
かけた時も、まぁ軽い気持ちで会ってもらってその気になったらデートを
重ね、付き合っても良いと思うようなら、付き合えばいいのではないか、
くらいのスタンスで、『妻の職場に紹介できる独身女性がいるけれど
どう? 』と、小野寺に声をかけたのだった。

 長年の付き合いで、その辺の夫の考え方など、とうに熟知している知世は当日4人で揃い桂子を小野寺に紹介するにあたり、桂子の為にひと肌脱ぐ
覚悟でその日は引き合わせの席に着いたわけで、この件に関しては
自分が手綱を握って放すまいと決めていた。

 ふたりを引き合わせることになった日、夫の雅也が軽い調子で
小野寺のことを桂子に紹介した後、続けて知世が桂子を小野寺に紹介した。

 34才の小野寺は見た目30才でも充分通りそうな容貌を備えていた。
 年齢より若く見えるのに、それでいてどこか落ち着いた大人の雰囲気が
あった。

 実は知世自身も桂子と同様、小野寺に会うのは今回が初めてだった。

 彼が今だ独身なのは、女性にモテないというふうでもないが、職場に
女性が少ないのと本人がわざわざ彼女を作ろうと夜の街に繰り出したり
街コンや合コンなどに参加しないからではないかと夫から聞いていた。 


2023.4.14
 3.

" With Marriage In Mind 結婚を前提に "

 アラフォーと呼ばれるような妙齢の桂子は、2年前を最後に見合いの話も
途切れたままだったのだが、同じ職場の緒方知世から、彼女の夫
雅也の同僚の小野寺尊34才を紹介されることに。

 3才年下の寡黙で朴訥な知世の夫、雅也と同じ職場の、年齢的に
青年と呼ぶには少しトウが立ち過ぎている感が否めないけれど
見た目30才と言われればそう見えなくもない風貌をしている
小野寺尊おのでらたける

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 緒方知世は、桂子を緒方に紹介するにあたって1つだけ、どうしても
外せないこだわりがあった。

 彼が桂子との交際を決めたならその時は、「結婚を前提に・・」の一文の入った付き合い方をしてもらいたいということ。

 「結婚を前提に・・」の一文の入ったきちんとした、そして多少の
重々しさを含む付き合いを知世が望んだのには理由わけがあった。

 長い長い同棲の末に奇跡的に?妻の座を射止めた知世ならではの
思い入れがあればこそであった。

 桂子に亀卦川康之と石川恭子のことを教えたのは知世だった。
 もちろん、知世は桂子が亀卦川に弁当を作っていることを知っていた。

 そこには桂子が馬鹿を見ないようにという、老婆心があった。

 今まで個人的に特に桂子と親しくしていたわけではなかったが
そんな風に桂子の身辺を眺めていた知世は、いつしか独身生活の長かった
自分と彼女を重ね合わせるようになっていた。
 
 その為、知世は職場の人間で桂子に似合いそうな真面目な独身者がいないのかと熱心に夫にアプローチをかけていたのだ。 


2023.4.13
 2.
 " An Ambivalent Relationship - あやふやな(曖昧な)関係 "

 お弁当作りは思ってた以上に楽しかった。
 亀卦川康之から好きなものを聞き出し、彼の弁当を作るように
なってからは、自分の好みよりも彼の好物を優先した。

 伴侶や子のいない桂子にとって誰かの為の食事作りは新鮮で遣り甲斐の
あるものとなった。

 少し入れ込み過ぎ気味の桂子は、夕飯も時々康之を自宅に招いて
振舞うようになる。

 そんな桂子のほだされた感満載のやさしさに付け込むように
亀卦川康之はまるでそうするのが当たり前のように桂子を抱いた。

 夕食を振舞うと称しての自宅への招待。

 それがいつの間にかまるで逢瀬のようになってしまい、その都度
繰り広げられる淫らな夜の生活。

 少しの罪悪感と戸惑い・・があるものの、そのような奇妙な関係が
しばらく続いた頃、桂子は亀卦川が同じモデル仲間の石川という美しい
女性と付き合い出したことを知る。

 桂子の出した決断、それは・・。

 自宅には金輪際招かない。
 自分は彼の恋人でもなんでもない存在であるということを
自分に再確認させること。

 仕事場に持って行く彼の為の弁当は作り続ける。

・・ということだった。

           ・・・

 そしてそんなやこんなで1年過ぎても桂子は生真面目に
亀卦川の弁当を作り続けていた。

 自分から辞めるという選択肢がなかったのだ。
 振られたから腹いせに弁当作りを止めたなどと、死んでも
彼に思われたくなかった。

 ちっぽけなプライド・・。

 亀卦川が断ってくるまでは、作り続けようとそんなふうに
決めていた。



2023.4.11

1
" Bento 弁当 "

 独身歴のそこそこ長いキャリアウーマンの新垣桂子は
モデル等の衣装スタイリストとして亀卦川康之と関わる
同じ職場に、長年籍を置いている。

 OLでいうなら、お局様といったところだろうか?

 あと、4~5人同様に同じ職場でヘアメイク担当等、長年籍を置く
仕事仲間がいる。

 モデルをしている亀卦川康之とは仕事で顔を合わすだけの仲だったのだが
亀卦川の妻の香が病気で家事がほとんどできないという話を聞いた
新垣桂子36才は某年7月末頃から亀卦川康之の弁当を作るように
なる。

 モデルをするぐらいだから亀卦川康之はスマートでマスクもかなり
整っており女心を妙に擽《くすぐ》る雰囲気を備えている。

 そして見た目通りのキャラをしておりざっくばらんで話しやすく、それで
いて女心を惹きつける魅力があった。

 これまで桂子は意識しないよう意識して、雑談などを職場の同僚の態で
亀卦川と関わってきた・・のだが。

 奥さんの病状が芳しくなく、最近は外食ばかりだという話を聞いた時
すぐに彼の為に純粋にお昼お弁当を作ってあげたいと思ったのだった。

 相手が既婚者だなんて端《はな》から知っている。
 封印していたものの、どこかで彼に惹かれるものがあったかもしれない。
 彼にお弁当を作るようになった頃、ふと脳裏に浮かぶ疑問符があった。

 同じような状況だったとして、これが彼ではなくて他の誰か
だったとして、それでも自分は同じようにお弁当を作っただろうか?

 簡単に出ない答え・・に、桂子は詮無いことを今更考えても仕方ないと
途中で考えることを放棄した。

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