週末の電話
土曜日は決まってこの時間まで寝る。
キンキンに冷えた部屋、暖かいふわっふわの毛布をかけて。
本当は寝てたかなんかない。時間を有効に使いたい。
そのくらいには20代社会人にとって土日は貴重な休み。
だけども決まって体は動かないのである。
ほんと飲みすぎたなぁ。
そんな時、携帯の液晶画面がついたことに不意に目をやる。
週末予定作ってなかったや。飲みの誘いかね。
膝だけで動きながら携帯をタップする。
当日の昼ごろ電話をかけてくる友人はほぼ決まってる。
5人くらいが頭に浮かぶ。
でも最近は決まって電話がかかってくるのはーーー
(おはようー、いまなにしてるのー?)
女性なのに低い声。でも落ち着くんだよな。
[おはよう〜寝てた…]
そういえば昨日の飲み会で会社の人に失礼なこと言わなかったかな。ふと思い返す。
(いやいや、バカ…もう14時半じゃん。マジで貴重だから外早く遊びに行っといたほうがいいよ。)
笑いながら言う。指摘するくらいなら自分も電話なんかしてないで遊びにでも行けよ。
携帯をタップしてスピーカーに切り替える。
[言われなくてもわかってるって。でも毎日時間を貴重に使ってるからこうやって休息も必要なんじゃん。]
(そうやってさ、昨日も飲みすぎたんでしょ。)
昨日の飲み会で同僚に二の腕を揉まれたことを思い返す。
どさくさに紛れてなんだかんだセクハラかよ。そう言う時だけ、調子いいよなほんと。
[金曜日の夜なんだしいいじゃん。こっちだって楽しくない飲み会だよ?]
(別に責めてなんかないよ。お疲れ様って思っただけ。)
[本当、私のことよくわかってるんだね。]
半周転がって天井を見上げる。
[私さぁオリンピックまでには結婚するって決めてたんだよね]
(ああそう、、)
その反応は良い人もいないのだろう。
まぁ一年前の自分にさえ彼氏いないんだし、到底無理か。
実は75%ぐらいには想定通りでちょっとがっかりした。
(ていうかさ、厳密にはその夢まだ期限きてないわ。)
大声でいやらしく笑う。変な笑い方。気をつけよと。
[ずるい!それ、明日が閉会式だからってことでしょ?
負けず嫌いにも程があるよね。]
(いやいや違うって。オリンピックね。やってないんだよ)
言っている意味がよくわからないけど。
つまらない嘘だなと思ったので言い返す気がなくなった。
[ねえねえなんで電話してくるようになったの。]
(だってすっごい暇なんだもん)
[彼氏とかいないの?]
(申し訳ないけどいない…しばらくはできないかも笑)
[なんで!自信持ってよ笑]
(本当に出会いないんだよね。仕事以外外出ないからさ。)
毎日のように飲み歩いている私はどうやら一年後にはインドア派になったらしい。
[マッチングアプリでも始めれば?]
(いいんだけど、会いたくないんだよね。怖くて。)
私らしい真面目な理由だな。何度もやろうやろうと思ったが、なんだかんだ始めることができなかった。
何も知らない赤の他人に会うのが怖くて。
[まぁいいや。でも体には気をつけてね。仕事しすぎだと思うからさ。私そろそろ起きるわ。]
充電コードに繋いだままの携帯を勢いよく抜き取る。
(うんわかった。体には気をつける。そっちも夏なんだから思い切って遊びなよ!私のために彼氏でも作ってよね。)
[はいはい。わかった。]
液晶画面の中央をタップした。
顔でも洗ったら遊びに行こうかな。