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リアリティって? <小説の書き方>

「リアリティがありませんね」
この言葉、作家が編集者によく言われるランキングのベスト3に入るのではないでしょうか。特に私がお付き合いしているミステリー作家さんは、みんな経験があるそうです。
飲み会では「そもそもリアリティって何なんだ!」と激しく盛り上がるくらいですから。

私もこれを言われて「そうなのかあ」としゅんとしたことが何度もあります。「展開が遅い」とか「キャラクターの書き分けができてない」とかなら対応できるのですが「リアリティがない」と言われるのは、往々にして物語の根幹に関わる大事な部分なので、困ってしまうのです。

でも「小説のリアリティ」ってなんなのでしょう?
「事実は小説よりも奇なり」と言うほど、とんでもない出来事、信じられない事件が、この世の中には起こります。

数年前には考えられなかった技術が、どんどん普及しています。数年後の未来は、今から見れば不思議なもの(こと)が流行っているかもしれません。
数十年後なら奇妙奇天烈な世界になっていてもおかしくありません。

現実のリアリティに縛られていて、読む人に現実を忘れさせることはできないと思います。

物理的な技術や発明などはSFの領域なので、置いておいて、厄介なのは
心理面のリアリティです。

登場人物の行動、さらにその元になる心理・感情・思考・動機。
この辺のリアリティが問題です。

「この人、こんなこと言うかな?」
「こんな事件、現実的に起きるわけない」
「こんな動機で人を殺すなんて」

読者にそう思わせてしまったら、それは悔しいけれど、リアリティが無い状態なのでしょう。

その手前で、作者自身が「ちょっと、ありえないかも」などと、ぐらぐらしていたら、読者を説得できるわけがありませんね。

リアリティをどうやって担保するか


(これは私が今、ちょうど新作ミステリのプロット作業をしていて試してみたことです。参考になればと思います)

私は最初のアイディア出しの段階では、リアリティは一切考えません。
最初から、常識的かどうかとか、現実的にあり得るかとか考えて、せっかくのアイディアを否定するのは想像の翼をもぎ取る行為だからです。

「現実にあり得なくても、その小説世界でありそうなら、すべてリアリティがある」
そう考えるようにしています。

その代わりプロットを進めていく段階で
「自分の小説世界なら十分にリアリティがある、なぜなら○○○○だから
この○○○○を徹底的に突き詰めるようにしています。裏付けですね。

この世の中、なんだってありなのですから、作者である自分が自信を持って「これはあり得る。なぜなら○○○○だから」と熱弁がふるえるだけの確信を持てれば良いのです。

○○○○を見つけるトレーニング

(ミステリなので犯罪事件を例にします)
世の中には「そんなことが起きるの?」と思うような事件がたくさんあります。そう言う事件を書物やネットで探します。もちろん日常的にアンテナを張っていて、引っかかるものもあります。
トレーニングなので、自分の小説の構想に似通っている必要はありません。

その不可思議な事件が、なぜ起きたか、どのようにして起きたのか、を徹底的に調べて、どんな動機だったのだろう(注)と、その犯人になったつもりで考えます。

(注)ニュースや裁判結果に書いてある事実は間違いないでしょうが、人物の心理や動機は間違いかもしれません(犯人が正直に言うとは限りません。むしろ嘘の方が多いでしょう)

自分が事件記者で、その記事を週刊誌に書くつもりになると、気合いが入りました。

このトレーニングは、実際に起きた事件を頭の中で再構築する作業です。
想像力と根気がいることです。
大変ですが、その作業を続けていると「こういう心理だったらあり得るかも」「なぜなら○○○○だから」と閃くことがあります。
その時、私はその犯人になりきったのだと思います。

実際に自分の小説で同じことをします

このトレーニングでしたことを、今度は自分のプロットでもやってみました。小説の中で(私が)起こした事件を見つめ直して、なぜこの(私がつくった)人物はこんな事件を起こしたのだろうと考えます。

このときも事件記者のつもりで考えます。犯人の心理に鋭く迫った良い記事になったら、デスクに原稿料の上乗せを頼もう、などと考えながら。

その気で考えると、それまで用意していた犯人の動機がいかにも不十分だったり、辻褄の合わないことが、はっきりと見えてきました。

ここまできたら、あとは自分のつくった人物が、その事件を起こすだけの「なぜなら○○○○だから」を見つけるのです。
一度考えたことですが、再度、ゼロベースで想像します。

そうして改稿しつつある私のプロットには、十分なリアリティが備わりそうです。何より自信が持てました。小説の本編を書き始めるには十分な状態です。

と言うことで、新作ミステリのプロットはもう少しで固まりそうです。





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