プロットの「最初の三行」の意味
二日前に公開した私のプロットですが、「シーン表」の中の「最初の三行」について補足しておきます。多分、この紹介は初めてだったと思いますので。
なぜ「最初の三行」を作ったか
「最初の三行」欄を作ったのは、ある人からの指摘が元でした。
まだ新人賞に応募をしていた頃です。その指摘は
「酒本さんの小説は、パッと読んで、何を書いているのか分からない」というものでした。ショックでした。
※「最初の三行」の説明をする前に、私のプロットの全体構成がわかる記事をリンクしておきます。未読の方はまずこちらからどうぞ。
この記事で紹介した「シーン表」の冒頭に「最初の三行」があります。
文字通り、それぞれのシーン(節や章、プロローグ)の始まりの三行分です。
もともと、私が書く小説はストーリー重視で、次々に新しい事件が起こり、新しい人物が登場し、スピーディーに展開していきます。
場面がくるくると代わり、次々に人物が登場する。しかも三人称で視点人物を複数作るので、シーンが変わったときに、
「誰なのか」
「場所はどこか」
「何をしているのか」
それが分からないと指摘を受けたのです。
読む人を混乱させる書き方を平気でしていたのです。
さらに、ミステリーですから、過去の隠していたエピソードや真相を書くために、回想シーンを作ることも多かったのです。
すると今度は
「これはいつのことなのか」
という迷いまで生まれてしまいます。
「最初の三行」の書き方
これが実際の「最初の三行」です。
ポイントを赤字にしてあります。1シーン目で言えば
「アッコは」
「噴水の前に」
「立っていた」
「夏」
「新潟駅」
というように、読み始めてすぐに5w1hが分かるようにしてあります。
以前の私だと、格好をつけたくて次のように始めていたでしょう。
ここか。集合時間まではまだ三十分もある。時間をつぶせばよかったのだけど、どうにも気がせいてしまった。やっぱりまだ誰も来ていない。
「おう、アッコ」
このままだと、読む人は何が書かれているのか分からないままです。読むのをやめてしまうかもしれません。じっくり読んでくれる人ばかりではないのです。
特に大事な小説冒頭の「最初の三行」
シーンの変わり目が大事ならば、もっとも大事なのは、小説のスタートです。どのシーンよりも早く、読者に何が書かれているのかを伝えたい。
小説を書き上げるまでに、作者は何十回、何百回とスタート部分を読みます。しかし、主人公のこと、何が起こるか、すべてを知っている作者は、スタートが分かりにくくても気にならないのです。
つまり初見の読者の気持ちが分かりません。
初めて読む人に、戸惑いなく読んでもらえるような工夫が必要なのです。
下記に引用したのは、先日、noteの連載を終えた『サマスペ! 九州縦断徒歩合宿』の冒頭です。
正確には三行ではないのですが、できるだけ早いうちに、読者に必要な情報を与えようとして書きました。
太字がその情報部分です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・★一日目
悠介はリュックを背負って、炎天下をひたすら駆けていた。
「走れ、悠介。立ち止まるな」
背中に怒鳴り声が響く。後ろをちらりと窺う。悠介を追い立てるのは、真っ赤なランシャツのアッコ先輩。
「どうした、悠介」
「先輩、どこまで、走るんですか」
「まだまだあ。前向け、前」
悠介は左手で額を流れる汗を拭いた。右手に持つ濃紺の旗は、『早新大学 ウォーキング!同好会』の文字が白く染め抜かれている。見たこともない景色、初めての道。太宰府駅をダッシュで飛び出してもう二十分近い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中ほどにもう一人の重要人物、アッコとの掛け合いがありますが、セリフ主体なので、さっと読み進められると思いました。そのすぐ後に、
大学とサークル名・・・主人公の所属、立場
太宰府駅・・・場所
という大事な情報を書きました。
このように
・「最初の三行」に徹底的にこだわって書いてみる
・それだけを全シーン分、まとめて管理する
ことで、作者はすべてのシーンの出だしを何度も確認して物語を俯瞰することができます。
その結果、読者が読みやすい小説になることでしょう。
以上が「最初の三行」の意味でした。
補足を二つ。
①小説の冒頭で読者に衝撃を与えて、一気に小説世界に引きずり込むというやり方もあって、その時は、何が起きているのか分からないように書きます。(私も読者としては大好きです)
ただ自分がやるとしたら、固定ファンが待っている時か、ネタが素晴らしい時だけにした方が良いと思っています。
②ミステリの叙述トリックのように、わざと隠したり、迷わすように書くこともあります。それはまた別の話になります。
※私の小説で言えば『幻のオリンピアン』がそういうタイプの小説でした。
以上です。お付き合いいただき、ありがとうございました。
参考になれば何よりです。
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