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新人賞の選評は宝の山<小説家になる>

小説新人賞受賞に向けて執筆をしている方へ

受賞するためには「新人賞の傾向と分析」をすることが必要だとよく言われますが、今日の記事はそういうことではありません。
この賞は本格ミステリ向きだとか、ファンタジー要素が必要だとか、恋愛シーンのある作品が過去、受賞している……とか、小説指南本やサイトに紹介されている、そういう一般的なことは「ふーん、なるほどそうなのか」と思うだけです(それも大事かもしれませんが)。

かと言って、過去の受賞作を読むのは正直言って大変です。もうその賞だけに集中して脇目も振らず、という人は別ですが、自分の好きなジャンルの小説でデビューしたいという人は、複数の賞に応募するでしょう。
 その都度、賞の特徴がわかるように過去の受賞作を何作も読むのは、効率が悪いと思います。

もっと実戦的に作品をブラッシュアップするヒントがあります。

受賞発表の選評に書かれている注意点を、自分の書いた作品に当てはめてみること


これがこの記事でお話ししたいことです。

受賞作品の発表の際には、受賞作はもちろん、選考に残ったものの惜しくも賞を逃した作品についても、選評が書かれていることが多いです。

選考委員はどうしてその作品を選んだのか、何が気に食わないからその作品を落としたのか、それが書かれているのが選評のコメントです。

ここで大事なのは、足りない点、残念なポイント、落とした理由。
つまりマイナス評価のコメントです。

自分の小説に、そのコメントを当てはめてみてください。

もちろんそのコメントは、あなたの作品に対して書かれたものではありませんが、人の作品についてのコメントを漠然と読むだけだと、わかったような気になるだけで、あまり意味がありません。

あくまでも自分の小説についてコメントされている、
これは自分のことだ
と仮定して考えることが大事です(二度言いました)。

選考委員のコメントに対して「ちゃんと書けている」と自信を持って
言えたら読み飛ばしてください。

「あっ、痛いところを突かれた」「自分の小説にもあるかもしれない」
と気づけたら、しめたものです。
それがブラッシュアップの最大のヒントをもらえたことになるのです。

だから、自分が書いた小説(短編でも長編でも)がないと、この方法は効果が薄いと思います。

あなたに何か一作でも、自分で書いた作品があるものとして続けます。

どの新人賞の選評を使うか

これはやはり自分が目指している新人賞の選評が良いと思います。ただ同じジャンルなら、その賞にこだわらなくても大丈夫です。
それにその賞の選評では足りないと思います。

そして丁寧にポイントをおさえて書いてくれる選考委員や評価コメントに力を入れている賞を見つけることが大事です。

私の経験では、ジャンルが同じ賞であれば、受賞までの選考ポイントや評価ポイントはさほど違いがありません。
レベルが高い良い作品なら、どの賞の候補にもなり得ます。あとはその時の応募者との戦い、相対評価になるだけです。

でも賞によって違うことがあります。それは選考委員の個性です。
論理的な分析をする人、思わぬ角度から評価する人、自分なりの小説論やメソッドを持っている人、圧倒的な熱量が伝わる人、それぞれです。

私は選評を読んで「この人に読んでもらいたい」と思って、応募したことがあります。作家さん仲間にもそういう動機で賞を選んだという話をよく聞きます。
ついでに言えば、私は「この選考委員の書く小説を読んでみたい」と思ってファンになった作家さんが何人もいます。

では具体的に

実際の新人賞の選評にあったマイナス評価のコメント(太字部分)をいくつか選んで、その先のブラッシュアップの仕方について説明を添えました。

ただし例にしたコメントは一文だけです。実際には対象の作品があり、選考委員のさまざまな考えが前後にあるので、それによって得られる気づきは変わるはずです。その大事なニュアンスは実際に読んで感じ取ってください。

『状況が不自然で説明不足、読者が混乱する』
自分の小説にも、わかりにくい設定やシーンがないか見直してみましょう。
もしあったら、それには二つのパターンがあります。
・自分はすべてをわかっているから(くどくど)書かなくても良いと思ってしまう。
・自分もしっかり考えていないから詳しく書けない。ごまかしている。
どちらも加筆修正が必要です。

自信がない場合は、たとえ小説は完成していたとしても、もう一度ストーリーを追いながら、辻褄が合わない、行動の理由が分らない、動機が弱い。そういう甘いところがないか探してみるべきです。
そしてバグ取りをしましょう。

視点がぶれていて誰の行動、セリフなのか分らない
自分の小説に視点人物が複数いる場合に、この指摘が当てはまらないか確認してください。
自分ではなく、誰かに読んでもらうことを想像します。
「ここは主語がないと誰だかわからない」と感じる部分がないでしょうか。 

 そう言う部分が何カ所もある場合、主語を明確にするだけでは解決しない可能性もあります。その場合は、視点人物をせめて章ごとに固定するとかの検討が必要です。

『時代設定がおかしい、この時代にこの描写は変』
これは年表をつくって、小説のできごとが起きた時に実際に何が起きているか、流行や社会現象、事件などをチェックすれば良いと思います。

私も苦労するのですが、特にIT関係の新商品などは、気をつけないと読者に違和感を覚えさせてしまいます。同様に古くさい言葉(逆にその時代にはまだない言葉)がないかどうかも要チェックです。

※そう言う目で自分の小説を見直すと、場違いな言葉や表現が『光って見える』ものです。

『小説の世界の設定がなかなかはっきりしない』
小説の世界観や設定、ルールをわかりやすく、早い段階で書いているか、ということです。たとえば舞台が架空の場所の時、文化・文明のレベル、交易の仕方、交通手段などはどうなっているのか、しっかり書けているでしょうか。

 現代社会なのか、過去の世界なのか、場所はどこなのか、あるいは異世界なのか。異世界ならば、その世界に馬はいるのか、サルはいるのか。食べ物は何か、貨幣はあるのか、電気はあるのか……こういったことです。

『タイトルが平凡で魅力がなく、本編の面白さを表していない』
自分のタイトルをもう一度見直して、変更する余地がないか考える。一発で選考委員の胸を射抜くようなタイトルかどうか。書店に並んだときに、読者が思わず手に取るようなタイトルになっていますか。

『なかなか事件が起こらない。読者が途中で退屈してしまわないか』
読者が引き込まれるシーンが自分の作品のどこにあるか、それをもっと冒頭に持って来れないか。無理ならば事件ではなくても、キャラクターの魅力的な紹介や、わくわくするような設定が最初の数ページにあるか。

人気作家なら「その内、面白くなるだろう」と待ってくれますが、初めての作家の作品は数ページで判断されてしまいます。
読者も選考委員も下読みの人も編集者も同じです。(仕事で読む場合は最後まで読んでくれますが、最初の印象は最後まで響きます)

※本編の時系列を崩したくない場合は、プロローグを作って、衝撃的な事件のさわりを書いておくという方法もあります。


これらはほんの一例です。
たくさん選評を読むと、何度も似た指摘が目に止まると思います。それに気づいたらチャンスです。それこそが自分に足らないポイントだからです。

さらに選評を読むべきもう一つの大事な理由は、自分が挑もうとしている、あるいは挑むかもしれない新人賞の選評だから、ということです。
自分の小説を読んで点数をつける人の言葉だと思うと、気合いが入るし、執筆のモチベーションが嫌でも高まるはずです。


最後に実際の作業イメージです。


・選評をしっかり読む。
・気づいた指摘をノートでもPCにでも書き出す。
・一つ一つ自分の小説に照らし合わせて、よーく吟味する。

そしてブラッシュアップを始めます。なんの手掛かりもないのとは
まったくレベルの異なる推敲作業になるでしょう。

※ちょっと偉そうに書いてしまいましたが、私も今、書き上げた長編小説があるので、同じことをやってみました。たくさんの気づきがありました。
「まだまだ、もっと頑張らないと!」
そう思いました。そう思えることが大事です。

ちなみに……
「よく書けている」と評価されているコメントは役に立ちません

実際にこの作業をしてみるとわかりますが「自分の小説もきっと上手く書けているだろう」と思ってしまうのです。

注意点、マイナス評価のコメントを読んでください。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
久し振りの<小説家になる>の記事でした。


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