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ワイルドな梨

 梨を買った。

特産というほどでもないけど、秋になると地元の梨がスーパーや道路沿いの直売所などに並ぶ。

母が亡くなってからもずっと変わらず盆暮れには、田舎の農産物を変わらずに送ってくれる伯母がいる。九州の島にいる。小学生の頃は夏休み毎年のように子供だけで遊びにいっては、優しい伯父伯母やいとこ達に随分と甘えさせてもらった。伯母からの荷物を見るたびに、そんな記憶が蘇る。私も毎年地の物をと秋口には新米と梨を送っている。


だから梨を買いに行った。

いつも通り買い物に出かけようと準備をした。何故か今日は鞄も財布も持っていくのが煩わしいなと思った。買う物の量が多くかさばる物なのが影響しているのかもしれない。レジ前でいつもリュックから財布を出し財布からカードを出しそして会計を済ませまた順番に直していく、手順を今思い浮かべただけでも煩雑だ。だからそれをすっぱりとやめよう。今日から。妙案だ。カード類だけポケットに入れて家を出た。合理化の波が来た。私に。


買い物カゴと身一つで車に乗り込むと、ピックアップトラックを窓開けて肘付き出して乗ってるような気分になった。アメリカの映画でよく見るシーン。カウボーイハットを被ろう。

ワイルドだろ。

朝からずっとシトシトと誰かの別れの涙みたいに雨。

でも


ワイルドだろ。


自分のワイルドさに段々とスギちゃんの気持ちになってきた。お笑い芸人のスギちゃんだサンミュージック所属らしい。


ワイルドだろぉ。



お財布と鞄を置いてきたら、スギちゃんが付いてきた。


私はずっと心にスギちゃんを宿しイージーライダーのような気持ちで買い物した。


雨だったけど。


風を感じる。


ワイルドだから。


会計のレジに並んだ。


人生の大先輩な御婦人がお会計をしていた。

50円という単位のお金を1円玉と5円玉で支払おうと四苦八苦していた。


私はポケットに放り込んだカードを握り締めながら、ニコニコ現金払いでなんとしても小銭を消費しようという人生の大先輩の姿勢もある意味ワイルドなのかもしれないと、見当違いの事を考えたりしながら待っていた。



梨を買った。


家に帰って梱包した。


すぐにクロネコに持っていった。


品物の欄には梨と入力した。


それ以外になんとなく今日のワイルドな気分も幾らか紛れ込んでいる気がした。


伯母にも届くかな。


スギちゃん。





オシマイ。

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