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コーヒー・ルンバ



駅前まで歩こうと思ったのに気付けば車に乗って駅前にいた。運動不足解消を目論だのに大失敗。だから運動不足に陥るんだ。ちょっと離れたところに車を停めてそこからてくてくと歩く。

  ドトールでも別に良かったのに客席がいっぱいだったから、商業施設の中の喫茶店に入る。個人経営の地元の喫茶店。外で白以外のコーヒーカップでコーヒーを飲むのが久しぶりだったことに、出されたカップに描かれた花の模様を見て気づく。きちんとカップアンドソーサに注がれ人に淹れてもらうコーヒーはどうしてこんなに美味しいのかと、喫茶店で何千何万回と人類が思い浮かべたであろうことに、何千何万回に一回分を追加して私もまた思い浮かべた。

カチャカチャと音を立てるキッチンからのBGMが心地よい。琥珀色の飲み物の香りと温度が脳に直撃して幸福な気分になったのもつかの間、あの透明な板が視界に入るとすぐに窮屈になった。目障りなアクリル版で狭められたテーブルは法を冒す冒さないに関わらず、収容所に押し込められる罪人のような気持ちをもれなくプレゼントしてくれる。

執行猶予もなくいきなりの実刑判決。冤罪です。あの優柔不断な検討士の総理大臣じゃ、国民全員囚われ人みたいなもんだけど。

飲み終わったコーヒーの代金を支払おうとレジの前に立つ。レジでのやり取りの宙ぶらりんの時間に仕方なく目を留めたら商品が欲しくなる人間の心理に基づいて、この喫茶店もレジ前にご丁寧に産地毎の豆が陳列されていた。一応人間である私もやはり手持ち無沙汰の時間にそれらの豆に目を通していたら、家の豆を切らしていることを思い出し、豆を買って帰ってもいいんじゃないかなと思った。

まんまとレジ前商法に絡め取られた。普段の価格から少々逸脱したこの豆から買って帰るべき一品はどれだろうとない知識をフル稼働させていたら、二代目風な店主お店の方が声を掛けてきた。豆の好みなんてない、別に何でも良くなった。この店主のコーヒー愛溢れるウンチクを拝聴したらどれでも良いから買って帰ろう。

駅前の商業ビル、同じフロアにはスタバ。はじかなくても良いそろばんんを頭の中でパチパチと弾いた。改装して採算採れてるのだろうか。とにかく客単価を上げないといけない。なぜか春闘のはちまき撒いた労働組合みたいなテンションでコーヒー豆を買う必要性に駆られた。スタバが何だドトールが何だ、大企業が何だ外国資本が何だ、コストが何だ、日々の暮らしを支える労働者を守るんだ。


デモ行進中の共産党員になりかけたところで無事豆を買って帰った。




買った豆で淹れたコーヒーはもちろんちゃんと美味しかった。

豆の名前はもう忘れちゃった。







そして今日もまた

熱くて苦いだけの

コーヒーを飲んでる。


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