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福祉施設のパンはなぜ安いのか③:PSWの福祉コラム

こんにちは、PSWライターのりくとんです。今回のコラムも3回目。はじめに「その①」ではなぜ福祉施設のパンや商品は安く売ることができるのか?と言ったシステム面を解説し、

次に「その②」では、福祉施設が安さを売りにしてはいけない理由についての説明を行いました。また合わせて、福祉商品の購入者層が「慈善活動」として購入を続ける以上、「福祉商品」を売りにすることは却って施設寿命を縮める可能性があるとの話も行いました。

最終回となる今回は、「福祉であること」を売りにせず、きちんと適正な価格で市場に参入した施設について2つ紹介したいと思います。

最初の予備知識

その①で言及した内容の復唱になるのですが、商品価格の設定上大切な話なのでもう一度。

就労支援の中で、利用者に給料を払うのは「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」の2つだけです。就労移行支援は、病院が看護学生や医療事務学生を受け入れる「現場実習」のようなものですのでシステム上人件費が発生しません。

また、福祉施設の多くを占める「NPO法人」は、法人利益を出してはいけないという縛りがあります。利用者に作業工賃を支払わない前提では、利益を上げるような営業はNPO法人の非営利という原則に触れてしまいます。

そのため、その施設商品が「相場より安い」からと言って、一概に悪い!とは言えない側面があることを最初に補足しておきます。

(それでも私は、施設商品は適正値で売るべきだし、上がった収益は就労移行利用者だろうと作業費として支給したらいいじゃないかと思っています。就労移行支援は現場実習よりもインターンに近く、ある程度の責任を利用者本人が負っていると私は考えます)

それでは、話があまり逸れてしまう前にご紹介したい施設について2箇所紹介たいと思います。

ティア/風と虹の店:野菜ビュッフェ

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まずはじめにご紹介したいのが、福岡県八女郡広川町にある『ティア/風と虹の店』です。こちらのお店の売りは、丁寧に育てた野菜、珍しいヤギヨーグルト、わら納豆や手作りのパンなど、体に優しい自然素材のものを時間制限なくゆっくりと食べられること。全体的にさっぱりとした味付けで、オリジナルのソースも用意されています。味変しながら楽しめるので、老若男女誰しもが楽しめます。

こちらのレストランは、のぞえ総合心療病院が取り組む「就労支援部門」の一環。ここでは、就労移行・就労継続B型の利用者が働いています。こちらのレストランのコンセプトとしては「障害を見せない」こと。(施設コンセプトをもっと詳しく見たい方はこちらからご参照ください。)バイキング形式を取ることで、『野菜をちぎる』『玉ねぎをカットする』等、軽作業者もレストラン作業に従事できる工夫がなされています。

ちなみに写真は公式サイトのスクショ。ついでに食べログのリンクも貼っておきますね。ランチは1500円、ディナーは2000円(2019年11月25日調査)ですが、ご年配の方や子供に向けては割安コースも用意されています。バイキングにしてはややリーズナブルですが、ホテルバイキングなどと比べ品目が絞られているため、妥当な金額と言えるでしょう。

私も2度ほど立ち寄ったことがありますが、その両日とも早い時間帯ですぐに満席になってしまいました。当日の営業時間前までなら予約が取れますので、是非問い合わせてから行ってくださいね!

所在地:福岡県八女郡広川町大字新代1389-734

ハイワークひびき:日本一のマドレーヌ

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ハイワークひびきは、社会福祉法人ひびき福祉会の運営する事業所。利用者の高収入を目的に開所されており、ここでは欧風焼菓子の製造が行われています。(作られた焼き菓子は、画像リンクからショップに飛べるので確認してみてくださいね。)目標は、「日本一美味しいマドレーヌを作る」「福祉の事業所ではなく街のお菓子屋さんになる」こと。そのために本格的な専門設備を整備し、パティシエを採用したり製菓学校に施設職員を通わせたり、目標達成のための投資もきちんと行っています。

価格としては、一般的な焼き菓子相場から落とすことなく設定されていますので、その点もぜひショップサイトでご確認を。その際には、是非ここの「マドレーヌ」「フィナンシェ」の焼き色を見てください。

オーブンなどによっては色ムラが出やすいフィナンシェやマドレーヌ。こんなに綺麗に焼きあがっているのは、熱伝導の良い型・温度ムラが出にくいオーブンを使っているといった設備的問題だけではないでしょう。例えば、焼く前の生地の温度や冷蔵庫でのベンチタイムなど、きちん管理されているのだろうと推測できます。(ベンチを取らずに焼くと、焼き縮みや色ムラ、ベタツキにつながってしまうのです)

ひとつひとつの手間の意味を知って勝手に省かずに作業しているから、これだけ綺麗な焼き上がりが担保できるわけですね。さすが街のお菓子屋さん、私がコメントを寄せるのもおこがましい程だと思います。

また、毎月焼き菓子が届く「焼き菓子定期便」(ハイワークキッチンコレクション)は、能動的にリピーターを作る仕組みとしても注目です。

ハイワークひびきが作っている「焼き菓子」はお菓子の中でも鮮度が長く、洋生菓子のように生クリームがよれてしまう心配もありません。輸送に耐えるという利点を最大限に引き出した取り組みだと思います。

所在地:大阪府東大阪市中小阪5丁目14番23号(ひびき福祉会)

まとめ

最後の回はやはり盛り込みすぎましたね、長くなってしまって申し訳ありません。まとめていきます。

福祉施設としての営業は、『福祉商品だから安いよ!だからその分いろいろ多目にみてね』というメッセージも孕んでいます。

福祉商品は、価格を割り引くだけのシステム的な土台もあり、社会から「福祉商品は安い」という圧力もあります。だからこそ、福祉商品は「福祉商品」であることから脱却するべきなのです。ここで紹介した施設の有り様が、何かの参考になるのではと思っています。

今後、福祉施設、障害者本人を取り巻く環境が変わらない可能性は少ないでしょう。もしかしたら施設への支援費は減額されるかもしれませんし、障害者本人の障害年金の額が減る可能性だってあります。そうした時に、支援費や年金ありきで組み立てられた給料体制は簡単に揺らいでしまいます。

この記事をきっかけに、次に作る商品の「一般価格化」を意識してもらえたら幸いです。




駆け出しライター「りくとん」です。諸事情で居住エリアでのPSW活動ができなくなってしまいましたが、オンラインPSWとして頑張りたいと思います。皆様のサポート、どうぞよろしくお願いします!