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メダル 齧る 記憶

 そこには誰かが手にしたであろう金のメダルが置いてあり、私は無性に齧りたくなった。


もうすぐ我々の何もかもが消えてなくなる。地球は燃え尽きようとしている。その中ではこのちっぽけなメダルの光輝く記憶もすべて灰になり、この星の一部に消えてなくなってしまう。

最後なのだ…これが本当に最後だ….。


私はおもむろにメダルに手先を伸ばし、この手に取ってみた。

ずっしりと重い。傷が入り若干は汚れがついているものの、その様子から持ち主がこのメダルに対してどれだけ大切なものだったか容易に想像がついた。
なぜだか懐かしい。
メダルというか勲章のようなものはもらった経験はあるが、そういうことでは決して無い頭の最奥にある何か大切なかけがえのない思い出のように思えた。


そうまじまじとメダルをみつめ考えていると、広い部屋の窓から星の叫びとも取れるような酷く恐ろしい音が聞こえてくる。それはこの星が終わりを告げる音だ。時間はもう数分とない。


正直怖い。私は消えたくはない。思い出を消したくはない。

すべて無くなってしまう。星ごと死んでしまうのはどういうことなのか。
到底私の頭では解決できない。わかるはずがない。私たちはその先には行けないのだから。


だけどもその時は来る。 もうすぐ来る。




目の前にあるのは金のメダル。
私は無性に齧りたくなった。



最後のメダル齧り。



色褪せてしまった思い出も 

輝ききれなかった大きな夢も

憧れも
星も

大切な人も
 

全てこのメダルにまとめて―――――――――――――――――――――










齧る













メダルにぶつかった歯が振動する。

振動は歯から歯茎へ
歯茎から口全体へ
口全体から脳へ


この振動を俺は知っている。


ああ  俺は  暑かったあの日    この場所で

彼女からメダルを掛けてもらって 俺は……….

俺は





齧 っ た ん だ こ の メ ダ ル を





―――――かしさん

『――――――――たかしさん』

窓があった方向からなつかしい声が聞こえる


大切な記憶、フラッシュに包まれ光を浴びたあの記憶



とっさに振り向くとそこには赤いジャージを着た女性が立っていた



『お、俺は…….また君に……..君のメダルに―――――――――』


『もう大丈夫なんですよ――そんな事気になさらないでください。このメダルはあなたに贈ったメダルです。私からあなたへの ”憧れ” のメダルなんです。』


あああああ

こんな 俺なんかに やさしくしてくれて

贈り物までくれて

こんな最大の愛情表現で―――――

『ありがとう、後藤さ









ここは世界の先端

もうすぐ灰になるこの星の 最大の愛情表現。



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