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典型的なアインシュタイン

小学生の頃、賞状をもらったことがないのがコンプレックスだった。
私が通っていた小学校では、全校集会で”賞状授与式”のようなものが行われていた。
何かしらの外部のコンクールで入賞すると、全校集会で名前を呼ばれ、みんなの前で校長先生から賞状を渡してもらえるのだ。
絵、作文、スポーツなど、ジャンルはなんでも良い。
ジャンルに制限がないためか、賞状をもらう子は結構多かった。
もらったことのない子の方が少ないのではないかと思ってしまうくらいだ。
実際、私の周りの友達は、みんな何かしら賞状をもらったことがあった。
しかし、私は6年間で1度も賞状をもらったことがなかった。

自分で言うのもなんだけれど、私は優秀な子供だった。
少なくとも、小学生の頃はそうだった。
成績はほとんど「5」だった。
(正確に言うと、運動は水泳と柔軟以外苦手だったので「3」だったけれど)
文章を書くのも得意で先生によく作文を褒められていたし、美術も得意だった。
音楽だって人並み以上にはできた。
けれど、そんなの所詮、学校の中だけの話だ。
外部のコンクールで賞状をもらったことがないということは、自分は外に出ればなんにも評価されない存在であるということ。
つまり、自分には才能がない。
私は小学生にして、”自分にはなんら特別な才能はない。いわゆる天才ではない”と気付いていた。

時は流れて十数年。
とある金曜日の夜、私は六本木の蔦屋書店にいた。
都内の某IT企業に新卒で入社した私は、だいたい月に1度、予定のない金曜日の夜に蔦屋書店で読書をするのが日課になっていた。
我ながら、いわゆる一般的な進路を歩んできたと思う。
中学校までは地元の公立に通い、受験をして、学区内トップの公立高校へ進学。
1年浪人して関西の某有名私大に進み、4年で卒業して就職した。
”何者かになりたい”という気持ちを1度も持ったことがないと言ったら嘘になってしまうけれど、”自分には才能がない”とずっと思っていたから、普通に就活して会社員になった。
そんな私がこの日蔦屋書店で出会ったのが、エミリー・ワプニック著『マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法』という本だ。

正直、全く期待していなかった。
”好きなことをして、生きていく”というのがここ数年のトレンドであることはわかっているけど、私はその風潮にある種の反発のようなものを抱いている。
好きなことで食っていくことそのものを否定するつもりは全くないけれど、それが全てじゃないんじゃないか。
好きなことを仕事にしなくたって、別にいいだろう。
そんな風に思っていたし、今も思っている。
しかし私は、その日この本を購入してから帰宅した。
ビジネス書を買ったことなんかほとんどないのに。
でも、買わずにはいられないほど、この本に共感してしまったのだ。

”好奇心旺盛で、新しいことを学ぶのが大好きで、いくつものアイデンティティをはぐくみ、それを自在に行き来するのを楽しむ、あなたのための本なのです”
プロローグの一文だ。
私だ、と思った。
私は今までに、本当にたくさんのことに興味を持ってきた。
学生の頃は、自己紹介文の趣味の欄のスペースが足りなくてよく困っていた。
今の一番の趣味は旅だが、それ以外にも、読書も好きだし写真も好き。
料理もするし、お酒も大好きだし、ヨガも好きだ。
ダンスやフィギュアスケートもやってきた。
こうやって文章を書くのも好きだ。
マルチ・ポテンシャライトとは、何か一つのことに突出した才能はないが、その代わりに様々なことに興味を持ち、実行していく人間のことだそうだ。
読めば読むほど、”私はマルチ・ポテンシャライトだったのか・・・”と思わざるを得ない。
そして、一番共感したのは”興味のあること全てで稼ぐ必要はない”という部分だった。
本職を持ちながら、他に情熱を注げる取り組みを持つ。
本によると、このスタイルを”アインシュタイン・アプローチ”と呼ぶらしい。
私は典型的なアインシュタイン・アプローチ人間だったのだ。
”好きなことを必ずしも仕事にする必要はない。人生全体でお金と意義を満たせば良い”とエミリーは言う。
本当にその通りだと思う。

もし、私のほかにも「いろんなことに興味がありすぎる」「自分には突出した才能なんてない」「好きなことは多いけれど本職にするのはちょっと違うかも」と考えている人がいたらぜひこの本を読んでほしい。
もしかしたら、あなたはマルチ・ポテンシャライトかもしれない。

#読書 #読者感想文 #エッセイ #ひとりごと

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