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クローズアップだらけで構成するアンメットで記憶が蘇る瞬間のカット割演出

久々に秀悦なカット割りのシーンがありました。関西テレビ制作のドラマ「アンメット ある脳外科の日記」第7話のラストシーンです。このドラマは杉咲花さん演じる過去2年間の記憶を失った脳外科医川内ミヤビを取り巻く医療ドラマで、第7話「記憶がすり替わっている」では病院の仲間たちと居酒屋で楽しく過ごすシーンがラストにあります。千葉雄大さん演じる星前救急部長が料理の香辛料にむせて鼻水を垂らしてしまい、このことをミヤビが毎日欠かさずつけている日記には書かないでという言葉がきっかけで記憶が蘇るというシーンです。
このシーンは登場する主要キャラクター4人の顔のクローズアップサイズの構図がカットの多くを占める印象的なカット割になっています。

カット01

居酒屋で楽しく時間を過ごすシーンです。ミヤビの手術で臭覚を取り戻した店主のお祝いを兼ねた会として病院の関係者で集まっています。このシーンの環境を数カットにわたりわいわい賑やかな雰囲気で描いています。そして、千葉雄大さん演じる救急部長のセリフが記憶を呼び戻すトリガーになります。
星前「みやびちゃん、これ日記に書かないでね」

カット02

このカット02のカメラポジションによるみやびの構図がこのシーンにおける軸となります。最初は笑顔だったみやびの表情が徐々に変わっていきます。

カット03

このシーンは第2話のラストシーンになります。アメリカから帰国した脳外科医・若葉竜也さん演じる三瓶先生がミヤビの記憶を失った事故現場へ呼び出されたシーンです。カット03は三瓶先生から電話に出るカットです。
これはいわゆるカットバックとかフラッシュバックと呼ばれる編集手法です。カット03からカット05の3カットが極めて短い尺でカット06の間に差し込まれます。居酒屋のシーンを現在とすれば過去の記憶になります。
三瓶「これから言うことは…」

カット04

タクシーで呼び出された場所に到着したミヤビ。

カット05

三瓶先生と合流し、タクシーが去る。

カット06

カット06は居酒屋のミヤビのカットです。カット02と同じカメラです。
セリフはありません。ズームではなく、カメラが被写体に近づく撮影技法であるドリーインです。表情や心情を表現する際に多用される手法です。

カット07

ここで再び第2話のラストシーンへフラッシュバックです。
三瓶「日記には書かないで下さい」
カット07から08にかけてこのセリフをインサートしていますが、実際にセリフを言っているカットではなく、事故の様子を物語るカットでフラッシュバックしています。さらに三瓶先生のセリフを前のカット06に少しだけこぼすことで記憶が蘇る感を出しています。

カット08
カット09
カット10

居酒屋ミヤビカット。リバーブで飛ばしていた効果音はこのカットあたりでは完全に無音になり、ミヤビの表情だけで引っ張ります。そして、次のカットがまたフラッシュバックです。

カット11

三瓶「僕たちは…」

カット12

居酒屋のミヤビ、無音。ここでもゆっくりドリーインを維持したまま。

カット13

フラッシュバックで三瓶先生、カット11の続きです。
三瓶「婚約していました」

このカットでも三瓶先生のセリフを少し前にこぼします。こぼすことで「言われたことを思い出すことによって映像的な記憶も蘇る」感じが表現されています。

カット14

このカットはフラッシュバックの中で唯一、ミヤビ本人のカットです。「婚約していました」に対する反応のカットです。

カット15

ここで居酒屋のミヤビカットに戻ります。ここまでこのカメラのカットが3回出てきますが、このカットの冒頭で初めてミヤビがゆっくりと瞬きをします。つまり、「思い出した」「記憶が蘇った」と言うことを表しています。
そして、ゆっくりドリーインしながら左を向きます。

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