【インタビュー記事】最適なプロセスのデザインが私の仕事。みんなを幸せにする美しいプログラムとは
【プロフィール】
名前: Y.K
年齢: 47歳
職業: システムエンジニア(以下、SE)
最終学歴: 大学(教育学部 特別教科教員養成課程数学科)
――システム業界で20年以上働いているそうですね。教育学部の数学科から、なぜSEになられたのですか。
数学の先生になりたくて教育学部に入ったのですが、塾でのアルバイトや教育実習を通して、勉強したいと思っていない子どもたちをなだめて教えることの大変さを知り、諦めました。
大学時代にコンピュータに触れていて、そちらの仕事の方が合っていると思ったのでSEの道に進みました。
――大学時代にコンピュータに触れる機会があったのですね。
大学の選択科目の一つにコンピュータの授業があり、遊びみたいで楽しそうだと思って受けたんです。
最初は数学の数式をきれいに出力できるTeX(テフ)というソフトウェアを使うところから始めて、だんだんとネットワークやプログラミングにも興味を持つようになり、本屋で技術系の本を立ち読みして家のパソコンで試してみるようになりました。
同じ数学科のN君の家のパソコンから私の家のパソコンにネットワーク接続してみようということになり、夜中まで色々やってみた末に、ついに私の画面にN君のPC名が表示されたときは、「うぉーっ!」と二人で本当に感動しました。
プログラミングの方も、テトリスのゲームアプリケーションを作ってみたりして、そういう中でフレームワークの使い方や考え方などを理解していきました。
――SEと言っても色々な領域があると思いますが、Kさんはどのような仕事をしてきたのですか。
企業の業務システムのソフトウェアを多く作ってきました。初めはプログラマーとして先輩の設計したものをプログラミングするところから始めて、徐々に設計やお客様との要件定義をするようになりました。
要件定義とは、システムをつくる前に必要な機能や要件を文書にまとめていく工程を指します。
近年はアパレルのECサイトのシステム構築に携わっており、要件定義から設計・製造工程、その後の改修まで広く関わっています。
仕事で出会った人が次の仕事に誘ってくださるおかげで、これまで色々な仕事に関わることができました。
――KさんはフリーランスのSEですが、初めから独立されていたのですか。
いいえ。大学卒業後、IT企業に就職して2年間勤めました。
その後、友人から会社の立ち上げに誘われてシステム構築をしたことがきっかけで、フリーランスになりました。
――どんなことを得意としていますか。
要件定義、設計、プログラミング、データベースのチューニングなどの技術面はもちろんですが、お客様の「こんなサービスを実現したい」「こんな売り方ができるようにしたい」という要望に対して、それを実現するための最適なプロセスをデザインし、提供することを得意としています。
お客様がプロセスまで指定してシステム屋はその通りにシステムを構築することが多いと思いますが、お客様にはWhyとWhatだけ考えていただいて、Howは私に任せていただければ、一番いい方法で組み立てます。
一番いいというのは、この先お客様のやりたいことが増えてきてもある程度対応できるように汎用的に作ることと、費用を押さえて効率的に作ることのバランスを取った提案だと考えています。
――Kさんにとって、SEの醍醐味とはどんなことですか。
システム構築を通して、様々な業界の内情を知れることです。
例えば、アパレル通販業界の「ささげ」という用語を知っていますか?
撮影(さつえい)、採寸(さいすん)、原稿(げんこう)の頭文字をとった略称で、ECサイトで販売する商品の情報制作業務のことを言います。
ECにおいて商品は基本的な内容だけでなくささげの情報が加わるのを待って、やっとサイトに掲載されます。
そのためシステム側も、ささげ情報が追加されたかを判断するための仕組みを持っていたりします。
SEはその期間ごとに関わるお客様や業界が変わっていくので、自分が日常的に何となく触れていたものの成り立ちを改めて知ることが多く、独特な用語を知ることも含め、とても面白いです。
知ると、「ささげ」って言ってみたくなるでしょう?
――SEとして大事にしていることはありますか。
プログラムやその他の成果物の可読性を大事にしています。
お客様に納品しているシステムというのは、一度作って終わりではなく、育っていくものですし、そこに関わる人は私一人ではなく、私がプロジェクトを抜けた後も改修され続けていきます。
ですから、作った私以外の人がプログラムや設計書を見た時に、素直に想像した通りの処理を書いておくことが、後々のメンテナンス性を高めます。
手作業でA→B→C……と進めていく業務をシステム化するときに、Cから処理した方が高速に動くとしても、初めてプログラムを見る人はその業務の現実世界でのやり方を想像して見るでしょうから、そこで「?」が生まれないようにすることが大事なんです。
可読性の高いプログラムは見た目も無駄がなく美しいですし、そういう配慮がプロジェクト全体のストレスをなくし、効率を高めます。
ひいては、みんながハッピーに働けることに繋がると思っています。
――美しいプログラムですか。小川洋子『博士の愛した数式』みたいですね。
オイラーの数式の美しさを扱った小説でしたよね。
この数式は、数の関係性をシンプルに表すことを可能にしたのですが、突き詰めると、システムもプログラムも、いかにシンプルに作るかだと思います。
美しい文章も音楽も、実はシンプルなことが多いですよね。
――仕事以外の時間はどんなことをしていますか。
最近のマイブームは、漢字です。
漢検2級から始めて、準1級まで合格しました。成り立ちや意味があって、それを覚えるのがとても楽しいです。でも1級は格段に難しいですね。
ほかには、謎解きも好きで、先日は東京メトロが主催している地下鉄謎解きに参加しました。
一日地下鉄に乗って駅に行っては謎を解いて、次の駅を目指してまた謎を解いて……というのが楽しいです。
漢字も謎解きも、理屈があって、それを考えることで答えを導き出せるところに喜びを感じます。
――これからどんなふうに仕事をしていきたいですか。
教育学部だったこともあって、やっぱり教えることが好きなんですよね。
ですから、後輩たちに教えていくことをしたいです。
――最後に、この記事をご覧の方にメッセージをお願いします。
若い人材を育成したいとお考えのプロジェクトがありましたら、ぜひお声がけください。
一緒に仕事をしながら、技術的なことはもちろんどういう考え方で作るべきかを伝えて、私が学んできたことを次の世代に渡すことができたらと思っています。
可読性の高いプログラムを書けるSEを育てて、プロジェクト効率の向上やメンバーの幸せに貢献できたら、最高ですね。
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