見出し画像

「若者のコミュニケーションへの違和感」への違和感

こちらの記事がSNSで話題となっていました。

要するに「いきなり挨拶や前提条件の説明を抜きに質問をしてくる」若者=「書く力や伝える力の欠如」の現れではないか? というお話しです。わたしも大学やTwitterなどで学生から同じような質問を受けて少々面食らうことはあり、「うん、まあそうかも……」と最初は感じたのですが、少し考えてみると逆に違和感を覚えました。

筆者の中村さんは追記のなかで、以下の様に述べています。

この聞き方が嫌な理由は、単に答えづらいだけでなく、雑な聞き方によって「自分が蔑ろにされている」と感じてしまうからかもしれません。人によっては、自己肯定感まで下がってしまうと思います。相手の時間を奪っているという感覚がないのは、リスペクトがないからだと思いますし。だから、きちんと質問してくれるとそれだけで心温まります。

太字部分は筆者による強調

しかし、本当にこれは「雑な聞き方」で「相手をリスペクトせず蔑ろにしている」のでしょうか? 実際、このように質問してきた学生と直接話をすると、むしろ逆である印象を受けます。リスペクトしていない相手にそもそも彼らは質問しません。

長文文化がむしろ生産性とコミュニケーションの質を下げていませんか?

筆者は「チャット文化とメール文化の違い」をギャップの理由に挙げています。メディア接触経験が世代毎に異なりますから、これはその通りでしょう。問題はDXの必要性が指摘されるなか、それでもメール=長文文化を若い世代を中心としたデジタルネイティブに求めますか? という点かなと思います。

例えば先の記事の筆者は一言質問してきた学生への返信として、300字弱の返信をした(そして結果、学生のニーズとは異なっていた)ことを紹介されていますが、正直わたしも「長いかな」と思いました。学生が何を求めているか分からないなら「どういうこと? もう少し詳しく条件など教えて」で良いのではないかと。

この件で改めて思い起こすことがあります。いくつかの大学に関わるようになって驚かされる「会議の長さ」です。授業が1コマ=90分~100分単位のため、1時間で終わることは稀で2コマ、下手すると3コマ延々と数十人の教職員が会議室に拘束されることも。時給換算するととんでもないコストです。(注:わたしはIT系のベンチャーで会議は少人数で短く済ませるよう叩き込まれてきました)

そこで行われているのは、まさに長文が印刷された紙(多少DXが進んでいれば画面上のPDF)を読み上げて意見・質問を求めるスタイルの会議です。読み上げに8割掛かり、実質的な議論に2割くらいしか時間と労力が避けていない、という組織は学校に限らず実際のところ多いのではないでしょうか?

なぜそうなるのか? 会議の場以外での情報共有が上手く行われていないのが原因です。「根回し」と称して少数の主要な関係者(ステークホルダー)だけに話を通して置く、という組織文化では結局オフィシャルな会議では前提となる情報を関係者全員に全て共有したという体裁を取らざるを得なくなります。結果として生産性が下がり、議論に使える時間と労力も減りコミュニケーションの質も下がります。(なお根回し駆動型の組織の問題点は以下の記事などが参考になります)

話題の記事で述べられた違和感も、つまるところ「オンラインにおける対話的コミュニケーション」への拒絶反応である、という風に私には感じられます。例えば、もし「ワーホリ行くならどこの国がおすすめですか?」と教室などリアルな空間で質問されたとしたらどうでしょうか? 不躾な奴だな、とは感じることはもなく、すぐに「ワーホリ検討してるんだ、いいね。どんな場所を考えているの?」といった具合に応じるはずです。それがオンラインになった途端、受け止め方がガラリと変わってしまうことにむしろ問題の本質がありそうです。

仮にこのやりとりが、クラスに設けられたグループウェアなど、オンライン上のオープンな場で行われていたらどうでしょうか? チャット的であるなしに関わらず、そこでの対話は、他にもこの件に興味がある学生にとっても有益なものになり得た可能性があります。(そして、そのことは同様の質疑応答が別々に生じることに比べ、生産性の面でも有利であることは言うまでもありません)

今回のお話しは、Slackなど日常からグループウェアでのチャット=オンラインにおける対話的コミュニケーションを重ねていれば、そもそも生じなかった「違和感」ではなかったかなと思います。記事への反応も見るに日本のDX、まだまだ道のりは長そうです。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?