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関係人口創出を支える物語と「ナラティブ」

(扉画像は7月29日に行った講演の発表資料の表紙より)

6月の日経COMEMOへの寄稿で、関係人口創出に欠かせないのが「物語」であること、そしてそれはアニメ・小説・映画といったパッケージングされたコンテンツだけでなく、地域で共有されている「文脈」も含まれると書きました。

この文脈を表す良い表現がないかとその後、色々文献を漁っていたのですが「ナラティブ」がしっくり来ると考え、次のような図にまとめ北海道大学のオンラインセミナーで発表させて頂いています。

ファン・地域における物語とナラティブ

ナラティブは「ある社会、時代などについての、説明や正当化を行う記述のための物語や表象」などと説明されます。これがパッケージになっている物語(ストーリー)と何が異なるのか? 個人的には以下の説明がしっくり来ています。

「ナラティブ」は複数の出来事を時間軸に並べたもの、他方「ストーリー」はナラティブに「筋立て」という「プロット」が加わったもので、複数の出来事の関係を示すものとして区別される

野口祐二(編)「ナラティブ・アプローチ」勁草書房、2009 より

ナラティブは、文学はもちろん臨床心理学や経済学でも注目されるようになったため、定義がそれぞれの分野で微妙に異なっており学術的な取扱にはまだ注意が必要というのが実際のところです。

しかし地域振興施策に活かすという意味ではパッケージされているアニメ・小説のような物語・ストーリーと、それを起点として生まれ、SNSなどの言論空間で不特定多数の人々(ファン等)によって生成されるものがナラティブ(ファンナラティブ)、という理解で十分かと思います。

そして上記の図の下半分にまとめたように、舞台探訪を探訪する外部からの人々(交流人口)を受け入れることになる地域側にも、物語とナラティブが存在します。わたし自身、地域(新潟)に来てから4年になりますが、地域コミュニティにおいては、噂話に象徴されるようなナラティブが強い影響力を持つことを実感しています。それらの地域ナラティブを支えているのが、地域に古くから根ざしている伝承や一定の順序によって実施される祭事などです。人々は意識する/意識せざるに関わらずこれらの物語に影響を受けながら、日々の生活を送り、シビックプライド(市民の誇り)を共有した上で外部と向き合うことになります。このように地域において一定の影響力を持つ「物語」が、その地を舞台とするアニメ・小説などの「物語」で参照され、翻案されていることが、地域の人々とその地を訪れるファンを繋ぐ要素の1つにもなっているのです。

ファンナラティブと地域ナラティブ

マスメディアが起点でなくてもよい

ファンナラティブはメディアで伝播する物語が起点となりますが、これは何もテレビや映画などのマスメディアで放送・上映されることが要件ではありません。わたしは「舞台探訪のような観光行動は、舞台に選ばれていない地域は関係ないのではないか」というのはよくある誤解、というか諦めで非常にもったいないと考えています。

上記のような外部から訪れる人々と、それを迎え入れる地域の人々との関係は、何もメディアコンテンツに限った話でもなく、その地域に何らかの魅力を感じるということは何らかの物語や、それを巡るナラティブに触れたことがきっかけであることはごく自然なことです。要は「地域のファンになってもらう」ということは、すなわち物語を提供し、ポジティブなナラティブが継続的に生じている状態を作ることが重要であるということです。

先日の講演では、これをSNS(Twitter・Facebookなど)を単に認知獲得のためではなく関係構築に重点を置いて活用することの重要性や、そこで関係を結んだ人が、地域のオンラインコミュニティに「出入りする」ことができる仕組みの構築についてもお話しさせていただきました。それらについては近々書籍の形でもまとめる予定です。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。


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