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オンライン時代の小説のゆくえ(1)

電撃文庫の編集長をされていた頃からいろいろとお世話になっている三木一馬さんが、わずか1年ほどでサービス終了となった「LINEノベル」の振り返り記事をアップされました。(ヘッダー画像はLINEノベル公式ブログから引用)

日経ビジネスの「敗軍の将、兵を語る」のような例はありますが、終了したサービスについて、当事者から語られることは貴重ですし、とても誠実な、そして今後の野心的な取り組みの一端が垣間見える内容になっています。何よりも出版産業が抱えるジレンマがそこにはよく現れていると感じました。

三木さんの記事では、わたしが新潟で学生チームと企画・運営している「阿賀北ノベルジャム」にも言及頂いています。新潟に縁のある著者と県外で活躍する編集者・デザイナーが協働して作品を創り上げるこのイベントは、「NHKおはよう日本」(関東甲信越版)で取り上げられるなど、大きな注目を頂きました。

地方創生の文脈で企画したこのイベントでしたが、NHKでの取り上げられ方は「出版不況への対応」という切り口であったのが印象的でした。つまり、出版物が売れなくなった時代に、書き手の発掘と作品発表の機会をもたらすものとして捉えられたわけです。実際のところいわゆる小説誌は休廃刊が続きましたので、紙においては発表・育成の場は減ってますが、オンライン小説サイトの興隆でかつてよりも発表の機会は豊富になっています。

「出版不況」という印象とは裏腹にここ数年は統計を見ると産業全体としては善戦していることがわかります。

では、何が「出版不況」という印象を私たちにもたらしているのか? 上のHON.jpの記事で示されているように「紙書籍」と「紙雑誌」の市場規模は縮小が続いており、そのことが私たちが書店やコンビニといった実店舗で「売り場が減った」「出版物が売れていない」という印象を与えているのです。実のところ電子コミック市場はコロナ禍の中、飛躍的な成長を続けており特にアニメ化などからもたらされる版権収入を得られる大手出版社は絶好調とも言える業績をあげています。

つまり、メディアミックスの起点になるような原作マンガの周辺は、デジタルの恩恵も受けて好調、一方で小説をはじめとしたいわゆる「文字モノ」が苦戦しています。オンライン小説投稿サイトが大量に作品を集め、そこから「ライトノベル」のように商業出版に至り、さらにそこからアニメ化・映画化を経てヒットするというバリューチェーンが今後どうなるのか、は三木さんが先の記事で指摘しているように非常に気になるところです。コミックの売上規模が電子が紙を抜き去りさらに拡大を続ける一方で、文字モノがその勢いには乗り切れていないという状況は、危機でもあると同時に機会でもあるわけです。

そういう意味では、日本最大のコミュニケーションプラットフォームであるLINEと、電撃文庫でのノウハウと作家・出版界とのネットワークを持つ三木さんが組んだというのは、非常に強い座組で相当な商機があったはずです。にもかかわらず、上手く行かなかったというのは、文字モノ、特にメディアミックスとも相性が良いはずの小説がこのオンライン環境に、マンガのようにはDXするのがいかに難しいか、がよく現れた出来事でした。

わたしは小説のDXにはマンガ同様プラットフォームとの協業が欠かせないことに加え、そのプラットフォームがオープンであるか否か、が1つの要因になると考えています。次回はそのあたりを書いてみたいと思います。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。

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