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地域SNSは死んだのか?

(扉画像は「群衆の英知もしくは狂気」 https://ncase.me/crowds/ja.html より)

2006年ごろ日本各地で「住民参画」を目的とした、独自のSNSを導入する動きが相次ぎました。その先駆けとなったのは2004年に市のポータルサイトにSNS・ブログ機能を追加した熊本県八代市の「ごろっとやっちろ」で、当時の総務省も先行成功事例として紹介し、研究会を立ち上げ導入支援情報を発信するなど、かなり力を入れていました。

しかし、2022年現在、そのほとんどがサービスを終了しています。新潟県でも長岡市の「おここなごーか」、地方紙の新潟日報が開設していた「アメカゴ.net」も参照できなくなっています。2007年の上記記事で国際大学GLOCOM研究員の庄司昌彦氏は、地域SNSの課題として「住民参画の課題」「個人情報問題など」「にぎわいをつくる」の3点を挙げていましたが、自治体主導ではそのいずれも対応が難しく、ブームの終焉と共にサービスが維持できなくなった、と考えられます。

その後、多くの自治体ではTwitterやInstagram、LINEなどのアカウント、YouTubeチャンネルを開設するなどして主に広報部門が「発信」に力を入れる方向に舵が切られた形です。そのこと自体はもちろん間違っていないのですが、地域SNSでの住民参画に向けての理念がすっかり影を潜めてしまっているように見えるのは残念です。

外部効果の強い、つまり貢献に対するリターンが外部に流出しやすく参加の貢献のインセンティブが弱くなりやすいネット上の情報共有も、地域(物理的近接)のバインドのなかであればメリットを可視化、内部化しやすく、持続可能な誘因と貢献のモデルを構築しやすい。

丸田 一, 国領 二郎, 公文 俊平(2006)「地域情報化 認識と設計」NTT出版より

しかし、上に挙げたSNSサービスは本来は単にコンテンツを発信するだけでなく、投稿者と利用者がネットワークで結びつき、緩やかなコミュニティが形成される場所でもあります。本来の地域SNSの理念に照らせば、それらの機能もより活用されるべきです。

SNS運営事業者も、参加インセンティブについて広告報酬だけでなく、巨大なSNSのなかに小さくクローズドなスペースを作ることで、新しい参画のインセンティブを創り出そうという動きが続いています。Twitterのスペースはまさに読んで字のごとくですし、Facebookもグループの断続的な機能強化に力を入れているのです。

オンライン時代だからこそ地域でSNSの活用を

SNSは開設して終わりではなく、運営が事細かにコミュニケーションをメンテナンスする必要があります。大手SNSのような運営体制を取れない以上は、ブームの終息はやむを得なかったと言えるでしょう。

そもそも地域SNSは「住民参画」を目指してはじまった経緯があります。自治体が税金を投入して開設する以上は、住民サービスとして位置づけられたのも仕方がなかったかも知れません。しかし、地域を支えるステークホルダー(利害関係者)は、いわゆる「関係人口」が象徴するように地域外にも拡がっており、自治体の区分で括れるようなものではありませんでした。

上述のとおり、現在Twitter、Facebook、YouTubeなど主要な大手SNSは、ソーシャルグラフ(人間同士の結びつき)をとにかく拡大する方向から、その中に小さなコミュニティを形成してもらう方向に向かっています。これは、SNSの規模が大きくなるに伴って生じてくる様々な問題(例えばトランプ前大統領のような影響力の大きなアカウントが、コミュニティの分断を図るような動きに対応しきれなかったことなど)に対する対応策でもあり、また成長が鈍化するなかでの、新たなユーザーメリットの提供を図るものでもあります。このことが、一旦は収束してしまった地域SNSにとっても奇貨となる可能性があるのではないでしょうか?

自治体という区分ではなく、何かしらのコンテンツ=「コト」に関わる人々が緩やかにつながる上で、現在のSNSは理想的な環境になりつつあります(しかも無料です)。地域や地域に関心を持つ人々が、自ら汎用のSNS内にコミュニティを作り交流する、そこに自治体もサポートする形で参加するといった事例が今後増えてくることに期待しています。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。

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