🅂14 リターンを決めるリスク許容度

「A little dough」 第５章　貯蓄と投資　🅂14ポートフォリオ理論(2)

　前節では、マーコウィッツのポートフォリオ理論のうち、リスクが分散投資によって軽減される仕組みについて記載しました。「相関係数」が「+1」から「-1」に近づくほどリスクが軽減されていく様子が、下のグラフから読み取れると思います。

ポートフォリオABにおける相関係数の影響度
（効率的フロンティア、引用元: ChatGPT, OpenAI, 2024）

➤ポートフォリオABのパフォーマンスは
　前節で例示したＡ・Ｂ２銘柄の構成比を単純に50％にしたポートフォリオの結果は下表の通りです。「期待リターン12.5％、リスクは19.53％」となり、これは単独で銘柄Aを所有するより、期待リターン・リスク共に改善しています。また銘柄Ｂと比較した場合は、リターンは悪化しますが、リスクは大きく改善します。前節で記載したように、相関係数が「‐１」に近づくほどリスクは軽減されますから、期待リターンの許容範囲内でこうした相関係数の低いものや逆相関の銘柄とポートフォリオを組むことは、理に適った選択といえそうです。

ポートフォリオＡＢのパフォーマンス
（引用元: ChatGPT, OpenAI, 2024）

➤リスクとリターン、好みのさじ加減は…
　ところでこうしたポートフォリオに組み込まれる各銘柄の相関係数や構成比でリスクとリターンの関係は様々なポイントを作り出しますが、その中で最も効率的な部分を示したものが「効率的フロンティア」です。下図は冒頭のグラフの中から相関係数「+0.5」の部分を切り出したもので、一見別物に見えますが、単に目盛りの取り方の違いによるものです。

ポートフォリオABの効率的フロンティア
（引用元: ChatGPT, OpenAI, 2024）

　縦軸は期待リターン、横軸はリスクを示し、まず銘柄Ａのみを保有した場合は、＜期待リターン10%／リスク20%＞を結ぶ点Xとなります。また銘柄Ｂのみの場合は＜期待リターン15%／リスク25%＞を結ぶ点Zとなります。
　ポートフォリオはこの２つの銘柄を一定の比率で分散保有することになりますから、前節で記載したように構成比を順次変えて計算していきます。その結果一番リスクが低くなる点Y＜期待リターン11.43％・リスク18.9％＞に到達します。そしてこの点Yから点Zを結ぶ線（YZ線）を「効率的フロンティア」と呼びます。上記のポートフォリオAB（50%:50%）も、効率的フロンティアの線上点Pに位置していることが確認できます。
　ここで、点Xから点Yを結ぶ線が対象にならないのは、このリスクの範囲では同じリスクで更に高いリターンを示す構成比が存在しているからです。つまり「効率的フロンティア上の各点は、同じリスクレベルで最も高いリターンを得られるポートフォリオを示している」ことになります。

　私たちはこのYZ線上で好みの構成比を選べば、結果はともかくリスク／リターンのバランスはとれていて、効率的な選択をすることができます。例えば上記ポートフォリオAB（50%:50%）のパフォーマンスは、銘柄Ｂに比べて期待リターンが2.5ポイント悪化しますが、これに満足できない場合は、点Pから点Zに向けて銘柄Ｂの配分を増やす（リスクを高める）ことで、期待リターンを上げることができます。逆に点Pにおいてリスクが高いと感じる方は、点Ｙに向けて銘柄Ｂの配分を減らすことでリスクを下げる（期待リターンも下げる）ことになります。リスクとはいわば料理における塩加減のようなもので、あくまでリターンとバランスするように調合するのが基本であり、それが効率的フロンティアとして示されています。そしてそのバランス中から一点を決めるのは、必要な期待リターンというよりも、「私たちのリスク許容度に依存する」と考えておくべきだと思います。

➤分散投資と効率的フロンティア
　ポートフォリオ理論を理解しておくことで、私たちはリスクを軽減することを知り、またそのリスクに見合うリターンを選択することができるようになります。
（分散投資）ポートフォリオ理論では、リスクとリターンがトレードオフの関係であることを踏まえた上で、分散投資によるリスクの軽減方法が理論的に示されています。私たちが家計管理の一環で行う投資には「分散投資」というツールが必須だと思います。バフェットが見通すような「非分散によるアノマリー」が実在しているとしても、これを材料にするにはそれ相応のリスク管理が必要でしょう。私たちにはその能力も時間もないと考えておく方が無難です。
（効率的フロンティア）この線上（上図YZ線）にリスクとリターンの関係性と選択肢が明らかにされています。必要な期待リターンからリスクの度合いを知る、あるいは許容できるリスクから期待リターンの水準を知る、そしてそうした思考錯誤の先に求めるポートフォリオがあるはずです。しかしそうした判断の際に私たちの多くは、プロスペクト理論によって示された「損失回避バイアス」に依存した行動を選択しがちです。リスク許容度は、年齢・収入・総資産額・投資目的・投資経験などによって大きく異なります。リスク許容度は状況によって変化するということを念頭に、極力客観的で冷静な判断ができるような環境整備を行うことも重要な要素になってきます。