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声優さんのバラエティ進出について

 かれこれ7年ほど声優オタクをやっている。別の界隈に浮気したり、自分の生活が忙しくなったりして離れた時期もあるけど、常に声優オタクとしての自分が心の根底にいる。

 この声優オタクとしての自分が非常に厄介で、自分が声優沼に突っ込んだ時の声優界隈を至高のものとして崇めている節がある。この時期の声優界隈とは、声優さんはアニメに声を当て、アニメに関連したラジオでパーソナリティを務め、アニメキャラないしはアーティストととしてライブ会場に立ち、ファンはそれを密やかに応援するというものだった。そう、「密やかに」。


 自分がズブズブの声優オタクになる過程でこうした声優界隈を通ってきたから、好きになって7年経っても未だに、声優さんは密やかに応援するものだという感覚が心や体に染みついて抜けない。主に裏方としてお仕事をする彼らのことを、同じ趣味を共有したもの同士が密かに応援し、声優さんとファンの間にはある種の閉鎖的な関係性が構築されるものだと考えている。

 また、本人名義でアーティストや役者という「表」の仕事をする声優さんを応援する前提として、アニメやドラマCDなどで声を当てる「裏」の仕事でその方を好きになる、というものがあるように感じている。



 だから、昨今のアニメブームや声優ブームに乗じて声優さんがバラエティに頻出している今の状況に割り切れないものを抱いている。

 まず、彼らがバラエティ番組に出ることで、我々声優ファンと声優さんの間に築かれていた閉鎖的な関係性が崩れてしまう。表の仕事をしている声優さんを見るためには、声優さん本人が出演するイベントやラジオの公録などに参加することがかつての常識だった。そのため、イベントや公録が開催されることを知っており、なおかつ時間とお金を使ってまでそのイベントに参加したいと思う熱心なファンしか声優さんが個人として活躍している場面を見ることはできなかった。また、そもそもそうしたイベントはキャパがとても大きいわけではないため、そこにいるファンはイベントにわざわざ足を運ぶという意思があり、なおかつ高倍率の抽選を潜りぬけた強者なのである。そうしたファンと声優さんが同じ時を共有するのだから、イベント現場の雰囲気は、それはそれは濃密なものになる。

 しかし、声優さんがバラエティに出演することで、声優さんに全く興味のない人でも声優さんを目にし、何となくではあれ彼らのことを認知してしまう。声優さんがそういった非声優ファンの眼差しに長く晒されることで、我々ファンと声優さんが築いてきた関係性の濃密さが薄れてしまう気がするのだ。

 先述したとおり、自分の中には「声優という趣味は密やかに楽しむもの」という揺るがないポリシーがある。そのため、声優さんが好きということは同じ趣味を持つ人にしか明かしたくないし、同じ趣味を持つ人同士でひっそり声優さんに関する話題を交わし、そこだけで熱く盛り上がっていたいのである。そこに「なんとなく声優さんを知っている一般人」が入ってきてしまうと、正直戸惑う。7年前の声優界隈にこうした人たちは存在しなかったため、対処の方法が分からない。だから、「なんとなく声優さんを知っている一般人」を増やす窓口代表のバラエティ番組、引っ込んでろと常に思う。

 もちろん、バラエティ番組を通して声優さんを知る人が増えるのを良しとしている人だっているだろうし、より多くの非声優ファンに推しの声優さんを知ってもらうチャネルとしてバラエティ番組を重視している人だっているだろう。ただ私はそういった感覚にはどうしてもなれない。自分の中で声優さんは何となくテレビをつけたら観られる人ではなく、イベントやライブに足を運んで観に行く人なのである。



 また、声優さんがバラエティに出る流れが一般化してしまうと、声優さんにはバラエティスキルも必須とされてしまう。ただでさえ昨今の声優さんには求められる要素が多い。声の良さや滑舌の良さはいうまでもなく、ルックス、歌唱力、イベントやラジオで披露できる一芸、はたまたラップスキルまで。昔からある程度のルックスや歌唱力は重視されてたが、最近はその流れが加速しまくっているように感じる。最近の声優養成所では、声の芝居を身につけるだけでなく、歌やダンスの練習も課されているらしい。こんなにオーバーワークだと、本業の「声を当てる」という部分が疎かになりはしないかと常々危惧している。

 そこにバラエティスキルまで求められるのである。バラエティスキルが声優さんに求められる時代が来るなんて、7年前の自分には想像もつかなかった。いや、バラティはトーク力やひな壇芸に長けた芸人さんやタレントさんに任せておけばよくない?バラエティタレントという職業があり、バラエティの立ち回りを熟知した人がわんさかいるにも関わらず、なぜ声優さんにその仕事を振るのか、正直理解ができない。最近の若い子は声優さんが好きだから、声優さんを出したら視聴率が稼げるというテレビ局の思惑が働いているのだろうが、そんな思惑で声優さんがバラエティに駆り出され、演技や台本を研究する時間が奪われていたとしたらたまったもんじゃない。声優オタクとして、推しには演技を突き詰めてもらいたいからだ。



 こういうことを常に考えているので声優オタクとしての自分は非常に厄介だし、こうした声優さんのバラエティ進出を受けて声優ファンになった人からは頭の硬い老害だと思われるのだろう。

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