見出し画像

マッチングアプリ戦歴

最終結果:4戦3敗1勝

AIに自分の人生を決められてたまるか、マッチングアプリなんて死んでも使うもんか、と思っていた人間が、ひょんなことからマッチングアプリを始め、なんやかんやで恋人を作る話。実録。

 

0th Match:22.01


 
きっかけはごく些細なことだった。
 大学4年の冬、久々に高校時代の友達と飲むことになり、いつもつるんでいた4人で新年会をした。
 そこで、友人のひとりがこう言ったのだ。「彼氏ができたんだよね」と。
 彼女が女子大に行っていること、バイトなども含めて男とのかかわりがないこと、高校時代から男の匂いがしなかったことなどを全て知っていた我々3人は、非常に驚いた。驚くし気になるしなんだか嬉しいしで、この日の飲み会はこの話題で持ちきりだった気がする。
 我々3人が抱いたいちばんの疑問は、彼氏とどこで知り合ったのか、だった。学校ではないしバイトでもないだろうし、ましてや高校のはずがない。我々のクラスにはイモしかいなかったので。
 ということで、この点について3人で質問攻めにした。すると、「マッチングアプリで知り合ったんだよね」と、ゲロってくれた。
 これにも大変驚いた。というのも、彼女はマッチングアプリをやるほど恋人を欲しているタイプではなかったからだ。高校時代から大学生の間、ずっと彼氏はいなかった。それどころか、中学の時に好きだった人をずっと引きずっているようなタイプだ。そんな彼女だったが、大学の実習中に息抜きのつもりでアプリを始めたらしい。写真もほぼ登録せず、自己紹介も一言だけしか書かないくらいの、ごくあっさりしたものだったという。しかし、そこから同じ趣味を持つ人と繋がり、何回か会って話すうちに仲良くなり、交際に至ったということだった。
 この話に我々一同大変驚いたが、何より驚いたのは私だったかもしれない。アプリをやらなさそうな彼女がアプリで恋人を作ったこともそうだし、これほどの手軽さで同じ趣味を持つ人と繋がれ、付き合うことができるという点に、天地がひっくり返るほどの衝撃を受けた。マッチングアプリは変態か勧誘しかいないだの、課金をしないと人と繋がれないだのの偏見を持っていたが、そうした偏見がかなり払拭された。
 そして、この話を聞いて、なんだか私も恋人が欲しくなった。今まで恋人がいなかった彼女が楽しそうに彼氏の話をしているのを見て、羨ましさとちょっとしたワクワクを感じた。加えて、マッチングアプリをまずやらなそうな彼女でもアプリで恋人を作ったのだ、という事実にも背中を押されて、生まれて初めてマッチングアプリに登録したのだった。ごく些細な動機だ。
 
 ただ、私は生粋のAI、SNS嫌いだ。ゆえにマッチングアプリに自分の情報をべたべた載せることは絶対にしたくない。ので、載せる写真も後ろ姿のもの、自己紹介も適当な一言にした。彼女もこんな感じで恋人を作ったらしいし、これでいいか、という気持ちだった。そもそも、アプリへの登録自体も初めてだし、半ばお試し感覚でもあった。
 が、登録後すぐ、マッチングアプリのキモさに耐えられなくなり、退会してアプリも消した。出会ったこともない人間同士が知り合うきっかけを作る、というアプリの性質上仕方がないのだが、判断基準が顔オンリーになってしまうのだ。プロフィールを見て趣味が合いそうだと思っても、アプリ上に載っている写真がイマイチだとマッチボタンを押す気にならない。また、いい感じだと思って繋がった相手でも、後ろ姿のみの私の写真に対して「おキレイですね!」などとほざく。どこを見てそう判断してるんだよ、と腹が立ったし、見た目で判断するなとムカついた。が、そう思っている私でも人を見た目で判断していた。いくら「人は中身が大事」とは言え、交際目的で他人をジャッジする場合、どうしても外見を判断基準にしてしまう。そんな自分の浅ましさにも嫌気が差し、マッチングアプリから速攻で足を洗った。アプリ自体もキモいし、そこから分かった自分の汚い部分もキモすぎた。

 というのが、私とマッチングアプリの最初の出会いだった。第一印象は最悪。


1st Match:22.06


 それから半年ほどの間、アプリではない経路で出会った人間に恋をし、あっけなく振られた。しばらくショックを引きずったが、年初から抱き始めた恋人が欲しいという気持ちにはずっとちょっと火がついていたので、再びマッチングアプリを始めることにした。

 最初の頃に比べて載せる写真も増やしたし、趣味のコミュニティ的なものも覗いてみたりした。相手の所属コミュニティリストを見て、私の趣味とかぶっていたらマッチボタンを押す、という典型的な使い方を初めて試してみた。ただ、相変わらず私は自分の情報を出し渋っていたので、自らコミュニティに入ることもせず、プロフィール欄を充実させることもしなかった。
 が、こんな適当な使い方でも何人かと繋がることはでき、その中の一人と連絡先を交換することができた。繋がった中でいちばん趣味の被りが大きい人だった。写真で見る限り、顔もまあ悪くない。
 そんな彼と電話をし、実際に会う運びになった。6月末の日曜日、我が家から電車で1時間半ほどの、とある駅のカフェを指定された。遠いし休日だし暑い時期だったが、その場所は通っていた大学があった場所なので、久々に降り立ってみるのも悪くないと思い、誘いを快諾した。
 
 最悪だった。待ち合わせが11時くらいで、相手も前に予定はないと言っていたのに、急に仕事が入ったとかなんとかで、1時間ぐらい遅刻をされた。わざわざ休日なのに早起きをし、暑い中遅刻しないように目的地まで向かったのに、お前は遅刻かよ。不誠実さにめちゃくちゃ腹が立った。
 遅刻したとはいえちゃんと来てくれたし、お詫びとしてゴディバの高そうなクッキーを買ってきてくれた。そのおかげでイライラを顔に出さずには済んだが、別に話が弾んだわけでもなかったし、また会いたいと思うほど楽しかったわけでも全然ない。顔も、アプリ上の写真で見るよりイケてない。ゴディバのクッキーをもらえたことしか収穫がないと思い、その日はまっすぐ帰った。
 それ以来、そいつと連絡を取ることはなく、マッチングアプリも面倒になって消した。


2nd Match:22.08


 消したマッチングアプリを再び始めたことに、深い理由があるわけではなかった。なんだか日常が暇だし、恋人が欲しいという気持ちは変わらずに持ち続けていたので、またやってみるか、ぐらいの軽いノリだ。
 この時は、前回よりちょっと真剣にやった。頑張ればギリギリ顔がわかる程度の写真を載せたし、プロフィールも公表して恥ずかしくないようなものにしたし、コミュニティにもいくつか入ってみた。
 前回より気合を入れた分、知り合う人も増えた。アプリ上で話が弾み、連絡先を交換する人も増えた。その中の数人と電話をし、会話の波長が一番合った人間と出かけることになった。平日の夜に河原で手持ち花火をする、という計画だった。
 

 花火は好きだし、電話で話して楽しかった人間と出会えるということでワクワクしながら当日を迎えたが、実際に会ったそいつがこれまた最悪だった。
 とある駅に集合し、車で河原まで出かけるという流れだったのだが、車に乗って数分後、いきなりそいつが手を握ってきたのだ。「せっかくのデートだし」だと口実をつけていたが、ふざけるな。付き合っていない人間同士のお出かけを「デート」と言うのは千歩譲るが、付き合っていない人間の手を勝手に握るのは違うだろうが。私はあまり人に触れられることが好きではないので、出会って十数分の、まだ何も知らない人間からいきなり手を握られたことに、心底気持ち悪さを感じた。おかげさまでこの日のモチベーションは完全に無くなり、私は心のスイッチを切ったまま、この日が終わるのを待っていた。好きな花火も全く楽しくなく、花火ってここまでつまらなくなるのか、と、ある種の感動すら覚えた。
 ちなみに、この日私は退勤後爆速で待ち合わせ場所に向かった。ご飯も食べておらずお腹がぺこぺこだったので、どこかでご飯が食べたいと言い、近くにご飯屋さんがあったら行こうという運びになった。しかし、目的地までの30分ほどのドライブの間、そいつはどこのご飯屋さんにも車を止めるそぶりを見せなかったのだ。国道を走っていて、ご飯屋さんはあちこちにあったのに、だ。たまりかねて再びご飯の話を出したが、連れて行かれた先は場末のファミマだった。この配慮のなさにも辟易した。
 またこの時は、人を顔で選ばないことを目標にしていたので、アプリ上で顔写真をあまり見ないようにしていた。が、実際に合ったそいつはとても顔がいいとは言えず、体型もイマイチだった。見た目がどうであれ、会話の波長が合えばそこそこ楽しく過ごせるだろう、と思っていたが、見た目が好みではなさすぎることも、こいつに対する嫌悪感を倍増させる要因になってしまった。
 こいつともそれ以降連絡を取っていない。また面倒になって、アプリを消した。


3rd Match:22.11


 季節は夏から冬になり、クリスマスの気配が街に漂い始めた。
 クリスマスの雰囲気に浮かれるのは人類の性。今年はクリスマスを誰かと過ごしたいと思ったので、再びマッチングアプリをやることにした。
 過去2回の経験から、趣味が合うからといって必ずしも惹かれるわけではないこと、顔が好みでないとモチベーションが上がらないこと、等々、マッチングアプリで出会う人間の選定基準のようなものができあがっていた。
 この基準に合わない人間と出会って不快な思いをするのは嫌だし、マッチングアプリに対する嫌悪感もだいぶなくなってきたので、今回はプロフィールに死ぬほど力を入れた。写真も載せられる上限まで載せたし、コミュニティにもたくさん入ってみたし、自己紹介にもえげつない文字数を割いて自分のことを書いた。Twitterで小規模な趣味垢を始めるオタクが、自分と感覚の合わない人を排除するために事細かくプロフィールを書く、あれぐらいの粒度だ。アプリを始めたての頃の私ならドン引きするくらいの自己開示をした。
 自己開示の深さとマッチする人間の数は比例するもので、今までとは比べ物にならないほど多くの人間と繋がることができた。
 その中で、ある人と出会った。11月初旬のできごとだ。趣味がかなり合うので話は弾むし、バイトしていたチェーン店が同じという共通点もあり、今まで出会った人間とは比べ物にならないほど、楽しくお喋りをすることができた。顔は別に好みではなかったが、オシャレな人だったのでまあ良いか、という感じ。本当に好みの顔ではなかったが。
 それでもまた会う約束をし、彼との関係は続き始めた。アプリで出会った人間とまた会うことになったのは初めてだったので、これはかなり大きな進展だった。

 結局、彼とは2回目に会った時に、付き合うこととなった。
 クリスマスまでに恋人を作るという目標、無事達成。


4th Match:22.11


 とはいかない。いったが、いかない。

 というのもこの時期、同時並行で別の人間ともやりとりをしていたのだ。先の彼とも趣味が合ったが、こっちの彼ともなかなか趣味が合う。また、趣味に対する造詣が深いので、文面のやりとりが楽しいこと楽しいこと。
 しかも、顔がすこぶる好みだ。写真に映っているのは顔のごく一部だったが、その一部分がありえないほどタイプだったのである。アプリに載せている写真なんてアテにならないと知りつつも、そこは加工してどうこうできる部分でもなかったので、多分この彼は私の好みどストライクの顔をしている、と推測した。

 そんな彼と会うことになったのは、11月の終わり頃だ。実際に会ってみたら、やはりすこぶる好みの顔だった。写真に映っていた部分もだが、写真に映っていない部分も含め、顔全体が驚くほど好みだった。マッチングアプリをやる人間に顔のいい人はいないという偏見を持っていたので、嬉しい驚きだった。
 彼私はどちらも酒好きなので、初対面で居酒屋に行った。ちょうどワールドカップの開催日で、店全体がスポーツバーのような空気になっていたのを覚えている。その喧騒の中、お互いの趣味の話や身の上話などをして、楽しく時間を過ごした。会話が途切れてただワールドカップを観る時間もあったが、顔のいい人間とならただテレビを観るだけでもワクワクした。
 この日も非常に楽しかったので、彼ともまた会う約束をして別れた。この段階で先の彼とは付き合っていたが、気持ちは完全にこっちの彼になびいている。
 
 そんなこんなで、この彼と会い続けていた。11月下旬に初めて会って、12月までの1ヶ月間で3−4回飲みに行った。お酒の許容量も食事の好みも似ているので、ただ飲み食いするだけで楽しい。おまけに、話も爆裂に弾む。

 という状況の中、先の彼は、振った。交際の打診をされたとき(確か11月中旬くらい)にはまだこの彼とは会っておらず、断る理由もないのでそれを受け入れたのだが、やれ「いつ空いてる?」だの「暇な時電話できない?」だのの誘いが煩わしすぎて、会うモチベーションは日に日に下がっていった。そんな中でイケメンと出会ってしまったので、顔が好みでもないし会うことにワクワク感を覚えない彼とは別れることにした。
 正直、付き合うだの別れるだのと言っているが、付き合ってから別れるまでに一度も会っていないし、LINEでの誘いものらくら躱していたので、付き合っていた自覚は全く無い。便宜上、付き合う別れるという表現をしているが、別にこいつと付き合っていたとは思っていない。

 こうしたことがあったのは12月中旬の、まさにクリスマスシーズンだった。鬱陶しい人間とも縁を切れたし、イケメン君とクリスマスに会うという爆裂ハッピーイベントも控えていたので、軽やかな気持ちで日々を過ごしていた。
 が、その状況で彼がコロナにかかってしまい、楽しみだったクリスマスの予定は粉々に飛んだ。コロナに対して強い憎しみを抱いていたわけではなかったが、この時ばかりは本気でコロナ死ねと思った。私から楽しみを奪うな。
 と鬱屈したこともあったが、年明けに予定を合わせて無事に会えることになり、新年会と称して飲みに行った。こんなに会ってくれている時点で脈はあるのかと思っていたし、今までの会話や行動の中に何本か恋愛フラグも立っていた。が、別に交際どうこうの話をするわけでもなく、いつも通り楽しく飲んで、カラオケでちょっと遊んで解散した。

 そんな均衡も、破られる時がある。
 先日、適当な口実をつけて、某デートスポットに遊びに行ったのである。夜から居酒屋で会うというのがいつもの定番だったが、この日は初めて昼から活動を始めた。ちゃんと素面の状態で会話や散歩を楽しみ、有名な観覧車に乗ったりもした。どちらともなく乗る流れになったが、それはつまり相手も私に好意があるだろう、なんて浮かれていた。観覧車に男女で乗るのはつまりそういうことじゃないか、と。
 が、観覧車の中で何かあったわけではない。ただ、2人で観覧車に乗るという太めの恋愛フラグが立ったので、これは今日どうにかしたいな、と思ったぐらいだ。幸いこの日の夜は飲みに行くことが決まっていたので、その場で告白できればな〜なんて考えていた。

 陽が落ち、飲み屋に行き、お互いいいペースで酒を飲んだ。2軒目が終わって気持ち良くなった時に、ちゃんと告白をした。酒の力を借りて告白するのはずるいしダサいしできればやりたくなかったけど、こうでもしないとヒヨって今日を棒に振っていたはずだ。
 好きだ、と言ったら、相手からもそんなようなことを言われた。記憶が曖昧でちゃんと覚えていないが、告白は受け入れられて、これからちゃんとお付き合いをすることになったのは確実だ。

 ちゃんと好きだと思えた人間が、恋人になった。


After Match

 「人生は神様のレシピ」という人生観を持っている。人生はあらかじめ神様によって決まっていて、どんな人と出会うか、何をするか、などの全ては起こるべくして起こっている、というような意味だ。
 AIに人生を左右されてたまるか、とずっと思っていたし、今でも思っているが、AIのおかげで素敵な人に出会え、楽しい日々を過ごしている。マッチングアプリがなかったら彼と出会うこともなかっただろうし、恋人がいないまま今を過ごしていたかもしれない。そんなマッチングアプリを使い始めるきっかけになったのは、久々に高校の友人と会ったことだったし、さらに遡れば、高校で私と彼女が仲良くなったことも、私と彼が付き合えた遠因になっている。
 なんて考えると、自分の現状は、今とは関係なさそうな遠い昔のできごとによって作られているものだし、できごと同士の絡み具合やそれが現在に与える影響力の大きさには、偶然が介入できない、神のようなものの采配が働いているのではと思えてならない。やっぱり人生は神様のレシピであり、、我々が意図せざるところで人生の方向性は定められているのか、なんてことを改めて考えた。

 この先彼とどうなるのか。ずっと長く付き合い続けられるのか、数ヶ月で終わってしまう短い縁になるのか。そんなことは今の段階でわかりっこない。そんなわからなさに対して不安を覚えたりもする。しかし、そうした未来まで織り込んだ上で、神様はレシピを調合したのだろう。そう考えると、我々がどうこうしたとて、未来は未来で予め運命づけられているからどうしようもない、と気が楽になる。未来を考えて不安になったりせず、今はこのご褒美みたいな時間を楽しみながら、鷹揚に日々を過ごしていきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?