第5章 当たり前の話。
前回の章では、旅の始まりの話を綴らせてもらった。
今回は、その話の続きを綴らせてもらう。
空港では多くの違和感を感じられた。周りは僕たちとは異なる人種、飛び交う言葉の内容は理解できない、ライフルを持った警官。ここでの「当たり前」は、僕の「当たり前」ではないし、僕の「当たり前」は、ここでは「当たり前」ではない。その違和感は、僕には心地よかった。勉強は、嫌いだがこういった学びは好きだ。日本は海外に比べて多様性が遅れていると耳にしたことがあるが、それは日本が島国で人種が単一的だからだと思っていた。しかし空港を見渡すと多様性は、人種だけで考えるものではないと気付けた。ここでは、車椅子に乗りながら案内をして働く人、杖をつきながら働く人本当に様々な人たちが働いていた。
日本でも上記の人たちが活躍しているかも知れないが、僕が生きてきた中でその人たちと関わることはなかった。でも、メキシコでは1時間も経たずに彼らを目にすることになった。この差が日本と海外の多様性の差なのかなと思えた。
この文章を書くうちに、キューバを旅することが目的だったが、旅の副産物がいくつもあることに気付けて嬉しく思う。
話を元に戻す、空港では学びを得ることも出来たが、正直それは空港での陽の部分だ。空港での殆どは陰だった。とにかく暇だったのだ。6時間あるが空港の外に出るほど勇気はなかった。だから、とにかく空港でじっとしていた。空港を散歩し、後は、とにかく3人でワンピースの話をした。約20年の歴史があるワンピースの話は、暇を潰すにはもってこいだった。暇なことを強調するために「とにかく」をとにかく使ったことは言うまでもない。
そして、メキシコからキューバ行きの飛行機に乗る時間が来た。ようやく僕たちは、キューバに行ける。日本からメキシコまで約12時間、メキシコでのトランジット6時間、日本を出発してから約18時間、メキシコからキューバまでの3時間はあっという間だった。
ついに、キューバに着陸した。先ずは、入国審査場だ。しかし、異国での入国審査場はもうすでに経験している。入国に必要な書類をパスポートに挟んで渡せば簡単に通して貰える。
だが、そんな簡単にはいかなかった。入国に必要なものは全て渡したが、相手は何か要求してきた。焦った僕は、後ろに並んでいたよっちとナガサクを呼び寄せ一緒に何を言っているのか聞いてもらう。3人で相手の会話を良く聞いたら「medicine」という単語が聞き取れた。メディシン=薬、薬が入国に必要か?と疑問に思ったが、とにかくリュックサックに入った薬を取り出した。そして薬を差し出すと「No~」と言いながら鼻で笑われた。僕たちには、もう出す術がないのでアタフタしていると、そのやりとりを見ていた別のスタッフが僕に、列の後ろにある事務室のような所に行くよう促してきた。そこで、僕は事前に調べた情報を思い出した。キューバ入国には海外保険の英語表記の写しが必要であること。事前に用意できなかった場合は、空港で割高の保険に加入する手続きを踏まなければいけないこと。聞き取れた「medicine」とスタッフの行動から彼女たちは、保険の写しを求めているのだと考えた。しかし、僕は入国に必要なものは全て入国管理官に渡している。僕は、入国管理官の手元にある書類を手に取り突きつけた。すると入国管理官は「これこれ」みたいな顔をして別のスタッフに手渡した。そのスタッフは保健の写しをまじまじ読み込んで「これのことよ」みたいな顔をして僕の目を見た。「いや、そっちの確認不足だろ!sorryの一言くらい言えや!」と思った。日本じゃ確認なんて当たり前だ。ミスしたら謝ることも当たり前だ。キューバでも当たり前のことかもしれない。けど、今目の前で起きたことは、当たり前じゃなかった。
「郷に入れば郷に従え」僕は怒りと不安を鎮め、旅の目的地キューバに入国することになった。
多分つづく
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