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文学フリマ東京37で買った本について好き勝手述べる、その1

バターロールがまた焦げている/秋山ともす

見たてがとても巧みな方だな、と思いました。朝顔を、読点を、浮き輪を、コードを、そんな風に見ることが出来るなんて。柔軟で的確な発想に舌を巻きました。

でも、僕が一番好きだった一首は、そういった見立ての妙とはまた別の魅力をもつ作品でした。引かせていただきます。

思い出す時は背中が多いから片想いだと気付いてしまう

秋山ともす『バターロールがまた焦げている』より

切なさにぶん殴られて、しばらく読み進める手が止まりました。

相手の表情がどうとかじゃなくて、それ以前の話で。背中ばかりが思い浮かぶ、つまり面と向かって話す機会すら乏しい関係。そんな状況だったら片想いなことは明らかだと思うんですけど、気付いて「しまう」んです。目を逸らそうとしていたのに。

いやもう、何重にも切ない。そしてその切なさが愛おしく感じられました。


名前のない料理/来宮ハル

さらりとした手触りの、読みやすくて心地いい短編集でした。

友人、恋人、夫婦、家族、不倫、えとせとら。関係を表す言葉は便利です。便利ですが、当てはまらない関係や、そこに生じる感情を見落としてしまいがちです。

この本に収録されている作品はどれも、人と人との名前のない関係が、美味しく料理されていました。なんて呼んだらいいかわからない相手、関係だけど、大切。そんな気持ちを、大切にしてくれます。

作中に出てくる名前のない料理たちも、どれも美味しそうです。食欲と闘うことになるので、深夜に読むのはやめておいたほうがいいかもしれません。

どの作品も好きだったんですが、いちばん刺さったのは「似非フレンチトースト」。ほっこり好きだ〜ってなったのは「小さな飲み友」でした。いやでもどれも好きすぎて、選べないんですけど。

あとは……ある作品のある仕掛け(?)にもとても嬉しくなったんですが、ネタバレになりそうなので心のうちにとどめておきます。


わりかしワンダーランド01/(大阪の人間による大阪アンソロジー)

大阪といえば、義理と人情の、お笑いの、粉もんの、USJの……。みたいな、THEテンプレ的なイメージしか持ち合わせていませんでした。

当たり前なんだけど、街には人の数と同じだけ、いやそれ以上の顔があって、そんな大阪の街のいろんな顔を、エッセイや短歌や俳句や自由律俳句や川柳といったさまざまな形で描きだしたのが、このアンソロジーです。

それぞれの作者が描く大阪はそれぞれに異なっていて、でもどの作品からも「ちょっとオモロいこと言ったろう」的なサービス精神を感じました。そしてそれがちゃんとおもしろい。

どれも面白かった中で、大谷正世氏のエッセイ「あの路地だった」が特に印象的でした。商売とかお客さんとか人情とかいろんなことが浮かんだし、でもいろんなことを抜きにしてあんなおばちゃんの店に行ってみたくなりました。でも行ったら行ったで自分はめちゃくちゃ戸惑うんだろうなってことが、やすやすと想像できてしまいます。

軽く読めるけどディープな大阪を覗くことの出来る、はやくも02が待ち遠しいワンダーランドでした。

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