回復期リハ看護のための知識 〜小脳出血の病態と看護〜
こんにちは。うなぎです。
自分の復習と学習を兼ねて、病態知識と看護についてまとめていきたいと思います。
今回のテーマは小脳出血です。
小脳の役割
小脳は脳幹の背側にあり、小脳テントの下側で、後頭蓋窩に位置する。
上・中・下小脳脚という繊維の束でそれぞれ中脳・橋・延髄と繋がっている。
小脳は入力された情報を元に、錐体路などを調節し、滑らかで適切な運動を可能にしている。
大脳皮質や脊髄、全庭神経系からの情報を統合・学習し、運動の補正・予測・計算を行って運動の調整=姿勢・協調運動の制御を行う。
これにより、
・姿勢を保って立つ、歩く
・滑らかに話す
・細かい作業ができる
・運動を予測計算して速く適切に動ける
・運動を学習して滑らかに実行できる
ことが可能となる。
小脳出血
高血圧既往がある人に好発。
脳出血の約10%を占める。
死亡率はそれほど高くない。
上小脳動脈分枝の破綻によるものが多い。
頭部CTで小脳部に高吸収域(白くなる)がみられる。
出血量によって手術適応となる場合がある。(血腫径が3cm以上の場合で開頭or内視鏡血腫除去術の適応となる場合がある)
症状(急性期)
日中活動時に激しい後頭部痛
回転性めまい
反復する嘔吐
急速に進行する起立・歩行障害(四肢麻痺はない)
健側を向く共同偏視(血腫が小脳側から脳幹を圧迫するため、橋背側にあるPPRF=水平運動の眼球運動の中枢 が障害されることがある。大脳からPPRFに至る線維がPPRFの直前(交叉した後)で障害されるため、健側への共同偏視が起こる。)(=左小脳出血なら両方の眼球が左側に向いてしまう)
病側の顔面神経麻痺(軽度)
脳幹が圧迫されると意識障害
第4脳室へ穿破すると、急性水頭症により急速に意識障害が進行
症状(回復期)
回転性めまい
吐気・嘔吐
急速に進行する起立・歩行障害(四肢麻痺はない)
病巣と同側の運動失調
歩行障害
構音障害
→発生に必要な喉頭筋群などの協調運動が障害されるため、酔っ払ったような、数後ずつ途切れ途切れで不明瞭な話し方=断綴性言語
→ゆっくりとした話し方(緩徐言語)になり、また音の大きさを調整できず、突然大声になる=爆発性言語
企図振戦
四肢、体感の協調運動障害
注視方向性眼振=ある方向に視線を固定した時に生じる眼振
被殻出血の回復期看護
①血圧管理
リハや生活内での活動量増加により循環動態が変化するため、高血圧に注意。
血圧モニター、排便コントロール、脱水予防など血圧変動要因を可能な限り取り除く。
JSH2019では、脳出血の降圧目標は130/90mmHg
訓練時の血圧にも配慮する。血圧の高値が続く場合は医師に報告し、降圧薬内服を検討する。
再発予防のための血圧管理や内服指導も必要。
患者自身で管理が行えない場合は、家族への指導も必要となる。
②運動障害に合わせた機能回復支援
失調症状がどの程度日常生活動作に影響を及ぼしているのかを観察、評価する。
体幹失調があると、立位や座位姿勢でも動揺が見られる。そのため、転倒リスクが高い。
起き上がりや移乗などの基本動作が安全に行えない場合は、近位での見守りや介助を行う。
どのように動作を行うのか、どの部分の手すりを掴むのかを実際に触ってもらいながら行ってもらい、安全に動作を行う方法について学習を促す。
例)失調により移乗動作が不安定な場合
移乗動作のどの部分において、失調の影響が出ているのかをPT、OTと共有する。
上肢の失調により、上手く手すりが掴めていないのか。
下肢の失調により、適切な位置に下肢のポジショニングができていないのか。
体幹失調により、立位や方向転換の際に体幹が動揺してしまうのか。など
原因に合わせて、介助方法を統一する。
声掛けの仕方、上肢や下肢のポジショニング、介助者が介助を行う立ち位置、支え方、誘導の仕方など、すべてのスタッフが同じように対応できるよう周知を行う。
③めまい症状に合わせた日常生活援助
めまい症状により吐き気や嘔吐がある場合は、プリンペランなどの制吐剤の内服も選択肢となる。必要量の食事が食べられない、水分が取れないという場合は一時的に補液も検討する。
めまい症状がどのような動作で誘発されるのか観察・評価する。
特に急性期からの転院・転科後すぐ(亜急性期)はめまい症状が強く、リハビリが進まないことがある。
頭位の変換などでめまいが誘発される場合は、ベッド上でのリハビリを行うなどして対応。
徐々にめまい症状の改善に合わせて、訓練や生活内での活動範囲を拡大していく。
④安全管理
失調やめまいによる平衡感覚障害により、活動時の安全が確保できない場合がある。
前述した②のように、安全な介助方法や環境調整が必要。
③めまいに関しては、まずは症状の安定が最優先。
小脳出血自体では高次脳機能障害を合併することはほとんどない。
しかし、基礎疾患として脳梗塞などを患っていたり、高齢者は元々の認知機能が低下していたりという例が少なくない。
小脳出血による症状に加え、患者自身が正しく自分の病気や症状を把握できているのか、観察し、評価していくことが重要。
⑥メンタルケア
脳出血後の患者の約30%がうつを合併すると言われている。
めまいによる気分不快により、精神的落ち込みが生じる可能性がある。
また、失調や小脳性構音障害などの後遺症によるボディイメージの変容に対するケアが必要。状況に応じて臨床心理士や精神科の介入も検討。
⑦退院支援と家族指導
患者の後遺症から、退院後にどのような生活を送るのかイメージし、退院支援を行う。
・退院先の確認
・主な支援者の確認
・自宅の場合、自宅環境の確認(写真や退院前訪問の実施)
これらは最低限必要。
患者の症状や家族の理解度に応じて、早期からの指導の実施も検討する。
失調症状により、歩行などに介助が必要となる場合は、退院後の活動範囲に合わせた歩行補助具もしくは移動物品の選定が必要。
また、めまい症状の残存により活動や食事などに影響を及ぼすことが予測される場合は、対処法についても本人、家族に指導を行う必要がある。
可能であれば、退院前に外出・外泊訓練の実施も検討する。
また脳出血の再発予防には血圧コントロールが重要となるため、家族の支援を受ける場合は再発予防知識(内服管理や栄養管理、測定方法、緊急時の対応など)の指導を行う。
引用参考文献
高血圧治療ガイドライン2019.日本高血圧学会 https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_noprint.pdf
岡庭豊.病気が見えるvol.7 脳・神経第1版:メディックメディア
和田玲編.疾患ごとの看護実践が見える回復期リハディジーズ第1刷:学研
岡田忍(千葉大学大学院看護学研究科教授).運動障害に関するQ&A.看護roo! https://www.kango-roo.com/learning/3519/
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