見出し画像

回復期リハ看護のための知識 〜被殻出血の病態と看護〜

こんにちは。うなぎです。
自分の復習と学習を兼ねて、病態知識と看護についてまとめていきたいと思います。

今回のテーマは被殻出血です。


被殻(大脳基底核)の役割

大脳半球の深部に存在し、随意運動の調整などに関わる神経核群(灰白質)=大脳基底核
大脳基底核は尾状核、被殻、淡蒼球から構成される。
大脳基底核は、小脳などとともに錐体路による運動の指令を調整し、体のスムーズな運動を可能にしている。また、大脳皮質からの入力を受けて、適切な行動の選択(運動の開始と停止)を司る。認知機能や学習、情動などにも関わっている。
大脳皮質→大脳基底核→視床→大脳皮質というループ回路を形成して運動を調整している。

ポイント
・被殻は大脳基底核の一部
・大脳基底核は、随意運動の調整(適切な行動を取るための選択)を行なっている


被殻出血

高血圧既往がある人に好発。
脳出血の40%(最多)を占める。
死亡率はそれほど高くない。
中大脳動脈から分岐するレンズ核線条体動脈からの出血が多い。
内包及び放線冠への障害の程度により症状が異なる。
内包後脚には、随意運動の電動路である皮質脊髄路(錐体路)が通っている。外側皮質脊髄路は対側の四肢随意運動を司っているため、ここが障害されると対側の麻痺が生じる。
頭部CTで被殻に高吸収域(白くなる)がみられる。機能予後推測のため、血腫分布が内包に及んでいるか見極めることが重要。
出血量によって手術適応となる場合がある。(血腫量31ml以上の場合で開頭血腫除去術の適応となる場合がある)


症状(急性期)

頭痛
意識障害
けいれん発作(大脳皮質に及ぶ出血はてんかん発作リスクが高まる)
病側を向く共同偏視(病巣と対側にあるPPRF=水平運動の眼球運動の中枢が機能しなくなり、病巣の対側へ眼球を偏位させることができなくなる→もう一方のPPRFが優位となり病側へ向く共同偏視となる)(=左被殻出血なら両方の眼球が左側に向いてしまう)
運動性失語(優位半球障害時)
対側の片麻痺(内包障害時)(上肢優位)
対側の感覚障害


症状(回復期)

顔面を含む対側の片麻痺(内包障害時)(上肢優位)
顔面を含む対側の感覚障害
運動性失語(優位半球障害時)
失行・失認(劣位半球障害時)
→血腫が前頭葉、側頭葉、頭頂葉に進展して症状を来す
対側の同名半盲(視放線の障害)(左被殻出血の場合は右半分が見えなくなる)


被殻出血の回復期看護

①血圧管理

リハや生活内での活動量増加により循環動態が変化するため、高血圧に注意。
血圧モニター、排便コントロール、脱水予防など血圧変動要因を可能な限り取り除く。
JSH2019では、脳出血の降圧目標は130/90mmHg
訓練時の血圧にも配慮する。血圧の高値が続く場合は医師に報告し、降圧薬内服を検討する。
再発予防のための血圧管理や内服指導も必要。
患者自身で管理が行えない場合は、家族への指導も必要となる。


②運動障害に合わせた機能回復支援

麻痺や感覚障害の程度に合わせた自立支援。
麻痺が重度だとADL全般に介助を要することもあるため、患者の「できること」と「できないこと」の見極めが必要。
体力や痛みの程度に合わせ、できるところを増やしていく。

③失行・失認などの高次脳機能障害の評価と支援

どのような障害が生じているのか、多職種と連携して評価することが必要。
理解力や認知力に合わせた支援方法を検討する。

失行=患者の維持している運動機能に比して、目的に沿った行為ができないこと

観念失行:
物の使用が困難になる
ex)歯ブラシやコップは持てるが、歯磨きができない

観念運動失行:
指示された動作はできないが、自動的な動作は行える=ジェスチャーや道具使用のパントマイムが困難となる
ex)櫛で髪をとかすことは出来るが、櫛を持たずに髪をとかす真似はできない

看護への看護
・何の動作ができて、何の動作の時にエラーが出るのかを観察し、把握する
・エラーを起こさないように誘導したり模倣をしてもらいながら、介助場面を減らしていく
・代償手段や道具を検討する
・患者が使い慣れたものを使用するなどの環境調整を行う

失認=感覚器官に異常がないにも関わらず、正確に知覚できないこと
ex)目の前に椅子があると分かっていても、距離感が掴めずにうまく座れない

半側空間無視:病巣と反対側の視空間を無視する
身体失認:患側が存在しないように扱ったり、麻痺を認識できない
失読・失書:話す・書くの障害はないが、読み書きができない
ゲルストマン症候群;手指失認、失書、左右失認、失算の4徴を呈する

失認への看護
・何に対して失認の症状がでているのかを観察し、把握する
・半側空間無視は、無視側への認識を高めるよう環境調整を行う 介助者の声掛けのタイミングや方法、話しかける方向について、麻痺側から話しかける時と非麻痺側から話しかける時を使い分ける
・身体失認は、自身の身体の認識を促すため、実際に触ってもらったり見てもらう機会を作る
・失読、失書は、文字理解が難しいので話して理解を促す


④運動性失語の評価と支援

運動性失語とは
左大脳半球前頭葉のブローカー野の損傷で生じる障害
自発語は非流暢
復唱は障害
聴覚理解は比較的良好
読み書きは仮名の障害が重い
発語失行(考えているのとは違う発音をしてしまう状態)があり、努力的でぎこちない発語
聞く、読む、書く、計算にも障害あり

ゆっくりと待つ姿勢で、短く簡潔に、視線を合わせ、はっきり話す。
間違いを指摘しない。
内容を推測して聴き、推測したことを確認しながら話す。
YES/NOで答えられる問いかけを心がける。
肯定疑問文で質問する。
相手の表情に注意し、反応を確認してから、次のアクションを起こす。
要求がわからない時は、ジェスチャーで示してもらったり、実物や絵を示してもらう。

例)排便状況を知りたい場合
排便の性状を絵で示したものを提示し、指で示してもらう。
ブリストルスケールの表がわかりやすい。


⑤安全管理

麻痺や感覚障害による身体機能障害
高次脳機能障害による認知機能障害
これらにより自身での安全管理が困難な場合がある。
前述した②、③を把握した上で、患者のADL拡大を促進し、かつ安全に生活ができる環境調整が必要。


⑥メンタルケア


脳卒中後の患者の約30%がうつを合併すると言われている。
麻痺などによるボディイメージの変容に対するケアが必要。状況に応じて臨床心理士や精神科の介入も検討。
急性期からの早期転院だと意識レベルにムラがある。せん妄のコントロールや生活リズムの構築の支援を行う。


⑦退院支援と家族指導

患者の後遺症から、退院後にどのような生活を送るのかイメージし、退院支援を行う。

・退院先の確認
・主な支援者の確認
・自宅の場合、自宅環境の確認(写真や退院前訪問の実施)

これらは最低限必要。
患者の症状や家族の理解度に応じて、早期からの指導の実施も検討する。
特に運動障害が重くADL全般に介助を要することが予測される場合、ADL拡大を阻害する高次脳機能障害がある場合、失語症により特殊なコミュニケーション方法が必要になる場合などはこれに該当する。
可能であれば、退院前に外出・外泊訓練の実施も検討する。
また脳出血の再発予防には血圧コントロールが重要となるため、家族の支援を受ける場合は再発予防知識(内服管理や栄養管理、測定方法、緊急時の対応など)の指導を行う


引用参考文献


高血圧治療ガイドライン2019.日本高血圧学会 https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_noprint.pdf
岡庭豊.病気が見えるvol.7 脳・神経第1版:メディックメディア
和田玲編.疾患ごとの看護実践が見える回復期リハディジーズ第1刷:学研
脳卒中に伴う「失行」の評価と介入ポイント.臼田茂.マイナビコメディカル https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/kokushi/drill/10968/
失行のリハビリテーション.阿部加奈子.秋田県立リハビリテーショ・精神医療センター https://www.akita-rehacen.jp/cms/wp-content/uploads/2022/10/kouen3.pdf
田川皓一.脳血管障害と失語症ーその発現機序を考えるー.神経心理学.37(1).10−20.
林泰史監.写真でわかるリハビテーション看護 看護にいかすリハビリテーションの知識と
技法:株式会社インターメディカ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?