劇団四季 │ Wickedを見て
ウィキッドという舞台をご存知ですか?
名作「オズの魔法使い」を西の悪い魔女・南の善い魔女の二人の視点から描いたブロードウェイミュージカルなのですが
それが劇団四季東京にて公演することになったので行ってきました
これはウィキッドの感想を書き留めた自己満足のための記事になります
ネタバレを多分に含みますのでご注意ください
自分の熱量も合わせて書き留めているので凄く長くなってしまいました…
■ 10年ぶりの再演に向けて
10年前、東京メトロの電車内では"オズの魔法使いの前日譚"として劇団四季ウィキッドの広告が狂うほど打たれていました
昔、学芸会でオズの魔法使いを舞台で演じたことのある私はその広告に興味を引かれます
その映像は、一度見たら忘れられないほど真緑色をした姿の魔女が写っているものです
これが3分に1度必ず流れてくるものですから、幼少期の私はずっと面白そうだな、行ってみたいなと思っていました
しかし、それを機にこの公演は完全に幕を閉じ、通年で舞台化する事はありませんでした
また公式の映像化が一切されておらず、舞台化の何もかもの情報が闇に消えたまま、幻の舞台となってしまいました
舞台というのは生身の人間がその場で作り上げるものになるので、芸術の中でも特に鮮度が必要な作品になります
当時、子供心ながらに「行きたい舞台には行きたいと思った瞬間に行かなければ二度と見られない」と思ったものです
その日から行きたい演者の舞台にはいくらかかろうと足繁く通い始めました
そうして時は経ち、2022年6月29日。
劇団四季から突然こんな画像がツイートがされます
この緑色、間違いない。
あのウィキッドがついに帰ってくるんだ!
そう確信した日から、私はウィキッドに心を奪われてしまいました
2022年当時は劇団四季作品を1作品しか見たことがなかったため、あいにく劇団四季の有料会員などにはなっておらず、一般発売を待ってから買おうと思っていました
今思えば、10年ぶりの再演を待ち焦がれていた人はごまんといるだろうに、私は劇団四季を甘く見ていました
ウィキッドは、会員先行販売の直後に完売し一般発売を中止したのです
私の愛の熱量が足りないことを痛感しました
"今"を掴むためには最善を尽くさなければならないですね
一般発売が中止になった次の日から、私は公式のリセール情報を1mmたりとも逃すまいと粘着質に確認し続けていました
毎日毎日、1分に1度ページを更新しては肩を落とす日々が続いたのは結構辛かったです
ある日、たった数秒を見逃さずにチケットが拾え飛び上がりました
周りの友人に言って周るほど嬉しかったです
そしてようやく先日見に行ったのです!
ウィキッドを!
■舞台セット・小道具・衣装
以前ノートルダムの鐘の時にも書いたのですが、劇団四季は本当に舞台セットや小道具、衣装のクオリティが高いと思います
入ってすぐに大きなドラゴンの舞台セット、幕はオズの世界の地図を表しています
オズの街が煌びやかに輝き、舞台が始まる前から世界観に胸躍らせてしまいました
南の善い魔女グリンダのドレスは本当に魔法がかかったような美しい色合いで魅了されました
西の悪い魔女エルファバは照明によってその緑が引き立って見えるシーンがあり、より存在を印象付けていました
特にエメラルドシティは!
二人の魔女は緑だらけの大都市エメラルドシティに向かうのですが、その街の人の装いや大車輪などどれもこれもが本当にエメラルドシティからそのまま飛び出してきたような完成度で驚きました
オズの王様は本当に頭だけの姿をして話し出し、その権威ある姿に恐ろしさを覚えました
劇団四季はシーンの転換が本当に手早くかつナチュラルで
本当に映画のシーンの切り替わりのようにシームレスに変わっていくのが素晴らしいと思いました
息継ぎをさせずに、観客を物語に没入させるための技術がふんだんに詰め込まれています
まだ一度も劇団四季を見たことない方は一度でいいので体感してみて欲しいです
■メリーバッドエンドという物語
何故ここまで私がウィキッドに入れ込んでいるかというと
勿論ミュージカルが好きだからというのもありますが
第一に、メリーバッドエンドの予感があるものが好きだからというのがあるかもしれません
人生って幸や不幸が決まっている訳ではなくて
解釈のしようによっては最低の結末も最高のクライマックスとして迎えられると思っています
私は幼少期から『幸福の王子様』『人魚姫』『マッチ売りの少女』のような童話を読んで育ちましたから
これらの作品が持つ寂しげなハッピーエンドの雰囲気が堪らなく好きです
このウィキッドも例に漏れず、その儚げな雰囲気を持った作品だと思えました
オズの魔法使いの前日譚としての作品ですから、物語の結末は決して変わることはありません
どう頑張っても、西の悪い魔女エルファバはドロシーによって消されてしまい、南の善い魔女グリンダは皆に愛され国を統治していくのです
二人の関係性の背景は何だったのか、この結末が一番正しいものだったのか
そんなことを考えながら、私は観客としてただエルファバの死を見守ることしか出来ません
破滅に向けて着実に歩き続ける様を見るのはとても苦しくなりますが
そこには主人公の揺らがない決意と確かな愛があります
例え私たちが悲しんだとしても、がっかりしたとしても
あなたがそれでよかったと思うならそれでいい
あなたが幸せそうな笑顔を浮かべて安堵するならそれでいいと
ただ手を組んで祈るだけの時間が好きです
メリーバッドエンド、大好きです。
■西の悪い魔女:エルファバ
ウィキッドの主人公とされる西の悪い魔女、エルファバ
彼女は生まれながらにして肌が緑色の奇形で生まれた為、父親やクラスメイトから嫌煙・差別されて育ちます
私って、こういう鬱屈した存在に弱いですね…
人から煙たがられて育ったエルファバは、人に愛されて育ったグリンダと相容れず、何度も喧嘩をして過ごしますが
物語が進むにつれて2人の間に確かな友情が芽生えていくというお話です
エルファバは確かに鬱屈した精神を持っていますが
決して無差別に人を憎んだり嫌がらせをするような人ではありません
ただ根っこに揺らがぬ意志が存在しており
私はその力強さに圧倒されるようなシーンが多々ありました
そして、例え社会がエルファバを騙して襲おうと
グリンダと完全に決別するような場面を迎えようとも
目の前に自分の死が待っていようとも
彼女は自分の判断を信じ1人で立ち向かおうとするのです
その強さに泣いてしまいました
あまりにも、あまりにも眩しい
■南の善い魔女:グリンダ
ウィキッドは広告も緑色ですし、てっきりエルファバだけが主人公の物語なのかと思っていました
しかし本編を見て、これは二人の魔女の物語だと確信しました
グリンダは物語の序盤では海外のチアリーダーのような所謂ブロンド女性の描かれ方をします
金持ちで人に囲まれているが、IQが低くルックスしか興味がないというような具合です
正直、私が30回ほど見ていた映画版オズの魔法使いでの南の魔女とはかけ離れた印象だったので少し不安になりましたが
物語が進んでいくうちに、グリンダの精神的成長もウィキッドという作品を名作にしている要素の一つだと痛感しました
これはエルファバ1人の物語なのではなく、エルファバとグリンダの2人を主人公として、対比的に描くことによって人生の選択を際立たせている物語なのだとわかりました
グリンダは物語が進むにつれ、より強く逞しく決意を固めていきます
最後には「西の魔女は死んだ」ということを世に知らしめながらも、エルファバとの思い出は忘れないよう一人で抱えて生きていく決心をするのです
彼女もまた、強く、眩しい
このW主人公の他にも、婚約者のフィエロ、エルファバの妹のネッサローズなど語りたいキャラクターがたくさん登場してきたのですが
あまりにも長文になってしまったので割愛します
これが後の『オズの魔法使い』に繋がる設定なのか…!と驚かされるシーンも多々ありました
そういう伏線が張られるキャラクター描写も、前日譚ならではですよね
伏線回収が美しいところも見どころです
■楽曲それぞれの良さ
私のミュージカルの方程式として
①曲中の音域が2オクターブ以上離れている
②クライマックスのタメが長い(曲中BPM変化が倍テン)
③混声3部以上の構成
という法則を超えてくると感動しやすいというマイルールがあるんですが
ウィキッドはその全てを大きく超えてきます
名曲『Defying Gravity』では、曲中音域は3オクターブを超えています
BPMは冒頭40とスローペースで始まりながら、後半では引き返せない決断を演出するために160まで上がります
決して多くない人数ながらも、ダンサー達は混声4部曲を美しいハーモニーで歌い踊ります
常人が歌うには遥かに難しすぎる曲ですが、劇団四季は誰一人音を外さず、力強い声で会場の奥まで歌声を響かせます
また、注目すべきはその歌詞にもあります
物語としてエルファバとグリンダ、過去と現在など対比の構造を取られるシーンが多々あります
それに合わせ、リプライズ曲では対比の語で韻が踏まれています
unlimitedとI'm limited、
changed for the betterとchanged for goodなど…
私は楽曲自体は英語で聞いていたので
原作の表現と和訳語の表現の比較も面白かったです
詳しくは下記のnoteが面白かったので勝手ながらご紹介させていただきます
たとえストーリーを知らなくとも
楽曲は本当に美しくその圧に感動するので、音楽だけでも聴いてください
■ミュージカルの良さとは
同じ進行で、同じ歌詞で、歌は何度も繰り返し歌われていきます
オープニングで歌われた歌が、全く同じ歌詞でエンディングにも歌われます
ですが、同じ内容のように見えても全く違った印象を与えてきます
同じ歌でも、背景と受け取り手の解釈によって大きく意味合いが変わってくる
そこに"物語"の良さが詰まっていると感じます
ミュージカルは、そういう物語の良さを音楽に乗せて訴えかけてくるので、好きです
大好きです
結局、第一幕・第二幕ともに顔がぐしゃぐしゃになるほど泣いてしまいました
音を抑えようと頑張るあまりに肩が震える程泣きじゃくってしまいました
ありきたりでつまらない表現にはなってしまいますが
本当に、本当に良かったです
待ち続けて良かった
もし気になった方がいたら、大阪公演も決定しているので是非見に行ってみてください
私も多分行くと思います
ミュージカルのような人生に幸あれ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?