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エルメスのことば学~2023春夏コレクションと日本と韓国とアメリカと

むかーしブログのほうで書いた(ここもブログですが…)記事のアクセスが突然あがったと思ったら原因はジェーン・バーキンさんの訃報でした。

 訃報は悲しいことですが、こどもがおろしたてのグローブやシューズを馴らすかのように自らの名前を冠した高級バッグを踏んずける彼女の姿はいかにもジェーン・バーキンというかんじで、そんな記事で彼女のことを思い出していただけたとしたらそれはそれでよかったことでもあります。そしてあの光景はエルメスがそもそもは馬具メーカーだったという事実を思い起こさせるものでもありました。

 さて、エルメスつながりということでブログのほうにはエルメスの今春夏の新作スカーフ「アナモルフォース」を題材にフォトショップクイズの続きを書きましたが、

こちらはお名前サイトなのでエルメスのことば学ということでそちら方面のおはなしを少々

 エルメスの公式サイトにはスカーフ製品については長めの紹介文が掲載されているのですが、そのタイトルが「オブジェの秘密」
 はぁ?オブジェって何?というのが第一印象。
仏語の原文にある「objet」をそのままカタカナにしたと思われますが、カタカナ語で「オブジェ」といえば小洒落た置き物とか、アート作品といったニュアンスが感じ取れまが、そうだとしたら気取りすぎぢゃね?と思ってしまいました。。
 一方で仏語の「objet」は恐らくは英語の「object」同様、カバーする意味の範囲はかなり広く、第一義はUFOの「O」のように単に物体という機能的なものなのでは?と考えたのですが、ここはひとつ「美術展のメソッド」を使ってみるとしましょう。
 美術展のメソッドというのは私が勝手に思いついて勝手に名付けたものです(笑)どういうものかというと、日本の古い工芸品やら仏像やら武具やらを展示した美術展を見に行ったときにふと名札に併記されている英文に目をやると難しい漢字の羅列で意味不明だった品名がすっと理解できたということがありました。それ以来、必ず英文の説明も見ることにしたのです。
 というわけでエルメスUSAの説明文タイトルはどうなってるでしょうか?

The story behind

 ステキ!さすがエタンメ大国。映画の解説記事やメイキングについてそうなタイトルです。ワクワクがせまってきます。
 決して原文を切り捨てたわけでもなく、「object」という語のもつ曖昧さも受けとめつつの名訳といえるのではないでしょうか。「The story behind ●●●」というわけです。
他の国はどうでしょう?

スペイン
La pequeña historia

ドイツ
Die kleine Geschichte

どちらも意味的には「The Little Story」
なんか一枚のスカーフが絵本のように思えてくる、こちらもいい感じのワードセンスではないですか?。

中国
创作渊源
「創造の源流」とちょっと哲学寄りな感じですが、これもいい感じ。
ちなみに
カレ70アナモルフォース

立体图像”70厘米方巾
です。
もうひとつおまけに
「ルネッサンス」は「文艺复兴」
そう文芸復興ですね

イタリア
Un oggetto e i suoi segreti

イタリアだけはフランスの原文とほとんど同じ構造ですが、これは「oggetto」が機能的・意味的にフランス語の「objet」とほぼ同じような意味の範囲のことばだからなのでしょう。英語の「object」も意味は広めではありますがUFOのOとかobjectiveとかobject指向とかその中心線はエッジのきいてるイメージです。

さて、韓国はどうでしょう。
스토리 비하인드 

表音文字で「ストーリービハインド」
つまり英語のをまま流用?。
実は「ビハインド」という言葉は「裏舞台」などの意味で韓国語の中に(日本語におけるカタカナ語のように)定着しているようでエンタメ大国におきた偶然の構図といえます。

ところで日本などは「Carré 70 」をそのまま「カレ70」として売っていますがCarréはスカーフという意味で70は70センチというサイズを表しています。Carréはもともと四角という意味もありますから、日本人が1つの漢字から複数の意味を感じ取れるようにフランス人がCarré70という商品名を見た時は一瞬にして70センチ角のスカーフと読みとることができるという極めて機能的な商品名といえます。
日本語が仏語をそのままカタカナにして
カレ70としているのに対して
英語では
scarf70
独語では
Seidentuch70(直訳するとシルクのスカーフ)
ハングルでは
스카프70
中国語では
70厘米方巾

とそれぞれ自国語におけるスカーフという語になっています。
これは元来馬具メーカーであるエルメスの質実剛健な飾らない機能的な命名コンセプトに沿っているように思え、日本だけが浮いているようにも見えます。
 とはいえ天下のエルメスのことですから、見えているものはすべて「正解」なのでしょうが、その「正解」が日本人から見たブランド観を分析した結果導き出されたものだとしたらオブジェの件といい他国との差を見るにつけ「うーん」てな感じがします。どうでしょうか?

ともあれ

R.I.P. Jane Birkin


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