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「デリバリースーサイド2」〜作者の記録(2)〜


<「デリバリースーサイド」シリーズの原作者によるこぼれ話をお届けします>

前回「期せずして与えたらしい不快感」について次回書くとお話ししたので、そのエピソードから。

今作「デリバリースーサイド2」のチラシ制作にあたって、イラストレーターさんを何名か探した。

最初の方に連絡したところ、丁重なご挨拶とともにお断りされた。
「作品に賛同できません。青少年の親でもあるのでご了承ください」
とのこと。

お送りしたのは台本ではなく、あらすじや設定とキャッチコピー的な説明文のみ。
内容を読まれる前に、不穏当・不謹慎感を抱かれたのだろうと思い、こちらもお返事に感謝するご挨拶をして、やりとりは終わった。
台本を読まれていないので、もしかしたら自殺を肯定または推奨するような内容であると思われたのかもしれない。

いずれにしても、お子様へ仕事の説明が必要になった際に、対応に困るのだろうと想像した。それはよく分かるお話で、この方に対するわだかまりはなく、自作に対して検討の時間を割いてくださって普通にありがたかった。

ただ、この件で感じたのが「”自殺”に対するアンタッチャブル感」であった。

まず、「死」が大っぴらに出てくる作品がNGなら、大量の斬殺が行われる時代劇、殺人事件が出てくるミステリー、死者を扱うホラー関連の作品が全て賛同できかねるものになってもおかしくないはずだが(別に一生懸命年若い子に勧めている雰囲気もないけれども)、その気配はあまりない。

なぜか、こと「自殺」に関しては、また「自殺がメインのもの」に関しては、やたらと触れづらい空気感がある気がする。

明日、全国的に自殺が0件になるのであれば、なかったことにして全力で遠ざけてもいいかもしれないが、数としては、現在のところ交通事故死の倍以上人数が多い。

つまりは、このままの数字が続けば、事故で亡くなる確率よりも、いつか自死する可能性が「現実的に」高いはずだ。

反射的に「不吉なことを言うな」と思われた方もいらっしゃるかも。

ではなぜ「いつか事故に遭うかも」は不吉でなく(吉でもないけれど)、「いつか自殺するかも」は(より)不吉な感じがするのか。

なぜアンタッチャブル感があるのか。

「そりゃあそうだろう。いけないことを選んでいるから」と簡単に答える人がいた時、「ですよね」とシンプルに応じる人も、現代社会においては少ないだろうと思われる。

本当に”いけないこと”か。

なぜ”いけないこと”か。

本当に”選んで”いるのか。

あるいは「”なぜ”と言ってもいけないこと」なのか。

「なぜ」を連結して行くと、TPOはどうであれ、必ず死に至る自分について考えることになる、ように思う。

「納得できる死」「納得できない死」「良い死」「悪い死」

…など、無意識に、謎の分類が個々人の中にあるように思う。

実は前作では、近しいご親戚が自死された方々が何名か見に来てくれた。
アンケートへの丁寧な、そして好意的なご記入も頂いた。

父を自死で亡くした過去を持つ沢渡吉良という刑事が、被害者の女性に語るシーンがある。

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吉良 「私の場合は父でね」
ユリ 「...そんなことが」
吉良 「結局何が悲しいって、自分の存在が止める力として働かなかったこ となんだよね」
ユリ 「...(頷く)」
吉良 「大好きって言ってたのに簡単に放り出せるほど、私なんかどうでも 良かったのかって」

前作「デリバリースーサイド」より
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上述のお客様の一人(作者の知己の一人)が、このセリフを聞いて
「私の場合はそうは思わなかったかな。でもそう思う人もいるのかもしれませんね」と気さくにアンケートに記してくださった。

今作のエッセンスでもあるけれど「悲しみの尺度」も人それぞれである。



中村智志氏著「あなたを自殺させない〜命の相談所「蜘蛛の糸」佐藤久男の闘い」という本より、主人公佐藤氏のセリフを所々引用させていただく。
(僭越ながら、筆者もかなり近い考えを持っていると感じた)

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「人間には、自分の命を守る自由と共に、自分で命を断つ自由もある。俺は、自殺を否定するわけでもないし、自殺がダメだという価値観には立たない。あくまで個人の命は個人のもの、人間っていうのは死ぬもんだという価値観だから。(中略)自殺をゼロにできると考えるのは、不遜な傲慢な人間だと思っている。(中略)ただ、食い止められる死、避けられる死がいっぱりあり、それを防ぎたいと思う」

中村智志氏著
「あなたを自殺させない〜命の相談所「蜘蛛の糸」佐藤久男の闘い」より

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今回も長文のご精読、ありがとうございました。
宜しければ次回もご高覧ください。

「自殺」独自の不吉感について、「本当に選んでいるのか」について、自殺に関する書籍のご紹介をしつつ、またはお芝居に関するエピソードなどなど、お話する予定です。

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第2回 a-fiction m&h theater「デリバリースーサイド2」

【日程】2019年1月29日(火)〜2月3日(日)全10公演
【会場】八幡山ワーサルシアター(京王線八幡山駅より徒歩30秒)

[Introduction]
自殺者が増加した某国
法改正により新たなビジネスが生まれた
自殺の後始末を本人から請け負う専門業者
その名もデリバリースーサイド 通称DS〜ディーエス〜
[Story]
「私は自殺してません」
依頼人の自殺者が残した奇妙な書き置き
「過労死だ、会社に殺された」と兄がDSに援助を求めるが…
「デリバリースーサイド」シリーズ第2弾

2017年秋に第1回を上演して好評を頂いた
ミステリー 「デリバリースーサイド」
DSの経営者黒木と助手の伊田、吾妻と吉良の刑事コンビも再登場
新たな出演者と共に、シリーズ第2弾をお届けします
演出 赤星ユウ (レティクル東京座)
原作・脚本 菅原愛 (a-fiction)

【出演】
五十嵐啓輔(和奏AGENCY)、 中三川雄介(レティクル東京座)、田邊俊喜、山本沙和(レティクル東京座)、 兎美心(REVE INNOVATION)、
長野耕士、 音羽美可子、大橋篤、
松山コウ(劇団C2)、ハズレKUJI(阪口拓嗣:ボクらの罪団)、
エスムラルダ、森友樹(和奏AGENCY)、
城田さおり、えみかん、卯木祐矢(劇団わたあめ工場)

チケット販売中

「自殺防止団体さまへ寄付します」
クラファンページはこちら

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