愛ちゃん
-1-
行ってきます
愛ちゃんは元気よく、扉を開けて家を出ました。
「ハンカチ持った?気をつけてね」とお母さんは小さな弟をあやしながら言いました。
扉が閉まった瞬間、愛ちゃんはお腹が痛くなりました。
(今日もまた、お兄さん達にいじめられるのかな、やだな)
愛ちゃんは思い気分で通学班の集合場所に向かいました。
「遅い!早くしないと学校行くのが遅くなるだろ!」
上級生のお兄さんが怒鳴ります。
「…ごめんなさい」
愛ちゃんは小さな声で返事をして列に並びます。
愛ちゃんは一年生。体は大きいですが、元々、のんびりした性格。
この上級生が苦手でした。
「ほら!愛!遅い!早く歩け!」
また、怒られました。
まだ、慣れない通学路。
愛ちゃんは必死に歩きますが早くは歩けません。
「みんな、先に行って」
ちょっと列から遅れた時、班長さんがいいました。
「わかった、みんな行こう」
意地悪上級生が答え、さっさと歩いていきます。
気づくと、班長さん以外にもお兄さんが1人残ってくれました。
班長さんとお兄さんは何も言わず、愛ちゃんの歩く速度に合わせてくれました。
それからはいつも、お兄さん達が一緒でした。
-2-
ある日の夕方
愛ちゃんのお家に担任の先生から電話が来ました。
「愛ちゃん、いつも遅刻しています。上級生も一緒に。迷惑をかけないようにして下さい」
「すみませんでした」
お母さんが謝ります
愛ちゃんにも先生の怒る声が聞こえました。
また、お腹が痛くなりました。
電話を切ったお母さんが聞きます。
「愛ちゃん、通学班、辛い?」
「ううん、大丈夫」
愛ちゃんは心配をかけたくないと嘘をつきました。
-3-
お母さんは愛ちゃんが嘘をついてるがわかりました。
(この子は、今、学校までの道のりが辛いんだ。学校へ行ける自信がつけば、大丈夫なんだけどどうしたら…)
お母さんは考えました。
そして、閃きました。
(そうだ!一緒に学校へ行けばいいんだ。ちゃんと自分の力でいけるという自信をつければいいんだ。それには車での送迎はダメ!)
お母さんは一呼吸してから言いました。
「愛ちゃん、明日、お母さんと一緒に、みんなよりちょっと早く学校行こうか?」
愛ちゃんがちょっと不思議そうな顔をします。
「愛ちゃん、みんなの速度にあわせられないでしょ?お母さんと少し練習をしながら、学校行かない?先生に怒られるの嫌でしょ?」
愛ちゃんは(お母さんと一緒なら怖いお兄さんもいないし班長さん達に迷惑をかける事もないかも)考えて
「うん!そうする!」と大きな声で答えました。
-4-
お母さんも決して朝が暇な訳ではありません。朝ご飯、洗濯、弟はまだ一歳。朝は大変です。でも、ここは愛ちゃんが優先。
洗濯なんて帰ってきたら出来る。弟が泣いたって死ぬ訳じゃない。
ある時からお母さんは割り切りました。
翌日、愛ちゃんの支度ができた所で出発。
弟はぐずるどころかベビーカーの中で上機嫌。
-5-
愛ちゃんの通学路にはきつい坂道が二つあります。大人でもきつい坂道です。
お母さんもベビーカーを押すのが大変。
愛ちゃんのペースも落ちます。
「愛ちゃん、頑張って。お母さんもベビーカーを押して頑張るから」
「…うん」
何度も何度も坂の途中で止まる愛ちゃん。
お母さんも段々とイライラしてきます。
ちょっと怒るような言い方にもなってきました。でも、離れず、同じ速度で歩きます。
校門が見えてきました。
「愛ちゃん、学校みえてきたよ。頑張れ!」
愛ちゃんは、ちょっと顔を上げました。
「ほんとだ!」
なんだか嬉しくなり少し歩調も早くなります。
「愛ちゃん、みて、まだ、みんな来てないよ。愛ちゃん、一番だ!よく頑張ったね」
お母さんの声も嬉しそう
「じゃあ、いってらっしゃい」
「いってきます」
-5-
お母さんとの登校を暫くした後
お母さんは決心しました。
「愛ちゃん、明日から班登校してみない?」
愛ちゃんはびっくり‼️
(無理、またいじめられる)
すると
「大丈夫、お母さん、後ろからついて行くから、何かあったら助けるよ」
(お母さんがついてきてくれるなら)
「わかった、班登校してみる」
お母さんも愛ちゃんにとっても大きな決断でした。
-6-
翌日、愛ちゃんは班の中に入り登校を始めました。
でもやはりペースが早い。
お母さんは先頭の子に
「一年生もいるからもう少しゆっくり歩いてくれる?早くいきたい気持ちもわかるけど」と声をかけました。
「あ、は、はい」
上級生は少しペースを落としてくれました。
愛ちゃんは無事、登校班で学校に到着。
それで自信がついたのか登校班で通学できる日が増えていきました。お母さんは少しずつ、列から離れて後ろに下がっていきました。愛ちゃんが自信を持つようになったのとは裏腹にお母さんは心配になり、弟を自転車に乗せて先回りする様に。
でも、ある日、お母さんは思いました。
このままではいつまでたっても愛ちゃんを信じていない事になる。
心配だけど、やめなきゃ。
その日を境に付き添いを一切やめました。
心配だけど心はスッキリ。
季節は春から夏に変わろうとしていました。
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