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置いてけぼり

ジョウロは置いて行かれた

ちょっと居眠りしてしまった

ほんのちょっぴりだと思ったのに

目を覚ましたら
みんないなかった

ジョウロは木にぶら下がっていた

道端で寝転がっていってたのを
誰が拾いあげたのだろう

ジョウロは叫んだ
カタカタ鳴らしながら

「降ろしてくれ!
みんなのところへ
虹の向こうに行かせてくれ!」

彼の声は
届かなかった

小さな少女がやってきて
よいしょよいしょと
彼を取ろうとした

「助けてくれるのかぃ?」

彼は喜んだ

だけど
少女はにっこり笑うと
ジョウロをもって
蛇口にいって
みずを入れた

つ!冷たい
き、気持ち良い!

少女は
うんしょ、うんしょと
溜まった水を
花たちに蒔き出した

「気持ちいいわ」
花たちの声が聞こえてきた

少女はニコニコ笑いながら
楽しげに
チューリップの歌を歌った

ジョウロは
少女の歌を
花たちの声を
聞きながら思った

置いて行かれて
良かったかもしれない
おいらは
なんだか、不思議な感覚だ
体があったかい

太陽に照らされて
あったまだけかもしれない
だけど
彼は幸せを味わっていた

おいらは
ここで
この子と花たちと一緒にいたい

良かった
置いてきぼりされて

ジョウロは
ぽつりとつぶやいた

あー、幸せ…と

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