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急がないで春*ハクモクレンの順番がやってきた

毎年、4月が巡ってくるたびに感じることは、春のそのスピード。

雪国ではないのに、3月で冬タイヤを交換するにはまだ早い。

春を告げるドカ雪が、4月にやってくることに油断が出来ないからだ。

年に数えるほどの雪かきしかしないのに、冬タイヤを節約できないとは
無駄と思えるが、これも人間の力ではどうしようもない部類の分類。

最後の雪が降ったあとは、一呼吸おいて、一気に空気が変わりだす。

カレンダーに頼らなくても、鶯の鳴き声は鶯らしくなり、
底冷えのする冷たい風はいなくなり、春に咲く花たちが咲いた途端、
順番を待つように植物が呼吸をするように、一斉に動き出す。

まるで見落としてはいけないような、
過ぎていく一日の速さや、その一瞬の大切さを教えてくれる。

ムクムクというようにハイスピードで、あらゆる若葉が顔を出してくる。

寒椿の色が褪せていく代わりに、早咲きの白い水仙が可憐に咲き揃う。

黄水仙があちらこちらで波のように、まるで肩を組んで歌い始めるように、その力強い色で誇らし気に真っ直ぐに立ってハミングのように風に揺れる。

その可愛らしい乙女な群生を、誰が、自分の姿に恋をし、
水仙の花になったギリシャ神話の美少年ナルキッソスを思うだろう。

カタクリの花のように健気に見える姿が、黄色を発しながら、
ゆらゆらと風に身を任せて、小首をかしげるように揺れる。

お気に入りの場所は、大きめな石を並べて縁取りをし、
生け花風を見立てたところ。

姿勢の良い大島桜はいまだ枯れ枝のように、
そのシルエットを迷いなく、空に向かって手を広げている感じで、
低木の、白い雪柳は四方八方に手をのばすように、
ふんわりと波のように広がって咲いている。

私の一番好きな白い花は、どんなところも中和させてくれる働き者だ。

足元の黄水仙は、白い雪柳に守られるように、
花器に見立てたその場所に、深窓の令嬢のようにすまして咲いている。

利休梅の白い蕾も、枝垂桜の濃い桃色の蕾も、ポロポロと姿を現し始める。

黄色のレンギョウが、その幹が、カフェオレ色に塗られていくままに、
その花びらの黄色はひとつずつ消えていく。

その頃には巡ってくる主役の順番を待てないように、
風景の片隅に佇んでいた木蓮の枝がにぎわいだす。

今、あちこちにあるハクモクレンが、
まるで空から小さな天使が、その枝で羽を休めてるように咲き始めている。

春の樹木は、咲いた後にようやく、葉の緑が目立ちだす。

主役はいきなりの、花だ。

あの固い木の体のどこに、
クリーム色の柔らかな花びらを隠し持っていたんだろうと、不思議に思う。

バニラのソフトクリームのように美味しそうな蕾。

羽を広げて、一斉に空に羽ばたいていくのではないかと思えてしまう花。

そんなハクモクレンが春の風景には欠かせない。

もっとじっくり眺めたいと思うのに、春はいつも早足だ。

友人と次の約束は、
大きな大きなハクモクレンの木のある蔵カフェにした。

あのハクモクレンの木に、私の愛を告げてきたいんだもの。


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