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時を経て聴く*アランフェス協奏曲第2楽章

彼のハミングはたいていクラシック音楽で、
私は素養がないどころか、単純なロックが一番好きだったので、
話が合わないのを通り越して、とても面白かった。

「自分の中で一番続いてるのは音楽。
いつまでたっても上手くできないからだね」

クラシック音楽というのはその言葉だけで敷居が高いけど、
(コンサートのチケットも高いけど)
彼のハミングを聞くたびに、
日常生活のあちこちに入り込んでる音楽だと気づかせられた。

「じゃあ、一番お気に入りの曲は?」

「そうだな、アランフェス協奏曲かな」

少し考えて教えてくれた。

どんな曲か分からず、あとで知った時に、
(ちょっと暗くない?こんな静かすぎる曲が好きなの?)
というのが正直な感想だった。

陽気なキャラクターとなんだか一致しないし。

そんな随分昔のことを思い出して、動画を探して聴いてみた。

あれだけ重苦しいような曲の印象がちがう。

(疲れているのか、年を取ったということか・・・)

少々愕然とする。

1オクターブ感情の掴み方が変わったのか。

美しさの基準が広がったのか。

それとも、ちゃんと聴けるようになったということかも。

見ていなかったものに焦点を当てられる。

聴いていなかったものにちゃんと耳を傾けられる。

そう言えば、
小さい頃「紅葉」というものの美しさが分からなかった。

青々とした緑が一番美しいに決まってるのに
大人は綺麗だ綺麗だというけれど、落ち葉は汚らしいし、
色は死にかけのものだからなんだか淋しい感じだし、
枯葉や枯れ枝の何がいいんだろうと思っていた。

小学校の外に出て秋の写生する日に悩んだことを思い出した。

中学生のお年頃になると「好きな人」の話題で、
お喋りをにぎわすけれど、
好きでもなんでもない人に好かれることは迷惑だった。

自分には嫌いな人がいるんだから、
誰かに自分が嫌われていても平気だと信じてた。

悪い意味で世界が自分の中心だと思ってたあの頃。

世界は私の頭の中に繰り広げられるだけの、小さな日常だった。

その世界がどんどん広がるにつれ、
私にとって世界は恐いもので、ただ傍観者でいることを選んだ。

彼はいつまで経っても17歳で、
世界は自分を中心に回っていると思ってた。

だから自分の回りの人を、充分に大切にする。

優しい目で見つめて、素直に感謝も伝える。

嫌なことがあっても、ただ笑って受けとめて世界を乱さない。

世界は彼の価値観の中で、美しく構築されて
彼を中心に整然としたルールを保っているのだ。

そんな世界を構築できる人間になりたいなぁと私も思う。

アランフェス協奏曲第二章の中に、彼の心を感じた気がする。

過去を旅するってこういうことかなぁと考えて見る。

いつまでも追い続ける相手がいるのは幸せだなと思いながら。

まだまだ彼を追いかける旅の途中。



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