【妊活】泣けないのだ

わたしの通っていた病院は総合病院で、
でも不妊治療の部門だけはちょっと隔離されたような造りになっていて、そこに通う人たち専用のトイレがあった。

あるとき、そのトイレへ行くと、2つある個室は埋まっていて、前に2人並んでいた。
左側が空き、最前列の人が入る。
そうしているうちに、わたしの後ろにも人が並んだ。
しばらく待ったが、空かない。
わたしの後ろの人がしびれをきらして、右側のドアをノックしようとした…のを、最前列の人が咄嗟に制した。
ん??
訳がわからなかったけど、最前列の人は、右側のドアを指差して、切なそうな表情を浮かべると、首を振った。

右側のドアの向こうから、鼻水をすする音が聴こえた。

…泣いてるのか。

たぶん、その場にいる全員が、
なんともいえない気持ちになった。

きっと、ツラい結果を聞かされたのだろう。

なんとかかんとか、トイレの個室に入るまで、我慢したんだよね。
ひとりになったら、つい溢れたんだよね。

わたしも、何度、泣くのをこらえたことか。
ツラい告知
怖い経過
悲しい結果
痛い治療
その場で泣きたくなる。涙が溢れそうになる。

だけど、
泣けない
泣くわけにはいかない
だって、そのあとも、
ちゃんと説明を聞いて、お会計をして、
薬ももらって、電車に乗って、帰らなくちゃいけない。
もしかすると、誰かに会うかもしれないし、
「ちょっと虫歯の治療してきました」みたいな顔をして職場に戻らないといけないかもしれない。

大人だもん。
妊活だけが全てじゃない世界で、社会で、人生で、生きてるんだもん。
泣けない。
泣くわけにはいかない。

でも…
めちゃくちゃめちゃくちゃツラい。

なんで??
なんでダメなの??

1000000回は思う。考える。

でもダメ。

普通な顔して診察室から出てきた人が、
待合の椅子に座って、スマホを手にとり、メールする。
ふとまた彼女が視野に入ると、眼が少し赤くなっている。
そんなのを、何度も何度も見てきた。

きっと旦那さんにツラい報告をしてるんだろう。

この人のコウノトリは、いったいどこで迷子になっているんだろうか!?
流した涙がとってもとっても甘い香りで、迷子のコウノトリを導いてくれたらいいのにと、
もらい泣きしそうなのに耐えながら、いつも願っていた。

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