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19.相変わらず世界って遠いね。
「重いもの持てないので重たいものお願いしたいです。あ、妊娠してるので」
その言葉にぼんやりと「あー、はい」と上の空で返事をしながら次にやることの段取りを考えていた。5分後くらいして、彼女が最後にぽろっと付け足した「妊娠してるので」という言葉が頭を流れて思った。あー、きっと普通なら「妊娠したんですか?」とか「おめでとうございます」とかなんとか反応するんだろうなと。
全くの真顔で、全くの無反応だった自分は「ちょっと怪我してるので」と言われたほうがまだ反応できた気がする。
どうでもいいけど住む世界も、持ってる感情も感覚も、少しも重ならない人種だと。
あたりまえのように結婚して、子どもができて、あたりまえのように幸せを手に入れられる人なんだろうなと思った。
私が唯一放った言葉は「あ、コーヒー飲まないですよね」くらいだった。
彼女は当然のようにカフェインを控える。
1週間生理が遅れたとき、もしかしたら妊娠したかもしれないとひたすら検査薬を使って調べていたあの頃。
何かに縋るようにアルコールを摂取して、いつも通りカフェインを摂取して、普段以上に煙草を吸った。
あぁ、何もかも違うなと。
妊娠したことがおめでたいと思える人間ではないので、迂闊にそんなセリフは言えない、言うつもりもない。
あまりに遠い世界の、架空の世界の話みたいな感覚に陥ることが、わりとよくある。ありすぎてついていけない。
世界はいつだって、私の知らない世界を当たり前のように振りかざしている。
君と僕の世界。共鳴できたら嬉しいです。なにかが刺さってくれたらそれだけで幸せです。