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PCR検査の感度について

これまでの国内の専門家の発言及び英文の文献の記載を多数調べて、何%程度と考えられるか詳しく検証しました。

PCR検査の感度について、日本では、だいたい2020年前半の初期の頃から、ずっと70%くらいと言われて、今迄来ていると思います。2020年の後半頃からは、もっと高いとする人は多くいますが、主要メディアや、主流のというか政府や分科会に近い考え方の専門家では70%から高くて80%程度を前提に話している人が2022年初の現在の段階では多いという感じです。

「感度」という言葉は、コロナウイルスのPCR検査について使う場合は、身体の中にコロナウイルスがいる人から採取した検体について、正しく「陽性」とできる確率のことです。

前の、特異度検証の項で挙げた、分科会第一回、第二回の資料でも、感度は、それぞれ70%が仮定として使われています。また、分科会の尾身会長は、最近になっても、2021年12月23日の会見で、以下のように言っています。https://www.youtube.com/watch?v=Lb5sKW3DM2c
題名は「【LIVE】新型コロナ分科会 尾身会長 会見」 (51:44辺り)
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PCR、まあ抗原定量検査もそうですけど、まあ、これはいわゆる感度という、我々の専門家では言ってますけど、100人いたら、70人はまあ、ディテクトというか、30人は、これ限界なんですね。100%引っ掛けるという事は、まあ、時期の、感染の、検査の時期もあるし、採取の仕方もあるし、色々なことで、元々100%はディテクトはディテクトできない、という
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あまりはっきりした言い方で言っているわけではありませんが、尾身会長は、中国武漢でこの感染症が最初に確認されてから、二年近く経過した21年年末時点でも、PCR検査の感度は、だいたい70%だと考えていた、といえるのでないかと思います。

余談ですが、尾身会長は、この発言に見られるように、言葉を正確にフルセンテンスで言わず、何を言っているのかはっきり分からない言い方をよくしている感じです。これは、公衆や政府に広い影響を与える、政府から助言の役割を委嘱された専門家として、明らかによくない事だと思います。

さて、以前の専門家会議、そしてその後の分科会の両方のメンバーでもある、押谷仁東北大学大学院教授も、PCR検査の特異度を70%として話しています。以下は、2020年7月31日のニューズウィーク日本版に掲載された、石戸 諭による押谷教授のインタビュー(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/pcr-4.php)です。PCR検査を国民全員にやったとしたら、という文脈の中においてですが、このように話しています。
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正しく陽性と判断される確率は70%だ。しかもこの感度70%というのは発症直後の話で、PCR陽性率が最も高くなるときの割合だ
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また、厚生労働省の鈴木康裕・前医務技監は、毎日新聞のインタビューで次のように言っています。医務技監は、記事中で「医療政策や感染症対策を指揮する事務次官級のポストで、いわば現場の最高責任者」と説明されています。

2020年10月24日
記事題名:『医師が必要と判断した人のPCR検査もできず…鈴木前医務技監「頭を下げるしかない」』
「感染していないが陽性になった人も結構いるとみられ、本当に感染していても7割か8割しか検出できない。PCR検査は完全ではないということは言っておきたい」

これは、PCR検査の感度が70%程度だと考えていたのは、分科会や厚生労働省だけではなくて、民間でも、少なくとも2020年7月くらいまでは、多くの人がPCR検査の感度は70%くらいだと考えていたようです。以下は、一例です。

忽那賢志医師 (テレビのニュース番組等でよくコメントしている、あごひげのある医師です)
2020年3月6日「今日から新型コロナPCR検査が保険適用に PCRの限界を知っておこう」
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200306-00166273
「感覚的なものですが、咽頭や鼻咽頭のスワブを用いたPCR検査の感度は70%くらいかなと感じています。つまり30%の方は本当に新型コロナウイルス感染症なのにPCR検査で陰性と出てしまうということです」

岩田健太郎神戸大学教授 (2020年2月に、ダイヤモンド・プリンセス号に入って船内の感染対策について問題点と考えるところをYouTube動画に投稿して反響の大きかったあの医師です)
『僕が「PCR」原理主義に反対する理由』集英社 2020年12月12日第1刷
「新型コロナのPCRは感度が低いことがよく知られています。つまりウイルスに感染しているのに陽性にならないケースがたくさんある。
 世界最高レベルの医学専門誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に掲載された論文において、執筆者たちは「PCRの感度は七〇パーセント」と見積もっています。僕の体験的実感でも、だいたいそんなところかなと思います

なお、少し話がずれてしまいますが、この岩田教授は2020年の2月9日では、ツイッターで以下のようにツイートしていました。
「PCRの感度は30%-50%」「検査は万能ではない、臨床医学のいろは」
(なお、このツイートは中国の「財新」というメディアへのリンクをつけています)

他に影響力のあった人の感度についての言及としては以下のようなものがあります。

木下喬弘医師
(救急科専門医で、CoV-Navi(こびナビ)副代表。こびナビは、NHKでも2021年8月10日に、「新型コロナワクチンと誤情報」という番組で、コロナについての「誤情報を食い止めたいと立ち上がった」「ボランティアの医師たちで作るグループ」として紹介されています。https://www.nhk.jp/p/ts/XKNJM21974/
また、NHKのサイトでは、「『こびナビ』 ”信頼できる情報”を発信する 医療者の挑戦」という題名で、web記事があります)

2020年2月25日のツイッターでのツイートで次のように言っています。
「検査の感度が70%、特異度が95%とか言われていますので、ものすごく間違います」

なお、これが自身のツイートへの返信になっている同医師の同日の元のツイートで、「1億人中1000人なので、有病率は0.001%です。つまり、闇雲に検査をしても、検査陽性の人が病気を持っている可能性はおよそ0.1%になります」と書いていますが、本書で私が「特異度」の項で考えたことに基づくと、0.1%ということは全くあり得ないと思いますが、どういう考え方なのでしょうか。

坂本史衣 聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー
2020年2月26日付けの ネットメディアのBuzzFeed記事(https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-sakamoto)で、「25日から26日午前にかけて」行ったインタビューに基づいているという岩永直子Editorの記事で以下のように言っています。この人は、コロナの初期の頃、BuzzFeedの以下の記事のリンクを入れてツイートされた、沢山の人のツイートに、白衣の中年の婦長さんのような雰囲気の顔の大写しの写真(あくまで雰囲気で婦長さんではありません)が入っていたあの人です。

『「SARS-CoV-2」のPCR検査の感度は、30~50%や70%だという報告がありますが、いずれにしても100%ではありません

峰宗太郎医師 ツイッターで2022年2月時点でのフォロワーが8.3万人
テレビ朝日2021年2月7日https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000206411.html
など、テレビ出演多数の医師です。

以下は、峰医師のツイッターでの2020年4月17日のツイートです。
『ばぶの信頼している疫学者の先生が、「PCR検査のことをいうときは、必ず「感度30-70%の」という枕詞を付けるよう提案」されているので、ばぶもできるだけそうしていきたいと思います👶感度30-70%のPCR検査、ね。』
(なお、「ばぶ」というのは、自称だと思います)

以上、上で挙げた多数の例から分かるように、特にコロナ禍の初期の頃を中心にして、日本国内ではPCR検査の感度を約70%か、それ以下、と考えている人が多かったことと思います。

2021年12月の尾身会長のPCR検査の感度についての認識は、上で見た様に、ほぼ70%だったと考えられます。この他、同時期における、厚労省及び政府にアドバイスしている専門家による見解を挙げると、厚生労働省の専門家会合の脇田隆字座長の発言があります。NHKの2021年12月28日の記事「いま知りたい新型コロナウイルス検査の知識」(https://www3.nhk.or.jp/news/special/sci_cul/2021/12/news/coronakensa/)は、同座長が12月16日の会見で話した内容として、以下のように伝えています。以下の引用は、空港検疫で、精度の高いPCR検査ではなく、抗原定量検査が使われている理由は何か、ということについて語っている文脈の中での発言です。
「仮にPCR検査を使っても感度は8割程度にとどまり、すべてを検査で見つけ出すのは難しいとして」
この発言から、厚生労働省にアドバイスとる専門家会合の脇田座長は、2021年12月16日の時点で、PCR検査の感度は最大8割程度だと考えている、と理解できます。

論文に記載されたPCR検査の感度

厚労省、厚労省にアドバイスしている専門家たち、およびそれらの人たちと似た見解の人たちの日本国内でのPCR検査の感度に対する考え方は、以上である程度わかりました。では、国内外の論文では、PCR検査の感度について、どのように書かれている、あるいは触れられているでしょうか?

先に私の考えをお話ししておきます。現時点での私の考えは、感染後早期にPCR検査した場合、複数検体、多数回検査するなど誤判定の予防措置をとった上での、実際のPCR検査の運用上は95%くらいの確率で感染者を見つけられるのではないか、という気がしています。ただ、1検体で、1回だけ検査した場合のPCR検査の感度は、よく分からなかった、というところです。

これには、下記のようないくつかの要因があります。

・論文により感度の推測値に大きな差がある。
・感度自体の検証を目的とする論文は、調べた限りでは少なく思われる。
・ウイルス量に、感染時、発症時からの時間経過でたいへん大きな差がある
・検体の採取場所が、肺、痰、鼻、唾の何れかにより、感度に差がある
・ウイルスの有無の最終判定はPCR検査以外に方法がないため、感度の確定、推定自体にPCR検査が用いられていると思われる事

特にひじょうに大きいと思うのは、感染からの時間経過により、ウイルス量にたいへん大きな差があるので、時間的にどの区間でのウイルス検出可能性をもってPCR検査の「感度」とするのか、一義的に決めるのは難しいような気がするからです。たとえば、ツイッターなどでコロラド博士として知られている牧田寛は、著書「誰が日本のコロナ禍を悪化させたのか?」で、「ウイルスへの暴露直後の平均72時間は、ウイルスの量が少ない=感染した細胞が少ないために検査不感期間となり、あらゆる検査で検出できない」と書いています。

さて、その上で色々な論文を見てみましょう。
Sensitivity of Chest CT for COVID-19: Comparison to RT-PCR
2020.2.19
https://pubs.rsna.org/doi/full/10.1148/radiol.2020200432
“Of the 51 patients, 36 had initial positive RT-PCR findings for COVID-19. COVID-19 was confirmed in 12 of the 51 patients with two RT-PCR nucleic acid tests (1–2 days), in two patients with three tests (2–5 days), and in one patient with four tests (7 days) after initial onset.
 
2020年の2月19日です。コロナ禍のひじょうに初期の頃の論文です。
 
私の読み方で恐らく間違いないと思いますが、要旨は以下だと思います。51人の患者にPCR検査をして36人は、一回目の検査から陽性、12人は発症後1~2日中で行われた二回目の検査で陽性、2人は発症後2~5日中に行われた三回目の検査で陽性、1人は発症から7日めの四回目の検査で陽性。そして、以上の記述から私が解釈するに、一回目の検査で陽性になったのは36人、約70.6%です。他の患者は陰性になったわけですが、それらの患者はその後陽性確認されていて、実際には感染していたと思われるので、一回目のPCR検査で感染を見つけられたのは約70%ということになります。
 
この論文は、武漢で新型肺炎の感染が拡がった後の、比較的初期の論文であるため、多くの人の、PCR検査の感度が約70%だと推測する根拠になったようです。この論文は、【資料】PCR検査抑制論の年譜と語録 伊賀 治 2021年8月7日 (https://note.com/osamu_iga/n/nd17e78fe4a1b) の中では、「当初の感度70%の根拠とされた論文」、一方、Web医事新報No.5074 村上正巳 日本臨床検査医学会理事長 2021年7月24日発行)(https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=17667) の中では、「PCR検査の感度が70%であるという根拠の1つが2020年2月に発表された中国の温州医科大学のFangらの報告です」などと、それぞれ説明されています。
 
Estimating false-negative detection rate of SARS-CoV-2 by RT-PCR
2020.04.05
Paul Wikramaratna, Robert S Paton, Mahan Ghafari, José Lourenço
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.05.20053355v2

こちらは、2020年4月5日の論文です。偽陰性率の推定、と論文の目的が感度の評価になっています。

Results のところを見ると、以下の記述があります。
“The probability of a positive test decreases with the number of days past symptom onset; for a nasal swab, the percentage chance of a positive test declines from 94.39% [86.88, 97.73] on day 0 to 67.15% [53.05, 78.85] by day 10.”

陽性の可能性は、症状の開始からの日数と共に減少し、鼻スワブでは、陽性率はday0の94.39% [86.88, 97.73]から、day 10の67.15% [53.05, 78.85]

スワブというのは、私の調べた限りでは、綿棒でぬぐい取ることです。94.39% [86.88, 97.73]、というときの括弧の中の数値は、恐らく信頼区間と言われるものです、詳しい定義はちょっと違うかもしれませんが、素人の理解としては、統計学的に見た場合の誤差の範囲、と理解してだいたいよいだろうと思っています。

これを見ると、発症日で94.39%、10日後で67.15%と、高い値になっています。

私が考えるに、発症から5-6日以降くらいからのPCR検査の感度は、退院の基準を知る目的では推定することが必要ですが、国内市中の防疫上の検査目的では、あまり意味がないように思います。そもそも発症してから5-6日も検査ができていない、防疫が既に失敗している状況で行われる検査の感度の推定ということになりますので。

この論文は、既に2020年4月5日に発表されていて、分科会が発足した同年7月や、岩田教授の上述の本が出版された12月より随分前のもので、しかも明確にPCR検査の偽陰性確率の推定をテーマとする論文です。厚生労働省や分科会、岩田医師が、感度70%をあまり疑う必要のない前提のような書き方、説明の仕方をした妥当性が問われると思います。

次に、PCR検査の感度は、適切な運用があれば、95%程度である、と強調している牧田寛が著書「誰が日本のコロナ禍を悪化させたのか?」扶桑社 2021年8月24日の中(222ページ)で、参考として挙げている二つの論文があります。

Detection of SARS-CoV-2 in Different Types of Clinical Specimens
Wenling Wang, PhD1; Yanli Xu, MD2; Ruqin Gao, MD3; et al
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2762997
2020.03.11

Results のところに以下の記述があります。
“Bronchoalveolar lavage fluid specimens showed the highest positive rates (14 of 15; 93%), followed by sputum (72 of 104; 72%), nasal swabs (5 of 8; 63%),…”

この部分は、気管支肺胞の洗浄液サンプルが、最も高い陽性率(15人中14人; 93%)、次が痰(104人中72 人; 72%)、鼻スワブ(8人中5人; 63%) 、と解していいだろうと思います。

Interpreting Diagnostic Tests for SARS-CoV-2
Nandini Sethuraman, MD1; Sundararaj Stanleyraj Jeremiah, MD2; Akihide Ryo, MD, PhD2
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2765837

こちらの論文には、以下の記述があります。
“In a study of 205 patients with confirmed COVID-19 infection, RT-PCR positivity was highest in bronchoalveolar lavage specimens (93%), followed by sputum (72%), nasal swab (63%), …”
これは、陽性率が、各検体採取方法について同じなので、直前にあげたDetection of SARS-CoV-2 in Different Types of Clinical Specimensの論文の研究について記載しているものと思います。

次に、『僕が「PCR」原理主義に反対する理由』という本を出して、同書の中で、事前確率の低い状況(感染者の比率が集団の中で少ない)状況で検査をすると、検査結果に間違いが多く無意味、むしろ医療資源を圧迫するため有害ですらある、と力説している(少なくとも私にはそう思えます)岩田健太郎神戸大学教授が、PCR検査の感度について参考として挙げている次の論文があります。この論文について、岩田教授は、『執筆者たちは「PCRの感度は七〇パーセント」と見積もっています』(92ページ)と書いています。

False Negative Tests for SARS-CoV-2 Infection — Challenges and Implications
Steven Woloshin, M.D., Neeraj Patel, B.A., and Aaron S. Kesselheim, M.D., J.D., M.P.H.
2020.08.06
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMp2015897

この論文は、以下の下りを見ると、基本的に検査の重要性を強調しているものと見られます。
False negative results are more consequential, because infected persons — who might be asymptomatic — may not be isolated and can infect others.
上記引用部分の意味は、以下のように取っていいと思います:偽陰性の問題は(本書筆者:偽陽性に比べ)より重大で、なぜなら感染した人(無症状かもしれない)が隔離されず他者に感染させる可能性があるから。

岩田教授が、七〇パーセントと見積もっているというのは、恐らく同論文の以下の下りと思います
In a preprint systematic review of five studies (not including the Yang and Zhao studies), involving 957 patients (“under suspicion of Covid-19” or with “confirmed cases”), false negatives ranged from 2 to 29%.4

この部分は、恐らく次のように理解できると思います:(新型コロナの疑いあるいは確定診断のある)957人の患者についての5件の研究のプレプリントのシステマチックな検討をすると(Yang とZhaoの研究は含まない)、偽陰性は2~29%に渡った。

ここの部分単体で見ると、5件の研究を検討すると、偽陰性率が最低の研究では2%, 最高では29%になっている、という意味と思われます。

その後、次の下りがあります。

the studies cited above suggest that 70% is probably a reasonable estimate

日本語にすると、上記で挙げた(複数の)研究は、70% is probably a reasonable推測だ、と示唆している、となります。岩田教授は、これをもって「七〇パーセントと見積もっている」と書いていると思います。私は、それはちょっとどうかな、と感じています。まず、先に引用したように、Woloshinらのこの論文以外の5件の研究で、偽陰性率が最低の研究では2%, 最高では29%だと、最初に書いてあったわけです。すると、感度は98%近辺である可能性から、71%近辺である可能性まであるわけです。

私が読むに、この論文は、Yang とZhaoの論文は、感度を過大評価している可能性がある、と記述し、また、5件の研究に関しては、”the certainty of the evidence was considered very low because” と理由を列挙して、確実性のエビデンスはひじょうに低い、と言っています。一方、この論文の主旨は、私が読む限り、しっかり感染者を見つけるために、PCR検査には偽陰性の問題があることについて警鐘を鳴らし、高い感度および、検査で感染者を確実に見つけられる方法を確立することの重要性を訴えるところ、にあるように思えます。Reasonableというのは、その目的から、問題が起きる可能性を評価するため、後に続く計算をする前提として、感度を低めに見ても70%なら5件の研究で最も低い感度の範囲内なので、あまり極端とはいえないだろう、という意味のような気がします。そうでないと、偽陽性率15%近辺に当たる感度85%を使うのが妥当でないか、という批判が起きそうに思うからです。

なお、この論文は、牧田寛が著書「誰が日本のコロナ禍を悪化させたのか?」で、「日本を除く世界では使われているのをほとんど見たことがありません」(218ページ)と書いているベイズ推定を使っています。

To calculate how likely, one can use Bayes’ theorem, which incorporates information about both the person and the accuracy of the test (recently reviewed5).(引用)

Estimate false-negative RT-PCR rates for SARS-CoV-2. A systematic review and meta-analysis
Valentina Pecoraro,Antonella Negro,Tommaso Pirotti,Tommaso Trenti
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/eci.13706
2021年11月5日
こちらは比較的最近の論文です。
Abstract を見る限り、Pubmed, Embase and CENTRALなどをシステマティックに検索して見つかった、コロナに感染した計1万8千人以上を登録した32の文献から、 RT-PCRの偽陰性率を検証した論文、と理解できます。なお、本文でThe majority of studies were conducted in China (n = 19; 59%).、と書かれています。”All information in this article is current up to February 2021” とありますので、検索した文献は2021年2月までのものなのではないか、と思います。

Results のところには、以下のように記載されています。
The overall false-negative rate was 0.12 (95%CI from 0.10 to 0.14) with very low certainty of evidence. 

これは、全体の偽陰性率は12% (95%信頼区間は10%から14%)だが、エビデンスの確実性はとても低い、と理解できるのではないか、と思います。特に私は統計学を全く知りませんので、(95%CI from 0.10 to 0.14)のところは、たぶんこのような意味のはずじゃないか、という推測だけです。

論文は、エビデンスの確実性はとても低い、としていますが、まあ偽陰性率が仮に12%なら、感度は88%になると思うので、70%という分科会や厚労省、岩田医師などの当初の推定よりだいぶん高い可能性が高いのではないか、というくらいは、いえるのではないかと思います。
 
Results のところには、続けて以下の下りがあります。(以下引用)
This systematic review showed that up to 58% of COVID-19 patients may have initial false-negative RT-PCR results
(引用終わり)

最初に、偽陽性率は12% (95%信頼区間は10%から14%)、と記述されているのと、この、最大58%が最初に偽陽性になるかもしれない、という記述の整合性は何だろうと分かりませんでした。しばらく考えて、” False-negative rates ranged from 2% to 58%” (但し2%には右肩に上付き文字で37, 58%には上付き文字で40と、注への誘導があります)とあったことを思い出しました。これは、調査対象とした32の文献のうち、偽陰性率を最大に書いているものが58%だ、という意味と思われます。したがって、この下りは、最大58%偽陰性である可能性があるからということを示した上で、この論文の主旨である、ハイリスクの検査対象を特定して、偽陰性が発生することを防ぎ、社会への疾病の負荷を防ぐべきだ、というところに繋げていると解していいと思います。一般的に偽陰性率が58%だと判断しているわけではないと考えられます。

これまでいくつか論文を読んでいて感じるのですが、以上の英語論文は、感染者をどうやって正しく見つけるか、という観点のもとに書かれていて、検査を使う事は自明のこととして、一回の結果を過大評価せず、どうやってうまく使って言ったらいいか、というような意図を感じます。これに対して、分科会、厚労省、岩田医師などは、検査は多用しないほうがいい、という観点から見ているため、同じ論文を見ても、執筆者の意図と違うことを読みやすい、という感じがしています。

なお、上記論文には、以下のような下りもあります。(以下引用)
The analysis by country showed a higher false-negative rate in studies conducted in China (24%) compared to other countries (4%)
(引用終わり)
 
中国での研究では、偽陽性率が24%で、他の国では4%だと理解できます。そうすると、素人目には中国以外の国でのPCR検査の感度は、88%よりもっと高いのではないか、という気もするのですが、実際はどうなのでしょうか。

Mass Screening of Asymptomatic Persons for Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Using Saliva
Isao Yokota, Peter Y Shane, Kazufumi Okada, Yoko Unoki, Yichi Yang, Tasuku Inao, Kentaro Sakamaki, Sumio Iwasaki, Kasumi Hayasaka, Junichi Sugita, Mutsumi Nishida, Shinichi Fujisawa, Takanori Teshima
2020年9月25日
https://academic.oup.com/cid/article/73/3/e559/5911780

上記の論文は、村上正巳日本臨床検査医学会理事長が、Web医事新報No.5074 (2021年07月24日発行) https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=17667 で紹介している論文です。その記事から村上理事長による紹介を引用します。
「北海道大学の豊嶋教授らは,保健所(濃厚接触者)と国内の空港での検疫における無症状者1924人に対して,鼻咽頭ぬぐい液と唾液を用いたRT-PCR検査で調査をしました。Bayesian latent class modelという統計手法を用いて解析したところ,鼻咽頭ぬぐい液と唾液を用いた検査の感度はいずれも約90%,疾患がないときに検査が陰性となる特異度はともに99.9%以上であったとの分析結果を2020年9月に発表しています4)」

普通「豊嶋」はトヨシマと読むので、論文の著者名にToyoshimaと見当たらなくて、変だと思いましたが、上記村上理事長が言及しているのは、豊嶋崇徳(てしまたかのり)北海道大学大学院医学研究院教授で、まず間違いないと思います。執筆者名の最後にTakanori Teshima、とリストされています。

Mass Screening of Asymptomatic Persons for Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Using Saliva
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32976596/

この論文のResultsには、以下のように書かれています。(以下引用)

In this mass screening study including 1924 individuals, the sensitivities of nucleic acid amplification testing with NPS and saliva specimens were 86% (90% credible interval, 77%–93%) and 92% (83%–97%), respectively, with specificities >99.9%.
(引用終わり)

NPSと唾液のサンプルでの核酸増幅検査の感度は、それぞれ86% (90%信頼区間, 77%–93%)、92% (83%–97%)で、特異度は99.9%を越えている、と読めると思います。
核酸増幅検査は、おそらくPCR検査のことです。中国ではPCR検査のことは、核酸検測と呼ばれています。NPSは、nasopharyngeal swabの略で、鼻咽頭スワブ、つまり鼻咽頭を綿棒でぬぐって検体を採ることです。

他にも、私の見つけたPCR検査の感度についての推測のある論文はありますが、だいたいの感じは皆さん得られたと思うので、ここまでの、特異度、感度についての分析も含め、全体の発表までに要する時間を節約する意味で、論文の紹介はここまでにします。

牧田寛は、著書「誰が日本のコロナ禍を悪化させたのか?」で、「PCR法そのものは、感度100%, 特異度100%である。COVID-19診断においてのPCR検査では、特異度は100%であるが」「感度は」「適切に運用すれば『95%前後である』」(223ページ)などとしています。

次項でご説明するPCR検査の原理から考えて、原理的に、感度100%, 特異度100%である、という牧田寛の説明は、私もそうだろうと思います。一方、運用上の感度が95%である、というのが正しいのか、また言い方として正しいのかどうかは、私はよく分かりません。

一方、牧田寛が前掲書で言うように「ウイルスへの暴露直後の平均72時間は、ウイルスの量が少ない=感染した細胞が少ないために検査不感期間となり、あらゆる検査で検出できないことがわかっています」ということがあります。しかし、続けて牧田が言うように「週二回の頻回検査で不感期間は補えるために、日本以外の国では実際にそれが行われています」(共に197ページ)、ということがあります。

これは、当然のことで、感染した直後はウイルス量が少なく、その後ウイルスがだんだん増えてきて発病に至るのですから、感染後しばらくはPCR検査で感染者の体内のウイルスを検出できないのは当たり前のことで、自然の制約だと思います。そのことを理由として、PCR検査の感度を問題にしたり、検査をするだけのメリットがない、というのはおかしいので、牧田も言うように、週二回以上検査すれば、ほぼこの不感期間の問題はゼロに近づくだろうと思われます。

上で挙げた各種論文の感度推定でも、この感染初期の3日程度の期間中の検査での陰性の検査結果が、偽陰性にカウントされている研究が、かなりあるのではないか、という気がします。感染日から三日目以降の感染者に行われた検査のみを対象とすれば、それらの検査の感度は、上で挙げた各種論文が推定する感度より、高い可能性があると思います。

牧田が、前掲書上記197ページの括弧による二つの引用の間で書いているように「この場合(本書筆者注意:感染初期平均72時間の検査結果陰性)を「偽陰性」(False Negative)と呼び、「検査は無意味」と主張する論調は本邦独自のもの」だと言えると思います。これは、PCR検査の感度の問題ではなく、検査システム設計の問題です。

再度引用しますが、以下は、2021年12月23日の分科会尾身会長の発言です。
「みなさん、何度もこれ、いままでご承知だと思いますけど、PCR、まあ抗原定量検査もそうですけど、まあ、これはいわゆる感度という、我々の専門家では言ってますけど、100人いたら、70人はまあ、ディテクトというか、30人は、これ限界なんですね。100%引っ掛けるという事は、まあ、時期の、感染の、検査の時期もあるし、採取の仕方もあるし、色々なことで、元々100%はディテクトはディテクトできない、という、まぁ、そういういくつかのことを総合すると、まあこれはスポットでの感染が始まっているのではないかと考えて準備をしたほうがいいんじゃないかというのが我々の判断です」

これは、不明瞭な言い方なので、意味を確定はできませんが、PCR検査も含めてコロナウイルスについての検査は感度が最大で70%程度で全部捕捉できないことを考えると、感染が市中で始まっていると考えて準備したほうがいいと分科会では判断している、という意味と考えてだいたい間違いないと思います。

この尾身会長の発言は、オミクロン株の感染が市中で広がっているかどうかが問題になっていた時期の発言で、同変異株が市中にもう広がっているだろう、という見解を伝えるための発言です。警鐘を鳴らす意味で、「市中に広がっている可能性がある」ということを伝える意味ではよい発言です。しかし、それをPCR検査の感度のせいにしている点は、問題があると思います。感度70%の想定が低すぎるのではないか、という点についてはここでは問題にしないとしても、検査のシステム設計のことを言わず、感度のせいで国内にオミクロン株を入れない事は不可能だ、というラインで話しているのは問題だと思います。

牧田寛は前掲書で以下の様にも言っています。
「感度が関わる「検査陰性」については前述の通り検体採取の時期と場所と特に手技(技量)に依存して偽陰性が発生する可能性があり、医師はそのことを念頭に入れて慎重に診察し、疑問があれば、再検査と経過観察に努めることとなっています。これは世の中に存在する医療検査技術に共通する極めて当たり前のことです」(202ページ)

まったくその通りだと思います。健康診断で悪い結果が出た時は、精密検査していると思います。

牧田寛は、前掲書で「適切な臨床対応をおこない、発症後は迅速に検体を採取すれば検体採取成功率(臨床感度)は、95%前後であることがわかっています」「これだけ高い検体採取成功率ならば、臨床では医師の判断で複数検体採取ないし再検査による誤診はほぼ生じません」(233ページ)と書いています。

採取成功率(臨床感度)が95%前後であるかどうかは、私はいまのところ時間節約のため未確認です。その上でですが、全般的な印象としては、PCR検査について、有症者について、検体採取時期を発症後速やかにし、濃厚接触など事前確率と検査以外の臨床所見を重視し、必要に応じて再検査する、空港検疫など、無症状者については、週二回など頻回検査にする、など検査システムを科学的に調整、設計すれば、実質的な感度の問題はほとんどなくなるような気がしています。


追って多分投稿する予定の、別文、PCR検査の原理、に続きます

これを含め、一連の文は無料で公開する予定ですが、書くのにも相当の時間がかかって、お金の消費はとても大きいです。無料公開の一方で、まとめてAmazonで本にしたいと思っているので、もし読む価値があった、と思われた場合は、(無料公開はたぶん継続するものの)、Amazonや他のプラットフォームで本を買って頂けるとたいへんありがたいです。

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PCR検査の特異度について、尾身会長発言、分科会資料等を詳細に分析してみた - 長文 検査拡大のために

PCR検査の特異度の検証

中国のコロナ対策 part1 — China vs Covid19 Information Source
項目別に、part4まであります。

検査抑制論と、抑制を主張した主な専門家、及び論者:コロナ新型肺炎とPCR検査

検査抑制論と、抑制を主張した主な専門家、及び論者 part2:コロナ新型肺炎とPCR検査


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