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PCR検査の特異度について、尾身会長発言、分科会資料等を詳細に分析してみた - 長文 検査拡大のために

PCR検査の拡大、または抑制について一番大事な前提は、
精度、つまりPCR検査にどれくらい、間違いや限界があるか、という点です。
ですから、まずPCR検査の精度について、検討する必要があります。

PCR検査をたくさんしたほうがいいのか、それとも慎重に少なくしたほうがいいのか、を考える上で、きわめて大雑把にいえば、大事なのは
精度、つまりPCR検査にどれくらい、間違いや限界があるか、という点です。

検査は慎重に抑制的にすべし、という人たち(抑制派)と、検査は積極的に拡大すべし、という人たち(拡大派)の双方で、この精度の問題について、随分たくさんの議論がなされています。

PCR検査に間違いが少なければ、PCR検査の実施によるメリットは最大化されます。一方、逆にPCR検査に間違いや限界が多ければ、PCR検査の実施による副作用の問題が大きくなってきます。

PCR検査の結果には、当たり前のことですが、「陽性」(体内にウイルスが検出された)と、「陰性」(体内にウイルスが検出されなかった)があります。PCR検査の精度については、この陽性と陰性をめぐって、二つの面から考えられています。

一つは「特異度」(英語でspecificity)といわれる指標です。もう一つは「感度」(英語でsensitivity)といわれる指標です。

ここでは、先に「特異度」と呼ばれる指標について考えます

特異度の定義

これは、ウイルスの検査について言えば、検査でその有無を判断しようとしているウイルスがいなかった場合に、テスト結果が正しく「陰性」になる確率です

「特異度」は、頭に入りにくい言葉だと思います。私などはそうでした。この特異度は、ある物を特異的に見つける、つまり「見間違わないで見つける能力」、と考えていいと思います。そして、それを評価するのには、運動会で観戦している競技に、自分の子供がいない時に、正しく「いない」と判断できる確率を使って評価している、というような感じに理解してよいと思います。我が子を「特異的に」見つけるのに失敗して、ほかの子供を間違ってビデオ撮影したりしてしまったら、それが「偽陽性」のイメージだ、という感じであると思います。

上記の定義は、私が素人なりにかみ砕いて理解して記述したものです。正確性を期すために、いくつか専門の方が書いた定義を載せておきます。

「検査の性能を表す指標の一つ。検査で検出したい信号や疾患を有さないもののうち、検査が正しく陰性と判断したものの割合。真陰性率のこと」

統計用語集 https://bellcurve.jp/statistics/glossary/1404.html

「特異度とは,疾患のない患者において検査結果が陰性となる可能性である(真陰性率)」「特異度は偽陽性率の補数である」

MSDマニュアル https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/24-%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE%E3%83%88%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF/%E8%87%A8%E5%BA%8A%E7%9A%84%E6%84%8F%E6%80%9D%E6%B1%BA%E5%AE%9A/%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E7%9A%84%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E7%B5%90%E6%9E%9C%E3%81%AE%E7%90%86%E8%A7%A3

なお、皆さんよくご存じのように、コロナウイルスの新型肺炎には、咳や熱など、新型肺炎の症状のでない、つまり、無症状の感染者がいます。完全に無症状の人の場合は、疾患がなくて単に体内にウイルスが存在するだけです。ですから、疾患、つまり病気ではありません。しかし、ウイルスがいれば他人に感染させる可能性があります。だから、これはPCR検査の「陽性」による検出対象になっていると思います。ですから、コロナのPCR検査については、特異度は、「疾患」のあるなしではなくて、「ウイルスがなかった」場合にテスト結果が正しく「陰性」になる確率、と考えていいと思います。

目的となるウイルスがない時には、「陰性」になるのが正しい結果です。テスト結果が正しく「陰性」になる確率、つまり特異度がA%なら、検査結果は、「陰性」でなければ「陽性」の結果しかないことを考えると、誤って「陽性」になる確率、つまり「偽陽性率」は、(100-A)%、になるはずです。例えば特異度、つまりウイルスがない場合に、テスト結果が正しく「陰性」になる確率が99.999%なら、誤って「陽性」になる確率、つまり「偽陽性率」は、0.001%になるはずだと思います。私は専門家ではなく、素人考えですが、数学的に自明のことに思われるため、概ねそれで間違いないのではと思います。

さて、ここから本題にはいります。

「特異度」は、検査抑制論、或いは検査に抑制的な政策において、大きな役割を果たしている指標です。特異度は、ウイルスがなかった場合にテスト結果が正しく「陰性」になる確率です。ですから、特異度が十分高くない、つまり低いと、コロナウイルスがいないのに間違って陽性になる確率、つまり「偽陽性率」が、それにしたがって高くなってしまいます。

検査抑制を言う人の論拠で代表的なものの一つに、偽陽性が多数発生する、というのがあります。(1) 必要のない入院など、不要な合理性のない負荷がかかって、医療崩壊する、(2) 実際には感染していないのに入院、あるいは隔離されてしまう人権問題、ひどい場合には入院・隔離先で感染してしまう問題、等が生ずる、という主張です。主張というより、日本ではこれまで「事実」のような形で言われ、多くの人がいまでもそうだ、と思っているのではないかと思います。偽陽性は、検査抑制論の論拠になっていたわけです。

検査抑制論の論拠では、特異度は主に99%か99.9%とされていました。ちなみに、私が記憶する限り、私が見た検査抑制論の中で、この99%や99.9%は、すべて実測値ではなく「仮定」として主張されていたように思います。わたしは素人で、記事等を無数に読んだわけでなく、目に触れてみた記事の記憶についてだけ話していますが。

この本のこの項は、特異度が実際に何%程度なのかを検証する内容なので、上記の(1), (2)の医療崩壊や人権問題の妥当性については、ここでは触れません。直接、検査の精度としての「特異度」の数値の話に絞って検証します。

特異度を99%か99.9%に過程して検査抑制を主張した文、あるいは論、あるいは発言は、数学的な意味ではなく修辞的な意味に限れば、これまで日本で、ほとんど「無数」にあったように思います。

まず、行政に対して助言する「分科会」の第一回で使用された資料を見ましょう。

政府への助言組織 分科会の資料

2020年7月6日の第一回分科会で使われた資料です。以下のリンクは、内閣官房のサイトに置かれたそのPDFです。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona1.pdf

新型コロナウイルス感染症対策分科会(第1回)日時:令和2年7月6日(月

13 時 00 分~14 時 30 分 場所:合同庁舎8号館1階講堂

と書かれています。議事次第、から始まり6ページめに「新型コロナウイルス感染症対策分科会の構成員」18人のリストがあり、尾身茂会長、脇田隆字会長代理、押谷仁東北大学大学院教授、館田一博東邦大学教授、などの名前が見えます。

PDFの71ページ目、資料4-1(たたき台案)8枚目を見ます。ここに以下のような記述があります。(太字は、本書筆者による)

(以下引用)+++++++

PCR検査・抗原検査・抗体検査は、いずれも万能ではなく、常に偽陰性、偽陽性という課題がある。例えば、1%の人が感染していると思われる1万人に検査(感度70%特異度99%と仮定する)を実施すると、99人は感染していないのに陽性(偽陽性)となり本来不必要な自宅待機、入院などの措置が取られてしまう可能性あり。また30人の人は感染していても陰性(偽陰性)となり、知らずに感染を広げてしまう可能性あり。(スライド11参照)

(引用終わり)+++++++

つまり、「たたき台」と書いてはあるものの、尾身会長らが開いていた分科会第1回の会議では、1%の人が感染していると思われる1万人に検査を実施すると、感度70%、特異度99%と仮定すると、99人は感染していないのに陽性、つまり偽陽性となって、自宅待機、入院などの措置がとられてしまう可能性がある、と書かれている資料が使われていた、わけです。

ところで、一口に1万人に検査して99人が偽陽性といいますが、よく考えれば、これはたいへんなことです。おそらく検査件数の桁を変えても、10万件、100万件の場合、それぞれ1万人への検査が10倍、100倍されるのと同じ事のはずですから、偽陽性確率は同じであると思います。ですから、100万人に検査すれば、その100倍の9900人、つまり約1万人が偽陽性になる可能性がある、ということになります。1000万人つまり、日本の人口の12分の1に検査を実施したら99000人、つまり約10万人が偽陽性になることになります。たしか、コロナの問題が起こった初期は、感染者は全員入院とされていた時期があったと思いますので、もし偽陽性率が1%、つまり特異度99%なら、その場合は10万人が、一時的にせよ感染しておらず、必要がないのに入院、隔離になる可能性があった、ということになります。たいへんなことです

このような資料が、経済が専門である委員などへも含め、全委員に対して示されていた、ということになるのではないか、と思います。ですから、1万人に対して、99人、となんでもない事のようにさらっと書いてありますが、検査数が100万、1000万となった場合に、実際にどういうことになるか、頭を働かせて考えることが必要です。もし本当にPCR検査で1万人当たり99人偽陽性が出るなら、100万人当たり9900人、つまり約1万人、感染していないのに「陽性」通知を受け取ることになります。こんなことがあったら、たいへんですが、こんなことはありうるのでしょうか?

この段落の下のPPTのスライドは、先程の分科会のスライド4-1の8枚目で、スライド11参照、と言及されていた、その11枚目です。以下の私のこのスライドの説明は少しだけ込み入っているので、あまり詳しく知らなくていい、と思う方は、読まずに飛ばして、次の段落を読んでいただいても結構です。さて、当該スライドでは1万人に対して、1%つまり100人が感染している仮定になっています。ですから、左側の「感染あり」、の縦の合計は100人になっています。感度70%の仮定ですから、そのうちPCR検査陽性が70人、陰性が30人になる、というのはよく分かると思います。その右の列、「感染なし」のほうは、やや分かりにくいです。先に、最下段の「行」の「合計」のところを見ると、感染あり100人、感染なし9900人になっています。これは1%が感染している仮定ですから、よく分かると思います。感染していない人は9900人ですが、正しく陰性になる人は、特異度99%なので、9900人に0.99を掛けて、9801人のはず。感染していないのに陰性になってない人は残りの99人、つまり感染してないのに陽性になった人は99人で、この人たちは「偽陽性」です。

私は素人ですので、解釈が間違っている可能性は、なくはないと思いますが、自分の考えでは、中学算数くらいの知識で計算できそうに思いますので、おそらく間違っていないのではないかと思います。

分科会尾身会長の説明

さて、分科会の尾身会長が2020年7月6日の第一回分科会後、西村経済再生担当大臣と共に開いた会見で、特異度について自ら以下のように話しています。

特異度っていうのは、99%, 実際にはもっと低いかもしれないけど、わざと少しよりよい方に99ていう事で、この仮定で計算して

 2020/07/06 にFNNプライムオンラインにより、YouTubeでライブ配信されたビデオが残っていて、以下のリンクで尾身会長が話している映像が見られます。映像と音声ではっきり確認できるわけですから、上記のように言っていたのは間違いありません。
https://www.youtube.com/watch?v=zTd8AlPa_Bg

百聞は一見にしかず、です。実際に本人が話しているのを見るのと見ないのとでは、印象が全く違いますので、5分程度のお時間のある方は、ぜひ、YouTubeで実際に尾身会長が話しているのを見て見られることをお勧めします。

この尾身会長が話している映像を見て分かるのは、一般的な、ほとんどの人が採るであろう解釈をすると、尾身会長は、2020年7月6日時点で、PCR検査の特異度に関わる精度は、99%よりもっと低い可能性が高いだろう、と考えていたことが分かります。仮定に際して「よい方に99」と言っているわけですから、尾身会長は、PCR検査の特異度は、実際にはもっと精度が低く、98.5%とか99%以下なんじゃないか、という感じで考えていたのではないかと思われます。

例えば仮に特異度98%だとします。98%しか正しく陰性にならないのであれば、感染していないのに、誤った陽性の検査結果が2%に発生します。2%ということは、1000万人に検査すれば、20万人が、感染していないのに「陽性」の通知を受け取ることになります。

色んな可能性がありますので、100%絶対間違いない、とは言えませんが、常識的な、社会の中での実用的な意味では、尾身会長はPCR検査の特異度は、精度として99%近辺かそれより低いくらい、と考えていた、といえるだろうと思います

ここで注意しなければいけないのは、一般の人にとっては99%という数字は、普通の生活の中ではほぼ100%に近いくらい、高い精度、と理解になるだろう、という点です。ですから、特異度に関しては、一般の人は、尾身会長の説明を聞いて、これほど偽陽性の出る割合について、高い精度のある検査でさえ、1万人に対し、99人も偽陽性が出るのなら、間違って隔離されたり入院させられたりする人がすごく大勢でるはずだから、PCR検査はとても副作用の強い検査だ、検査を広くしようなどというのは、素人の考えだな、という考え方に、簡単にたどりついたと思います。一般の人だって、1万人に対して99人も偽陽性が出るなら、100万人とか、頻繁に、あるいは多くの人に検査をすれば、おびただしい数の人が偽陽性になり、医療が圧迫されたり、隔離入院等で大きな不利益を被る、という推測はするからです。尾身さんの会見を見た人は、大多数が、PCR検査と偽陽性、必要のない隔離、医療に対する圧迫を一体のものとして、結びつけて考えるようになったと思います尾身さんのような、日本の中で最高とみなされている感染症の専門家がそのように話している、と理解するわけですから

マスコミが、PCR検査を増やすべきかどうかについて、どのように報道してきたかは、他の項で、また別に纏めて分析します。ここでは、朝日新聞が、この第一回分科会翌日の2020年7月7日に、山本知弘記者による記事で「感染していないのに陽性と出る確率が1%ほどある」と書いていたことを確認しておきたいと思います。医療サイトの朝日新聞アピタルでの「PCR検査どこまで、合意形成促す 新型コロナ分科会」という見出しの記事の中でです。https://digital.asahi.com/articles/ASN7735WXN76ULFA01M.html

尾身会長自身の話は、「特異度99%」というのは、仮定として話していることは分かりにくいとはいえ、一応は「仮定」として話しているものでした。それが、この朝日の記事では既に事実のように記述されています。尾身会長自身は、私が上で書きましたように、特異度について99%より精度が悪い、と考えていたと可能性が高いと思われるとしても、一応「仮定」の前提で話していたわけです。しかし、尾身会長の話を聞けば、ほとんどの人は、尾身会長は、特異度は99%近辺か、それより精度として悪い特異度、と理解している、と考えただろうし、実際にもそうであった可能性が高い、ということが一つの問題です。そして、少なくとも「仮定」の話として話されていたことを、朝日の記事が、事実のように書いてしまった、という二重の問題があると思います。ネットで多く参照されたと思われるBuzzFeedの2020年7月6日、第一回分科会当日の千葉雄登記者の記事でも、「仮に1%の人が感染していると思われる1万人に対して検査を行った場合、99人が偽陽性と判定される。この99人は実際には陽性ではないにも関わらず、隔離措置をとられることになる」、と書かれています。

特異度99%、という数値が正しいかどうかの検証は、まだ、本書でしていませんが、この朝日新聞とBuzzFeedの記事を見ると、特異度について、世の中にどのような伝わり方をしたか、尾身会長の話の影響がどれほどだったか、分かると思います。尾身会長は、政治家ではなく、専門家のトップであり、しかも見た感じが穏やかそうで、責任感も強そう、話し方もひじょうに気さくで分かり易く話すため、人として最も信頼されやすそうなタイプです。その上に、朝日新聞、そしてネット上で影響力の強いBuzzFeedが裏書した時点で、PCR検査の特異度は99%か、それに近い値で、偽陽性が100件に1件とか、実際的にはひじょうに問題が多いレベルで発生する、というのは、日本社会の共通認識となった、あるいはそうなっていた、のではないか、と思わせます。

次に、2020年7月16日に行われた、第二回分科会の資料6-1のスライド9も見てみます。こちらでは、すぐ上で見た第一回分科会資料のスライドと同じような表が使われていますが、この第二回分科会で使われたスライドでは、特異度について、第一回の時の資料で使われた99%ではなく、99.9%が使われています

今回はスライド実物のスクリーンショットを先に掲げましょう。

2020年7月16日 第二回分科会の資料6-1のスライド9

前後二回の分科会で使われた資料を比べながら分析するため、第一回分科会の資料を振り返ると、第一回分科会の資料4-1(たたき台案)11枚目には、下のように書いてありました。

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実際には、100人しか感染していないのに、ほぼ同数の99人が感染していないにも関わらず陽性(偽陽性)がでてしまう。また、30人は感染しているにも関わらず陰性(偽陰性)と判定がでてしまう。

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この一回目の分科会資料4-1(たたき台案)11枚目スライドの内容で、核心的なのは、「ほぼ同数の99人が感染していないにも関わらず陽性(偽陽性)がでてしまう」、というところです。実際の感染者100人に対して、99人が偽陽性になる、という説明です。この説明を聞いた人に起きた印象は、以下の通りでしょう。まず、検査はあてにならない。そして、この仮定は1万人のうち100人が感染している時に、1万人全員に検査した場合、ということになっていたので、100人に1人が、誤って、本人に精神的ダメージの大きい偽陽性にされてしまい、かつ強制隔離入院で人権問題が発生し、医療に無駄な負荷がかかる。説明をよく聞いた、あるいは資料をよく読んだ人の印象はそうだったと思います。

次に、今度は、第二回分科会の資料6-1のスライド9を見ましょう。次のように書かれています。

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・実際に感染している人よりも多くの人が偽陰性と判断され、検査陽性者のうち本当に感染している割合(陽性的中率)は、約41%(70/170)となる。

・陽性的中率は、検査前確率が低くなるほど低くなる。

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第一回分科会の時の類似の例、資料4-1(たたき台案)11枚目、と違うのは、特異度が99%から99.9%に変えられて、一桁高い精度になり、また検査人数が一回目の時の資料の1万人から10万人に変更されたことです。ただし、感染者の数については両方の例で100人と同じに設定されています。二回目の例では、感染者は人口10万人に対して0.1%の100人, 一回目の例では1万人に対して1%の100人、という設定になっています。

受け手の印象としては、一回目の例では、偽陽性判定を受ける人は1万人にほぼ100人と、とても多い。しかも実際の感染者と、偽陽性判定を受ける人が、ほぼ同数であるので、精度(専門的意味でなく一般人の語彙上の意味)が低い、だと思います。

では、二回目の例についてはどうでしょうか。この例では特異度は99.9%に設定されていますので、一般人の印象としては「ほぼ極限まで正確になっている検査」だと思います。特異度の定義は、正しく陰性にする確率、なのですから、特異度が「仮に」99.9%なら、定義上、当然、検査を受けた10万人に0.1%に偽陽性の結果が出て、100人は、偽陽性になります。

10万人に対して100人の偽陽性の発生、なので、第一回分科会の資料の時の1万人に対して約100人の偽陽性の発生より、受け手の印象はPCR検査の信頼性がある程度上がります。十分とは言えないが、だいぶん心理的許容範囲に近づく感じです。

一方、感度は70%仮定なので、100人の感染者のうち、70人が「陽性」判定で発見されます。偽陽性が100人いたので、両方を足すと、全陽性者数は100+70で、170人です。一方、感染していて正しく陽性で発見されたのは70人でしたから、検査結果として「陽性」になった170人の内、実際の感染者は70人で、70/170で、PCR検査で陽性を正しく見つけられる確率は、約41%だと言っているわけです。これが、二回目の分科会で使われている資料6-1のスライド9です。

私は、素人ですので、誤解がある可能性はありますが、数学的には自明のことに思われるので、10万人の中に100人の感染者がいる状態で、「感度70%, 特異度99.9%の検査」をすれば、そのような結果が出ると思います。あくまで、その仮定の下ですが、第二回分科会の資料6-1のスライド9は、正しいと思います。

但し、コロナに対するPCR検査でそのような、結果で出るとは、これだけでは、まだ全然言えていません。なぜでしょうか?以上までで言えているのは、感度70%, 特異度99.9%の検査があったら、陽性を正しく見つけられる確率は、理論的、あるいは数学的に約41%になる、ということであって、PCR検査でそうなる、ということではありません。その条件に当てはまる任意の検査があれば、そうした検査結果が生じる、ということであって、PCR検査が、その条件に当てはまるかどうかは、全く別の問題だからです。

本当に「陽性を正しく見つけられる確率」が約41%であるためには、PCR検査が、実際に感度70%, 特異度99.9%でなければいけない、PCR検査が感度70%, 特異度99.9%であると証明されている必要があるわけです。

この辺りが多くの人が間違いやすい、論理的な落とし穴になっている、と思います。

尾身さんの話を聞いて、感度70%, 特異度99.9%の検査があれば、この結果のはず、という点だけに注意を奪われ、その数学的に自明に真になる、やや込み入った論理関係の正しさだけを見て、PCR検査で、10万人の人口で0.1%の感染者があれば、41%しか正しく陽性者を見分けない、と思ったメディアの記者がかなり多かったのではないか、と思います。そうした記者たちはほとんど気が付いていないと思いますが、尾身会長の話で数学的に真になる、と思われるのは、感度70%, 特異度99.9%である任意の検査があれば、そういう結果が生じる、という理論的可能性だけです。PCR検査がそのような検査であるかどうかの判断材料は、この記者会見の内容だけでは、ほとんど「尾身会長のPCR検査に対する見方をそのまま信じるかどうか」、という事にだけにかかっています。尾身会長の感染症関係者の中での地位と、会長の見た目の性格的印象から、尾身会長のPCR検査に対する見方をぼやっと無防備、無検証に取り込んでしまい、そのことに気が付いておらず、感度70%, 特異度99.9%である任意の検査があれば、そういう結果が生じる、ということの納得だけで、PCR検査のもたらす結果は、この感度70%, 特異度99.9%の任意の検査そのものだ、と思った記者がかなりいたのではないか、と思います。私の個人的な感想は、感度70%, 特異度99.9%の検査を0.1%の感染者のいる10万人にすれば、何ら予防措置を取らないと41%しか一回目の検査で正しく陽性者を見分けない、という直観に反する論理関係を理解した自分に満足してしまって、理解力の不十分な、よく分かっていない多くの人々に教えてあげなければいけない、というような使命感とやや大衆蔑視みたいなものが入り混じったような気持ちから、PCR検査の「問題」を広めなければ、と思った記者がかなりいたのではないか、という気がしています。

いや、NHKや朝日新聞など、大手メディアの記者だけでなく、一般にコロナに関して、多くの公衆から専門家と認識される、医者、感染症医、感染症の研究者、また、それ以外の識者、SNS上のインフルエンサーなどで、そのような受け取り方をした人がひじょうに多かったのではないでしょうか

ここで、私がお話ししたのは、PCR検査が分科会第一回の資料のように感度70%、特異度99%であることが(あるいは第二回の資料のように感度70%、特異度99.9%であることが)証明されるか、少なくとも概ねそうである、といえない限り、実際の感染者数が偽陽性者数とほぼ同数になったり(一回目資料の仮定の場合)、あるいは正しく陽性者を見つけられる確率が41%になったり(二回目資料の仮定の場合)、ということは起こらない、あるいは言えない、ということでした。

つまり、PCR検査が感度70%,特異度99%, あるいは99.9%であるのか、あるいは他の数値であるのかを、別途「検証」する必要があります。

ですから、ここからは、PCR検査の特異度と、感度をそれぞれ検証していきます。

追って投稿する、別文、特異度の検証に続きます

これを含め、一連の文は無料で公開する予定ですが、書くのにも相当の時間がかかって、お金の消費はとても大きいです。無料公開の一方で、まとめてAmazonで本にしたいと思っているので、もし読む価値があった、と思われた場合は、(無料公開はたぶん継続するものの)、Amazonや他のプラットフォームで本を買って頂けるとたいへんありがたいです。

江南 著作物、記事一覧

上記クリックで開きます。

中国のコロナ対策 part1 — China vs Covid19 Information Source
項目別に、part4まであります。

検査抑制論と、抑制を主張した主な専門家、及び論者:コロナ新型肺炎とPCR検査

検査抑制論と、抑制を主張した主な専門家、及び論者 part2:コロナ新型肺炎とPCR検査


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江南
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