30年間犬派の夫婦が猫を飼うようになった話

始まりは、父から送られてきた一枚の写真だった。

段ボールの中に入った子猫が写っている。
子猫はまだかなり小さく、父の掌に乗りそうな大きさに見えた。

どうしたのかと聞くと、母と2人でウォーキング中、とあるアパートの駐輪場の影で一人ぼっちで鳴いていたのを見つけ保護したらしい。

実家で飼うのかと聞くと、動物病院に連れて行き保護してくれる人を探すと言う。

父と母はもともと犬派で、結婚してから約30年、犬は3匹飼ってきたが猫は全く飼ったことがなかったし、犬ですら1番最後に飼っていた子が7年前に亡くなってからはずっと飼っていなかった。
「飼いたいとは思うが、旅行に行きづらくなるかもしれないし今から飼っても私たちの方が先に死ぬかも…」というのが2人の考えだった。


でも、私には最初から分かっていた。
(絶対に手放せなくなって家族になるだろう…!)


そして私の読みは見事的中する。
猫を保護してから2日後、病院に連れて行くと言っていた日の夕方、母からLINEが来た。


「ウチの子になりました」


エヘヘ、みたいな顔の絵文字付き。
やっぱりね、そうなると思ったんだ。

そうしてその猫は家族になった。

最初は小さくか弱かった子猫だが、あっという間に大きくなりヤンチャぶりを発揮しだした。
鉄砲玉のように部屋を駆け回り、テーブルに乗り、障子を破る。
母は部屋に小物を飾るのが好きだったが猫が全部なぎ倒すので、久しぶりに実家に帰ったら前よりシンプルな部屋になっていた。
2人とも猫のヤンチャぶりに口では嘆いているけど、何だか楽しそうだ。

猫は母によく懐いていて、何故か父のことをちょっと敵対視している。最初に拾ったのは自分なのに…と父がちょっと拗ねているので面白い。
母は母で、もともと猫があまり好きではなかったのにすっかり猫の可愛いさにやられてしまったらしい。

「猫チャン、お母さんのことが好きなの〜〜!?」
と高い声で猫の腹に顔をぐりぐり押し付けている母を見て、
(猫は人間をおかしくさせるんだな)
と確信した。


それにしても、縁とは不思議なものだと思う。
動物を飼うつもりなど、それも猫を飼う気なんて全くなかった60代の犬好き夫婦が、人生の(多分)最後に共に暮らす動物が猫になるとは。

もしあの日、コロナの影響で外出自粛が続き運動不足だからと2人でウォーキングに出かけていなかったら。
2人が駐輪場を通るタイミングで、猫が鳴かなかったら。
父が猫の鳴き声に気付かなかったら。

そんな小さなことがタイミングよく重なりあって今があるんだと、あらためて感じる。

そんな縁あってやって来た我が家の猫は鍵しっぽだ

「鍵しっぽの猫は幸運を招く」と聞いたことがある。
幸運を運んできたのかは分からないけど、猫が来てから確実に父と母の笑顔が増えたと思う。
60歳を過ぎて初めての猫との暮らし、犬とは違った生態、発見や気付きがあってきっと楽しいのだろう。
だから娘として猫には感謝している。

猫と目が合ったので(2人を頼むよ)とテレパシーを送ってみたけど、大あくびされた。
猫には人間の都合なんてお構いなしだ。
でも、それが猫のいいところ。

これからも猫との新しい暮らし、猫に振り回されながらも笑ったり驚いたりして2人と一匹の毎日が楽しく続いていくことを願う。