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一匹の蟻

 今日は、息子の大学のキャンパスで友人と一時間ほど話をした。いつもは、コーヒーショップでケーキセット等を頼んで話すのが多いけど、今日は、私にその後予定があったので、ここでおしゃべりすることにした。

 大学の桜の木はすっかり葉桜で、その下の半日陰のベンチでは、時々心地いい風が吹いていた。何だか、逆に贅沢な選択をしたな~と、感じた。

 風が吹くと、友人の肩や胸元に桜の花の軸や、蟻や、黄緑色の小さな尺取虫まで乗っかっているのを見た。春だ、ここに春が集まっている・・・!と感じた。
 時々、私はそれらを取ってあげながら、呑気な時間を過ごした。

 あっという間に、時間が過ぎて、私は友人と分かれて大学病院へ。キャンパスを出るときに私も、自分の体を丁寧に掃って、花の軸や虫たちを今後の予定に巻き込まないように注意した。

 大学病院の総合受付を済ませて、診察階の3階へ。待合室の椅子に腰掛けLINEなどして30分ほどしたら、何かが左腕のところで動いている・・・・?

 あ、蟻だ。連れてきてしまった~。

 さあ、どうしようか・・・

 この子をここに放置して、私だけ診察室?・・・無理だ。何より虫好きな息子の母として、それは私にはできない。

 受付番号を確認して、私の順番は.…次の次。
 よし、行こう!

 この子を外の生け垣に連れていくのだ。

 バッグの中には、ティッシュもあるし、蟻さんをそっと包んで落とさないように、開け口を強く絞って・・・。
 サッササッサと歩いて、エスカレーターに。実は約1年前に手術をしたこの膝、ここまで俊敏に動けるなんて!

 大学病院の出口から出て、目の前にはツツジが咲く生け垣を見つけた。
一安心、良かった。

 ティッシュをそうっと広げると、中には小さな蟻さんがちゃんといました。

 君は、息子の大学のキャンパスの蟻さんから、大学病院の生け垣の蟻さんになるんだよ。バイバイ、元気でね。

 私は、何か特別なことをした気持ちで、その後診察室の待ち合いの椅子に戻った。

 ・・・・・何か、ちょっとしたヒーローになったような気分だった。


 でも、こんなことはうちの息子にとっては日常茶飯事。

 蟻も、蜘蛛も、毛虫も。


 春が来た。こうして虫たちが活動する季節になった。今年も、息子は虫と過ごすのだろう。


 ラッキーなA&Y

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