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正しき三方を、

 大手総合商社、伊藤忠商事の創業者である初代伊藤忠兵衛は、伊勢大阪と並ぶ三大商人のひとつ、近江商人の家に生まれ、1858年に15歳で持下り商(いわゆる行商人)として開業。肩に担ぐ天秤棒一本で麻布などを堺や紀州に売りに行き、行った先の産物を仕入れては、また持ち戻って売っていたという。
 1872年、大阪に呉服店を開業。その折、店員たちに説いた言葉がある。
「商売は菩薩の業(行)、商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの」
 浄土真宗の信仰が厚かった忠兵衛のこの説法は、のちに近江商人の哲学を代表する「三方よし」という言葉として受け継がれる。(諸説あり)

 情報の奔流が個人間売買を容易にした昨今、この言葉をとっくり聞かせたい人々がごまんといるなと痛感していたが、よもや高校生と一国一城の主に同時に聞かせねばならぬとは。

大手ECサイト「DMM.com」の亀山敬司会長は、転売を容認するかのような内容の記事を執筆したことに関し謝罪した。
 事の起こりは2019年。起業や投資のプロたちが、高校生に対し商売のいろはを説く「ハイスクールショーバイ!」に参加した高校生のうちのあるグループが、課題として出された「一人3万3000円の資金をもとに商売をする」に対し、コミックマーケットで売られる会場限定品の購入を代行するサービス「コミケ代行」を発案したことに端を発する。
 それ自体は「買いに行けない人の問題を解決したい」という目標に沿った名案であったのだが、中には1000円の本が6万円で売れたケースもあり、最終利益は元手の倍近い18万1000円に上ったという。
 これに対し亀山会長が「今回のお題にふさわしい、商魂たくましいチームだった」と評価したことについて異論が百出。実質転売行為といえる高校生の所業と、それを賛嘆する会長に対し、同社のECサイトから撤退する作家が出るなど、波紋を広げている。

 以前引用した庭師の例えではないが、若木の頃は周囲の環境や風雨に影響されやすく、お金という絶対的な価値のものに対する免疫も薄かろう。その頃から正しいお金の扱い方を教えようと立ち上がったプロジェクトは見事である。しかしそうであるなら、枝葉の広がりに殊更目を光らせなければなるまい。
 亀山会長はその後記事を削除し「作品を生み出す苦労を知っておりながら、配慮に欠けた発言をしてしまったこと、心からお詫びいたします(略)前途ある高校生らには寛容な対応を頂ければありがたく思います」とコメントしたが、高校生ともなれば、むしろ分別のつく最後の時期である。剪定すべき人の手が緩まぬことを祈りたい。

 近江商人は交通も物流も未発達な時代、多くの革命的商法を編み出し、同時にあちらの売り手のものを買い、こちらの買い手へ売る、売り手買い手の二役でもあった。
 時は移り、物と情報の流通が万人に容易になった現代。誰もが売り手にも買い手にもなれてしまうようになった。
 千円の品が翌日60倍で売れたとき、それは誰に良しになっているのか。ぽっかり開いた九割の開きは,、何処に空いた穴なのか。

 当事者の高校生たちには、同じく経営の神様とうたわれた松下幸之助が社員に贈った言葉を。

得意先から「松下電器は何をつくるところか」と尋ねられたならば、
「松下電器は人をつくるところでございます。あわせて電気製品をつくっております」と、こういうことを申せと言ったことがあります。

 慌てることはない。まず人になれ。お金如きはその手段に過ぎぬはずだ。


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