攻殻機動隊の前説みたいなもの

 1989年。と言われてピンとくる四十代以上の人は、案外少ないのではないだろうか。日本にとって激動の年。平成が始まった年だ。
 この時日本は、まさにバブルの天頂に向かっていた。三菱地所がロックフェラーセンターを買収し、その象徴とされたのもこの年だ。
 IT分野で言えば、HTMLが提唱され、日本のドメインが.jpになり、はじめて日本国産のウィルスが確認された年である。

 そしてこの年の4月。ヤングマガジン海賊版5月号にて、攻殻機動隊の連載が始まった。
 いわゆるアニメオタクの中でも誤解している人が散見されるのだが、本作の原作は押井守ではなく、士郎正宗によるSF漫画である。掲載誌が季刊(3ヶ月毎)だったため、シリーズ連載か何かと誤解されるが、無遅刻無欠席で連載されている(なんの弁護だ)
 その筆致、デザイン、省略の妙、そして背後に詰め込まれた学術書も斯くやという情報量に、漫画ファンは腰を抜かした。

 91年10月、人形使い編全話を一気に収録して単行本化。およそ2年後、映画化の提案がなされた。
 当初、映像化の話に士郎正宗は不安を抱いたが、監督の押井守の名を聞いて吹き飛んだという。それゆえ企画段階にあっても士郎からは「原作を気にしないでほしい」という以外の要望は出されず、完成後の試写会でも監督と話さなかったほどだったというが、その演出を絶賛している。

 監督 押井守、脚本 伊藤和典、音楽 川井憲次という、文字列だけでアニメファンがよだれ垂らす黄金の三人衆はもとより、パトレイバー2以降、押井作品の大番頭となった演出 西久保利彦。さらに黄瀬和哉、沖浦啓之、磯光雄らをはじめとする原画陣の生み出す濃密アニメーション。小倉宏昌の匂いや湿度まで感じるような背景美術等、特記すべき見所をあげたら、それこそ映画一本分になりそうなのだが、あなたに響くポイントが必ずあるので、初見だという方はじっくり探していただきたい。

 米ビルボード誌のビデオチャート1位などの華々しい評価と、世界中のクリエイターに与えた衝撃と影響をもって語られることになる、アニメーションのマイルストーン。1フレームたりともお見逃しなきよう。


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