ヴァーチャル神保町勉強会16回目 詩歌を読んで文脈について考える
少し遅れがちで恐縮ですが、レポートを書いていっているのは理由があって、どの回も印象に残るものばかりなんですよね。
この回も、普段より少人数の会でしたが、ご紹介いただいた詩が大変すばらしく、話題も広がったため、是非「こんな回だった」というのを書き残したい会となりました。
このときご紹介いただいたのは、茨木のり子さんの「敵について」という詩です。
是非詩集を買って読みたくなりますが、さいわい、引用されている記事がありますので、取り急ぎこちらにて確認することができます。
https://blog.szk.cc/2009/10/23/know-your-enemy/
敵なるものがあったときは、ようするに「闘争か逃走か」というわけで、全力で排除を試みたり、あるいは距離を取ろうとしたりと、関わりを無効化したくなるわけです。
しかし、だからといって敵は無いほうがいいのか。
今回のこの詩とそのご紹介は、このような疑問を投げかけてくれました。
考えてみれば、敵なるものはこちらを十分に研究しているような場合も多いわけで、味方以上に自分 (たち) を熟知している場合もおうおうにしてあります。特に、攻撃としてこちらの弱みを突いてくるようなとき、こちらは自分 (たち) の弱みに気づくことができます。
あるいは、主義主張が異なるために敵となった者について言えば、こちらにはない観点をもたらしてくれるわけです。
それから、ライバルとして技術を高め合う敵対関係もあるでしょう。それはときに大きな喜びともなりえます。「感謝するぜ お前と出会えた これまでの 全てに!!!」というわけです。
いずれの場合であっても、敵なる存在こそ、自分 (たち) を強くしてくれるわけです。その意味で、敵対関係という関係が生まれないようにしたり、生まれた敵対関係について相手を排除したりするよりも、むしろ敵対関係なる関係を維持しているほうが、好ましいのかもしれません。
最適化問題としても考えてみましょう。
世界の N 人の人間から、自分ともう一人を選んできましょう。つまり、N - 1 通りの二者関係を考えます。ほとんどの場合、その関係は便宜上無関係といって差し支えないでしょう。N - 1 のうち、一握りの関係が顔見知りや類するもの。そのさらに一部の関係が親しい関係や、あるいは他の特殊な関係となってくるでしょう。
このとき、今ある人との間で持ちうる最良の関係が、実は敵対関係だ、という状況も、少なからず発生するのではないでしょうか。なにしろ N - 1 は大きく、しかもときとともに何が最良の関係であるかは変化していくのですから。
なお、以前参加した「『さびしすぎ』ない日常への一歩」というイベントでは、「友だち」以外にもいろいろな種類の関係があってもいいのではないか、という議論がなされていました。このことも思い出されます。
https://wezz-y.com/archives/72916
今一度、詩「敵について」を振り返ってみましょう。
現代においては奇しくも見えない敵との闘いが多く、敵とはっきり出会えたと分かる瞬間を、驚きを持って迎えられる瞬間が少ないように感じられます。
はっきり敵と分かった上で、お互いに生産的であるほうを暗に目指していく。もしこのような裏の目的を抱こうにも、敵とハッキリ分からなければ難しいわけです。
人対人に限っていっても、敵だと思ってはいけない、という同調圧力があるのであれば、敵対関係に移行したほうがむしろお互いに取っていい場合に、無理して味方のふりをし続けるなどの息の詰まる状況が生じるかもしれません。あえて関係として敵対関係を持つほうが、むしろインクルーシブなのではないか、という観点は、是非持っておきたいと思いました。
さて、このトピック自体が大変広がりがあり、将来の回で「敵とはなにか」なども是非やってみたいところですが。
もともとやんわり狙っていた、詩のハイコンテキストさや、環境/文脈との関わりについても、少し触れておきましょう。
詩というのは、基本的に文脈から孤立したフォーマットだ、ということを気づかせていただきました。
逆に言えば、どのような文脈、文化、歴史、思想、人を与えるか次第で、異なる解釈をもたらしてくれる、ということになります。意味のジェネレーターのようなものだと思うのが良さそうです。
具体的に今回の詩を見ていくと、ときを経るごとに敵なる存在、あるいは敵なる概念は変化しており、ここ十数年だけを見ても、それなりに大きく変化していることでしょう。
それゆえ、どのようなもの、あるいは性質を持って敵とするかは同じではない分だけ、時代ごとに異なった恩恵をこの詩から受けられることになるでしょう。
今この時代において敵とは何で、どのような敵対関係が私たちを強くしてくれるのか。できればはっきりと分かる形で敵と出会いたいが、それはどのようにしてか。引き続き考えていきたいですね。
それでは、今回もありがとうございました。
また何らかの関係として、お会いしましょう。
参考文献
http://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-870326-8
2011
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?