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【後鳥羽上皇流刑伝説 #3 作られた物語】異郷淹留譚(いきょうえんりゅうたん)としての伝説


おはようございます。流刑伝説の3回目です。投稿画面を写真から変えてみました。いかがでしょうか。よろしければ、皆様のご感想、ご評価をお教えください。

1.日本の物語や伝承
日本の伝説にはいろいろありますが、大きく物語と伝承に分けられます。
作者が意図を持って創作したのが物語とすると、自然発生的に言い伝えられたのが伝承と言えます。
後鳥羽上皇流刑伝説は、明らかに人が作った物語です。人々が、自発的に言い始めた伝承とは異なります。
日本に残されている物語と比較してみましょう。そうすれば、後鳥羽上皇流刑伝説の理解が進むはずです。

2.日本の物語や伝承の分類
日本の物語や伝承を分類するとすれば、下記のようになります。
この分類は、国文学者で民俗学者の折口信夫さんの研究や思想を体系とした、折口学(おりぐちがく)を参考にしています。
すべてが分類できるかは、専門家ではないのでわかりませんが、だいたいの伝説、物語は分類されます。

1.英雄譚
2.変身譚
3.貴種漂流譚(貴種流離譚)
4.動物報恩譚(報恩譚)
5.異類婚姻譚
6.異郷淹留譚(仙境淹留譚)(いきょうえんりゅうたん)
7.鬼退治伝承、妖怪退治伝承
8.勧善懲悪

3.分類の説明
なじみのない言葉とは思いますが、項目別に例を挙げていきます。

英雄譚は、英雄の活躍を表現した物語です。日本書紀や古事記に出てくる日本武尊の物語です。ギリシャ神話など、西洋にも多く存在しています。

変身譚は、人間や動物、植物などが異なるものに変わる物語です。狼男や日本神話に出てくる櫛名田比売(くしなだひめ)の物語です。

貴種漂流譚(貴種流離譚)は、王や神の子孫が、若い時に苦境に陥り、他郷をさまよい、敵と戦いながら成長して、王や神になる物語です。源氏物語や伊勢物語、最近ではライオンキングなどがあります。

動物報恩譚は、動物が恩返しをする物語です。舌切り雀、鶴の恩返し、分福茶釜と多く存在しています。笠地蔵のように、対象が動物以外のパターンも存在しています。

異類婚姻譚は、人が人とは違うものと結婚する物語です。結婚する相手は、生き物とは限らず怨霊や妖怪もあります。雪女など、世界中に存在しています。

異郷淹留譚は、どこか違う場所に行って滞在して帰ってくる物語です。逆のパターンの異世界から来て人間界に滞在して帰っていく形式もあります。竹取物語や浦島伝説、羽衣伝説などの多くのパターンが存在しています。滞在する先によって異郷と仙境に分けられます。

鬼退治伝承、妖怪退治伝承は、鬼や妖怪を退治する物語です。桃太郎や八岐大蛇退治のスサノオの物語です。日本各地に残っています。

勧善懲悪は、最後に悪が滅びて善が勝つ物語です。聖徳太子の十七条憲法にも記載がある、古い概念ですが、伝説や伝承にはあまり例がなく、曲亭馬琴の南総里見八犬伝など文学作品に見受けられます。

4.後鳥羽上皇流刑伝説は異郷淹留譚
後鳥羽上皇流刑伝説は、後鳥羽上皇が備後地方の各地に滞在する伝説ですので、上記の項目に分類すると、異郷淹留譚に当たります。
伝説の流れは、京の鳥羽殿を出て、海路で長井の浦に上陸する。その後、上皇が備後地方の各地に滞在して、北上する。つまり、流刑地である、隠岐の島に向かって行くことを示します。
出雲三成で伝説は途切れるのですが、同じ出雲の島根半島の港から、上皇が船で隠岐の島に帰っていく伝説です。

後鳥羽上皇流刑伝説を簡単に言うと、海から来た後鳥羽上皇が備後地方に滞在して、海に帰っていく伝説なのです。
後鳥羽上皇の行き先は、当時は船でしか行けない隠岐の島です。ですので、伝説の始まりは、後鳥羽上皇が船に乗って海から登場しないといけないのです。
ですから、史実にはない、後鳥羽上皇が海路で備後地方に来る必要があるのです。浜から海の中の竜宮城に行って浜に帰ってくる、浦島伝説の逆パターンになっています。
後鳥羽上皇流刑伝説の構成は、月から来たかぐや姫が月に帰って行く、竹取物語と同じと言えます。

5.後鳥羽上皇流刑伝説は人が作った物語
後鳥羽上皇流刑伝説は、異郷淹留譚ですので、上皇の御陵は伝説のルートから外れた、三次市作木町にあります。ルート上に御陵が存在すると、途中で、上皇がこの世から去ってしまわれるので、伝説のプロットが成立しなくなります。ルートから外れた地に伝承されたと考えるのが妥当です。

6.終わりに
では、誰が、どんな意図で作ったのでしょうか。
考えられるのは、乱に勝利して上皇を流刑にした鎌倉幕府側か、乱に負けて権力を失った朝廷側かのどちらかしかありません。
次回は、同じ吉備に伝承されている他の伝説と比較して、後鳥羽上皇流刑伝説を考えていきましょう。

これからも伝説を紹介していきます。しばらくお待ちください。

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