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「3年3割」問題の何が悪いのか!?

自己紹介

ご覧頂きありがとうございます。新卒で食品会社に就職し、営業職を経験したのちにアメリカの子会社に赴任。10年間超海外駐在しています。
自分自身への備忘録も兼ねてアメリカでの体験や自身の考えをnoteに残していきたいと思います。同じ境遇やこれから海外に挑戦したいという方にとって少しでも参考になれば幸いです。

始めに

最近、メディアにもよく取り上げられている「3年3割」問題。
若年者の忍耐力の無さが原因というような風潮になっているのかもしれませんが、私はこれには日本の労働慣習における構造的な問題が潜んでいると考えています。

本稿では、「3年3割」問題が日本の労働環境に与える影響や、その背景にある要因について考察していきたいと思います。

「3年3割」問題とは?何が問題?

まず、3年3割問題とは、新入社員や若手社員が入社してから3年以内に3割が退職するという現象を指します。

では、なぜこの3年3割問題が問題視されるのでしょうか?
それにはいくつかの要因が考えられます。まず、企業側にとっては新たな人材を育成し、定着させるためのコストや労力が無駄になるという点が挙げられます。

また、短期間での人材の入れ替わりは、チームの安定性や業績にも悪影響を及ぼす可能性があります。情報やノウハウが他社に移ってしまうリスクもあります。

つまり経営リソースの損失や流出が問題視されているのだと考えます。

被雇用者視点としてはどうか?

なぜ「3年3割」問題が発生するのか、被雇用者視点から考察してみたいと思います。

私は「3年3割」問題には、配属ガチャや上司ガチャによる不公正さや、キャリア形成の不透明さ、将来への漠然とした不安、個性の発揮の制約等が潜んでいると感じています。

特に配属ガチャに関しては、就職活動中は「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)のように個性を求めておきながら、入社した途端にその個性を潰すようなものです。

例えるなら、これはまるでサッカー部に入りたいのに、野球部に入れられるようなものであり、不公平感と共に個々の能力や適性が生かされず、モチベーションの低下や離職の要因となっていると感じます。

ただそれらは今に始まったことではなく、以前から被雇用者側としては同じ思いを抱いていたのではないでしょうか。

典型的なロスジェネ世代(バブル経済崩壊後の超就職難期に学校を卒業した、就職氷河期世代)の私も例外に漏れず配属ガチャを経験しました。

私の場合はマーケティング部を希望していましたが、営業に配属されました。いきなりマーケティング部ということは極めて稀ですので、元々あきらめていた部分もあり、営業に配属されたことは驚きではありませんでしたし、営業⇒マーケティング部という異動事例も多くもありました。

では、なぜロスジェネ世代では「3年3割」問題が出てこなかったのでしょうか。私には2つの理由があると思っています。

理由その①:働けるだけありがたい
理由その②:被雇用者の意識の違い

何と言っても、30年に渡るデフレ不況で「就職先があるだけマシ」「正社員になれるだけマシ」というマインドがつい最近まで就活生にあったのではないでしょうか。

その状況にあってはサッカー部に入りたかったけど、野球部に配属されても所属する学校(企業)があるだけマシだと考えるのは理解できます。
私自身そんな心境でした(今では営業からスタートできたことがよかったと思っています)。

そしてこの30年で雇用者を取り巻く環境も大きく変わってきたことが被雇用者の意識の違いにつながってきていると感じます。

トヨタのような日本を代表する企業ですら、「終身雇用を守ることが困難になっている」と発言しています。今までの日本の雇用環境は滅私奉公することで企業が従業員の人生の面倒を見るという「持ちつ持たれつ」の関係でした。

しかし残念ながら誰の目から見ても、大きく環境が変わり制度疲労を起こしていることは明白です。企業側が面倒を見てくれないのだとしたら、自己犠牲を払って配属ガチャや上司ガチャに耐えている余裕はありません。

「持ちつ持たれつ」の関係性を一方的に解除されたのであれば、被雇用者側としても一刻も早く、市場価値を身に着けなくてはなりません。

もちろん忍耐が足りないという方も中にはいらっしゃるとは思いますが、私は今の20代(いわゆるZ世代)は幼少期からそういう制度崩壊をずっと感じてきて、少しでも早く「何者」かになることをずっと求められてきた世代なのではないかと感じています。

若い頃(具体的には18~25歳)の不況経験が価値観に影響を与えることを米国のデータから実証的に明らかにしており、その価値観はその後年齢を重ねてもほとんど変わらない。

経済学者のギヴリアーノとスピリンバーゴが2009年に公表した論文より

アメリカは「3年8割」

一方で、平均的なアメリカ人は生涯で平均11の職を経験します。
つまり平均転職回数は10回です。

アメリカに定年退職という概念はありませんが(雇用者が本人の意に反して退職させること自体違法)、例えば大学を卒業してから60歳までの38年間働いたとすると、3.8年に1回転職をする経験です。
私のアメリカ人同僚たちの職歴を見ても3.8年に1回という頻度に違和感は感じません。

それが平均的な転職期間だとすると3年間で約8割の社員が転職をしている計算となります。
そしてそれでもアメリカの雇用環境は問題なく機能してます。

3年で3割離職することが問題ではないはず

アメリカの事例を鑑みると、3年で3割離職すること自体が問題ではないはずです。

むしろ、問題はその背後にある要因や、労働環境にあるのではないでしょうか。

私の頃もよく言われていましたし、今もおそらくはそうなのだろうと思いますが、よく「3年間は給与泥棒」と言われました。これは3年間は給与に見合わないアウトプットしか出すことをできない(つまり、それでも雇用し続けてくれる会社に感謝しろ)という意味合いだと私は解釈しました。

しかし、経営目線で見ると入社して3年間も給与に見合わない働きをさせること自体が問題です。むしろ経験が伴っていなくとも、即戦力となれる役割を与えることや経験値・スキル不足を保管する仕組みやシステムの構築が重要ではないでしょうか。

アメリカはそれを上手く仕組み化して属人的な要素を排除していると感じます。それが多くのシステム会社やプラットフォーマーがアメリカから出て来ている理由の一つではないかと考えるくらいです。

最後に

「3年3割」問題は、日本の労働慣習や企業文化の見直しの契機とも言えます。従来の終身雇用から、柔軟なキャリア形成やスキルの習得・活用を重視する労働市場への移行が求められていると感じます。

言い換えると「雇用者が被雇用者を選ぶ」時代から「被雇用者が雇用者を選ぶ」時代に入りつつあるように感じます。売り手市場の就職戦線もその後押しをしているように感じます。

むしろこの問題に真摯に向き合えない企業は、ますます労働力担保が困難になってくるとさえ感じます。

そう考えると「3年3割」問題を忍耐力の無い若年層の問題と結論付けるのではなく、政府や大手企業が先導して日本の労働環境の改善や新たな雇用慣行の確立に向けた議論や取り組みを行っていくことが望まれます。


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