【短編小説?】熱的死の果ての
レッド・リアリティ見てたら思いついた
それは「何もない」ということすらない灰色の中を漂っていた。
その宇宙は熱的死を迎えたらしい。だから「それ」以外の構造物は何もないわけだ。光も音も水も空気もない、物質もない、時間も空間もない、差異も境界もない。「無」さえもない。なぜなら「無」をつくるためには「ものに溢れた世界の中の、ものがない空白」という観念が必要だからだ。
全てのエネルギーは散逸し、全ての結合は解かれた。
よく知られた物体の質量の大半は、実のところ素粒子を結合させているエネルギーである。ゆえに、エネルギーが散逸すると我々は肉体を保てない、はずだ。
だというのに、それこそ神とかいう失われた概念の思し召しだろうか──それだけが散逸することなく、何もないところにいた。
まあ、「ところ」といってもそれは「空間」ではないのかもしれないが。
かつてはそれにも名前があった。
だが今──とはいえ時間自体がもはや存在しないから、「今」とは便宜上の呼び名だが──はもうない。ことばは失われてしまったのだ。
何者かの寵愛によって物理法則を凌駕してかたちを保つそれは、それだけで独立して存在する一つの閉じた世界であった。
「ここ」には何もないが、それだけがものであることによって空間である。「今」には始まりも終わりもないが、それだけが測定できることによって時間である。
それはかたちがあるというだけで、文字通りこの死んだ宇宙の「すべて」であった。
それはこんな特徴を持っているようだ。
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