ネット動画のキャプション-ルール作りの提案
4月29日のnote"ご存じですか、バリアフリー上映"で書いたように、動画にもアクセシビリティ対応が必要だ。
米国のテレビ受像機には、聴覚障がい者のための配慮としてクローズドキャプションと呼ばれる文字多重放送規格の搭載が、“障害を持つアメリカ人法”で義務付けられている。日本でも放送法をもとに総務省が視聴覚障害者向け放送の普及促進を1997年からしている。またウェブアクセシビリティの規格であるJIS X 8341-3にも、動画に関わる適合レベルがある。
ただ、確認のため政府インターネットテレビを見てみたところ、以前は一部字幕があったように記憶していたのだが、仕様を変えたのかいくつか見ても字幕が表示されるようになっていないようだ。日本の宇宙開発の動画のうち、一部インタビューで画像埋め込みタイプの字幕が出てはいたが。
キャプションのルール作り
さて、「音声ガイド」と「キャプション」のうち今日は「キャプション」のを取り上げる。
キャプションとは発言、物音など音声を文字にして画面表示したものだ。音だけで提供されるシーンがあった時にそれをテキストで表記しないと情報が伝わりにくくなる。それが内容に影響があるものであればなおさらだ。
セリフやナレーションだけを並べたら済む、というものではない。
ただ一画面に表記できる文字数は限られている。
洋画を見ている時に、聞き取れた英語と日本語の字幕の文字(言葉)量に差があることに気がつくだろう。
次に紹介するのは、2013年に日本で公開された「きっと、うまくいく」(原題 3 Idiots/2009年公開)というインド映画の中での主人公の英語のセリフだ。
"The lion in a circus learns that he needs to sit on the chair if his owner has a whip in his hand. But that lion is called well-trained, not well-educated."
これを先日の機械翻訳の話(単語の合間にスペースを入れた時の機械翻訳問題)で好成績だったWeblio翻訳に訳してもらおう。すると次のようになった。
彼の所有者が彼の手で鞭を持っているならば、彼が椅子に座る必要があるということを、サーカスのライオンは、知ります。
しかし、そのライオンは、よく訓練され、教養がないと言われます。
‥判り難い日本語になってしまった。しかも、元が長い話し言葉だ。どう訳して表示しようか。これならどうだろう。
サーカスのライオンは、飼い主がムチ打てば従うことを学ぶ。
でも、それはしつけられたということで教養が身についたんじゃない。
これも長い。映画字幕にいれたら文字数が多いだけで読むのも疲れるし、肝心な映像が追えない。実際の字幕ではどうだったろうか。
ムチを使えばライオンも芸をする
でもそれは訓練で教育じゃない
おっ、これは視野にぱっと飛び込んでくる長さ。映像の邪魔にもならないだろう。要約はされているが主人公が言わんとしていることは伝わる。
では、動画を作成してインターネット上に公開するときキャプションを付ける場合はどうだろうか。
キャプションの文字数についてのこれという法律や決まりはないのだが、ガイドラインを作成するならば、一つの提案として日本語であれば目安として
1度に表示するのは2行までで、1行10文字から20文字程度。
が読む側にとっても負荷が少ないと思われる。なお最低2秒間は表示させよう。映画館とは違い、パソコンで字幕を見ているのだからモニターの大きさも考えると文字が詰め込みがたい。ストレスなく文字を追いつつ、もちろん映像もみられるよう配慮が必要だ。
情報量と文字数の兼ね合い
早口の会話を文字にそのまま表す、つまり全文入力すると文字数が増え、かえって文字が読み取りにくくなってしまう。そこで、講演やセミナー、討論会などでリアルタイムで文字おこしをする「パソコン文字通訳」では要約での入力もしている。
パソコン文字通訳とは、話者が話していることを文字おこししてそれを前方のスクリーンに映し出すやり方だ。1対1ならば筆談で済むが、それを複数の対象者に見せているといったところだ。
要約も当然やり過ぎはよくない。動画の字幕として提供するならば、言いよどみや言い直しは省いても構わないだろうが、文字表示に差支えないように正確に書き起こす。
字幕をつけられない動画も
中にはどうしても字幕を付けられないものもある。テレビ放送については、視聴覚障害者向け放送普及行政の指針で「もともと字幕付与可能な放送番組」という言葉が出てくる。
①技術的に字幕を付すことができない放送番組(例 現在のところ、複数人が同時に会話を行う生放送番組)
②外国語の番組
③大部分が器楽演奏の音楽番組
④権利処理上の理由等により字幕を付すことができない放送番組
上記①~④については除くとされている。
ウェブサイト上に動画を公開するのであれば、字幕として提供するのは難しくても、文字おこしをしたものをテキストデータとして別に公開さることはできるのではなかろうか。
その他キャプションで気を付けたいこと
この他にもキャプションとして表記するときに気を付けたいことがある。
・話者の区別
2人以上の話手がいる場合は話者の区別がつくよう、切り替わりを明確にしよう。やり方としては話者名を括弧書きにしたり、色を変える方法もある。イメージとしては、デュエット曲のカラオケ画面といったら伝わるだろうか。
なおナレーションは< >で囲むと区別が付きやすい。
・効果音や状況音
発話以外の効果音や状況音を必要に応じて記述する。
(拍手)
(音楽)や「♪」
(電話)
(爆発音)
等といった具合。
さいごに~日常でも字幕を試してみよう
これも前に紹介したかも知れないが、キャプションを表示するには2つの方法がある。
「オープン・キャプション」と「クローズド・キャプション」だ。
前者のオープン・キャプションは、いわば字幕が出っぱなしの状態。後者のクローズド・キャプションは任意で字幕を表示させたり非表示にしたりと切り替えができる。
YouTubeはクローズド・キャプションが使える。対象となる動画は、所有者が字幕を追加した動画と、YouTube の自動字幕機能を利用したものなので必ずではないが、容易に切り替えができる。
この機能、決して聴覚障害者のためだけではない。
例えば音が聞き取りにくいときや、大きな音が出せないとき、もしくは音を出せないとき(例えば電車の中でとか)に使うと便利だ。英語の動画であれば英語の字幕があると英語学習者の役にも立つ。
字幕を付ける機会がないという方も、逆に利用者として試してみてはいかがだろうか。
字幕には限界があります。微妙なニュアンスやイントネーションは文字にしても皆同じになってしまうからです。
「パソコン文字通訳による『話されたことば』と『書かれたことば』の伝達情報の比較(2012 神山)」にも"声の大小やイントネーションなどの話し方(準言語)は「書かれたことば」になったとき、発話者の意図が伝わらない、伝わりにくくなるのではないか、と感じていた"とあります。
日頃意識していませんが、情報は様々なものから得られているのだなと実感させられます。
(了)
ヘッダー写真 撮影地 ニュージーランド 南島 ©moya
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