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贈り物を届けるように仕事をしよう

一緒に働く仲間にはよく伝えている。

「贈り物を届けるように仕事をしよう」

相手のことをどれだけ思いやれるか。
自分がどれだけの幸せな驚きを相手に提供できるか。
ぼくが大切にしているのはそれだけ。
その繰り返しで今がある。

今、3つの会社の代表をして、暮らしにまつわる事業をしている。
コロナ禍において一番大きな打撃を受けたのが飲食事業「都電テーブル」。

「まだ営業する?」「はい営業します」
新たに東京で63人の感染が確認され、累計で362人と急増傾向にあった3月28日のやりとり。

その翌日、ぼくらのお茶の間のスターがコロナで亡くなった速報が流れた。
いつもブラウン管の中の人だったけれど、親戚のように身近な存在の死。

「なんとかするから休め。もういったん閉めよう。絶対潰さないから」

スタッフやパートさんを感染させたくない。お客さんに感染させたくない。そもそもお客さんも来なくなる。開けているほうが損失が大きくなる。ここは代表のぼくが決断しなくてはダメだ。決意を固め連絡したが、反応は鈍かった。まだ緊急事態宣言がでる一週間前。休業しているお店のほうが少ない。無理もない。

先の見えない事態。絶対潰さないなんて、目一杯の強がり。実際、ここで一ヶ月でも閉め続けたら、コツコツ積み重ねてきた雀の涙ほどのキャッシュは、家賃に、人件費に、借入返済などで底をついてしまう。(後日談だけど、お恥ずかしいことに程なくしてあっさり運転資金ショートの見込みとなり、腹括って再投資して、金融機関から新たに融資を受けた)

「お世話になっている常連の皆さんの健康をこんなときこそ食で支えたい」

パートさんには休んでもらって自分ひとりで店を開けようと奮闘していた総店長みひろの想い。

しばらくしてまた彼女から着信があった。

「やっぱり純さんが言うように、顔が思い浮かぶ大切なお客さんのことを考えたら休むべきですね...」

開けている以上、応援で来てくださる温かい常連さんはいる。不特定多数の方が出入りする以上、感染源になる可能性は否めない。

ぼくらのお店はすべて商店街にある。
お世話になっている周辺のお店にもご迷惑をおかけしてしまいかねない。

残った食材を極限まで使い切り、4月3日より全店完全休業に入った。

ちょうど5年前の2015年4月4日は「初まりの始まり」と題し都電テーブル一号店をプレオープンした日。ぼくが小さい頃から両親が営んでいた「香味亭」という洋食屋のあった場所のすぐ上の2階の事務所スペースをリノベーションして、友人たちとつくったお店。プレオープン期間に駆けつけてくれていた、たくさんの顔のみえるお客さんからクラウドファンディングで応援をいただいて、8月8日にグランドオープンしたときには屋外の壁面看板をつけた。千円の定食を食べに来て、スタッフが提供するサービスに感謝の気持ちとして一万円を応援してくれるお客さんたち。閉店のため、今は外されてしまったその看板を誰よりも当時喜んで、今も大切にしていたのが、オープニングスタッフで唯一今も一緒に働いてくれている、みひろだった。

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店を開けられない日々。不安は募るけど、スタッフみんなが健康でありさえすれば良いと思っていた。今まで頑張ってくれてきたし、思いっきり休め。

そのうち、ラーメンを提供している都電テーブル雑司が谷の僧侶のような佇まいの店主カジがなにやら試作を重ねはじめた。

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「ラーメンだったら、テイクアウトとか冷凍とかいけると思うんですよね」

事実ラーメンの冷凍販売はいたるところで始まっていた。ただ、なにか躊躇していた。製造をやりたかったのか。ずっと製造だけになるのも作るほうもモチベーション的にも大変だよね...

ひとまずテイクアウトから。ご近所に良くしていただいたお店だし、お持ち帰りでも何かご近所の皆さんのお役に立つことができるなら。

販売開始までカジは何度も試作を続けた。もともと研究者の彼。再現性にとことんこだわってくれた。

曲がりなりにも麺とスープのみで勝負する素ラーメンというカテゴリーで雑誌やテレビなどのメディアで紹介された味。

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「がっかりさせたくないんですよね」

都電テーブルのラーメンはスープを飲み干しても怒られないラーメン。
近所の子供たちが嬉しそうに食べてくれることがカジの一番のモチベーションだ。

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そして世のお母さんたちに「仕方ない、体に良くないけどたまにはラーメンでいっか」ではなく「このラーメンならいつでも食べさせたい」と思ってもらえることにこだわってきた。事実、うちの息子は大好きで、いつもスープを飲み干している。

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魚介と植物性の素材だけでできた添加物の入っていないスープと玉子の入っていない麺は、お肉の苦手な方、化学調味料が体に合わない方にも喜んでいただける。雑司が谷界隈、目白や池袋の街で暮らす海外からの住人にはペスカタリアンも多く、とても喜んでいただけていた。

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お店で人気だったトッピングをセットして、麺とスープを別々の袋に入れて、お家で茹でて温める。カップラーメンと同じく3分ほどで調理完了。簡単にできるって大事。ご近所と友人への配達で販売をはじめた。

反応は想像以上だった。

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それぞれの家庭のお皿に盛り付けられたラーメン。それぞれの反応。
カジにすぐに届けた。

「やっぱり嬉しいものですね」

お店で直接見れなくても、夢中で食べる顔、食べて喜ぶ顔は格別だ。

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しかも家でもスープは飲み干されていた。
みんなリピーターになってくれた。

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これだ。ぼくらがやりたかったことは。
店だろうと、家だろうと、変わらない。都電テーブルはいつだって子育てするお母さんの味方だったじゃないか。

コロナ禍で買い物にも行けず、外食もできず、リモートワークもこなし、それでも家族の健康を考え、毎日献立を工夫して料理をしているお母さんの手間を少しでも減らそう。笑顔を増やそう。今やらないでいつやるよ。

そうだ全国に届けよう

冷凍販売に関しても保健所の許可もおり、晴れてオンラインサイトのBASEで冷凍ラーメンの全国販売をはじめた。

とはいえ、まずは友人限定で。
ぼくたちのFacebookでお知らせしたら、30箱120食分は6時間程度で売り切れてしまった。入荷次第のお知らせを希望する連絡も続々と。もつべきものは友、本当にありがとう。

それからちょっと話題になって。
再入荷してもすぐに売り切れという状態が1ヶ月ほど続いた。
嬉しい反面、申し訳ない気持ちで。。。

BASEではアプリからのみできるお気に入りの「入荷待ち登録」をしてくれた皆さん、お一人おひとりに手分けしてメールやメッセージを送る日々。

もともと都電テーブルは独立した製造所のない飲食店。5月には店内での飲食の提供も再開し、夜22時まで感染症対策に気を配りながら営業を続けていた。スタッフたちは張り詰めた営業時間の中だけでなくアイドルタイムも可能な限り製造してくれた。製造所を借りること、製造してくれる先に委託することも考えた。

「ただ販売すればいいわけではない」「誰がつくったのかわからない販売をしたいのはない」「一つひとつ想いをこめてつくりたい」

贈り物を届けるように仕事をしよう。
お待たせしたとしても、一つひとつ丁寧に梱包して送ることにこだわった。

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「飲食店ではありますが私たちがもっと大切にしたいのはお家で食べるご飯です」みひろが、カジのラーメンに同封してくれたメッセージが嬉しかった。

6月1日より営業を再開した早稲田店でパートで働くお母さんたちにも製造や出荷を手伝ってもらって、冷凍できる量を増産した。お母さんたちのパワーはすごい。早稲田店ではざるらーめんなる新作も開発され、暑い夏オンラインショップでも大人気商品となった。

ただ、皮肉なことで。潤沢に在庫が整った時点で、時既に遅しだった。

「いつも売り切れ」イメージがついてしまったこともあってサイトを訪れるユーザが次第に少なくなってきた。

その状況をひとり喜んだのが息子だ。
売り切れが忍びなくて息子には少し我慢させていた。

彼は喜々として食べまくった。麺を食べきるとスープに焼きおにぎりを投入して雑炊に。更に大切に残したスープでお茶漬けに。彼はいつも食べた。冷凍庫にはストックを切らせなかった。かみさんも食べた。つられてぼくも。笑

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だから、いつも品質チェックだけには困らなかった!

今こそ、お互いにお世話になっている皆さんに食べてもらおうか。みんなで思い浮かぶあの人に送りはじめた。そのうちギフト用包装が欲しくなって商品化した。

コロナ禍で帰省もできず、会いたい人に会いにいけなくなった夏、お盆に親戚一同で美味しいものを囲むことができなくなったけれど自分の好きな食べものを贈ることができる!と喜んでいただくことができた。お寺とか贈り物の多い職業の皆さんには体に優しい食品はコロナ禍の今、ことさらに重宝していただけることもわかった。だから梱包する材料も地球に優しいものに変えることにした。

環境にやさしい梱包で、緩衝材には「さらし」のみを使いました。
さらしは緩衝材として終わりではなく、台所で台拭き、手拭き、食器拭き、調理用などに長く使っていただけるように、端の部分に手作業でステッチを入れました。

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ありがたいことに定期的にリピートしてくださる方が増えてきた。お手間を減らしたいと定期便を商品化した。

「ただ定期便おくるのはなんか私たちらしくないですよね」
ラーメンが食べれない人にもスープを味わって欲しいと商品化された「黄金のだし」と、今後の新商品の「さきどり便」をセットにしようと提案したのもみひろだった。

なかには「黄金のだし」を使用した一品のレシピが季節に応じた内容でファイリングできるように入っている。

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「毎月購入いただけるって、本当にすごいことですよね。
ある意味私たちの事業を支えてくさだるファンじゃないですか。そんなファンにはギフトを贈りたいですよね。」

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みひろの山形のご両親にラーメンを贈った。

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みひろのご両親は地元の食材のトッピング。
米沢牛の最高峰飯豊牛と地の山菜が入っていてとても美味しそう。

コロナによる影響はまだまだ続いていて、まだ明日も来週も来月も来年もどうなるかわからない。

美味しく優しい食べ物で、心と身体を満たして、明日の活力にしてもらいたい。

こんなときだからこそ、誰かを想う、そんな優しい気持ちを表現するお役に立つことができたら嬉しいし、美味しいものを食べるという最高の幸せをお届けすることができたら、ぼくたちが事業を続けている意味があると思っています。

続けることで新しい発見がある。
前回のぼくの2回目のnoteが編集部にピックアップされ、PRアカウントでTweetされていた。嬉しかった。ついプレッシャーで書く手が止まってたけど、書いてみたからまた何か新しい発見があったらいいな。


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